第1章
第1話 犬養桜と、特別企画
『はい、それでは始まりました。運営公式特別企画、 “平日から夜更かし”、水曜日の司会は私、心は狼、見た目は子犬、真面目な狂犬、犬養桜が務めさせていただきますっ!』
『『『いぇーい』』』
『この番組は期間限定の特別企画で、憂鬱になりやすい平日の夜に、私達とともに笑って遊んで敢えて夜更かししちゃおう!というものでございます』
『敢えてね(笑)』
『まあ番組自体は1時間なのですがっ!平日の夜を私達と一緒に過ごしてもらえたらと思いますっ!それでは、一緒に番組を盛り上げて頂く水曜メンバーのライバーさん達をご紹介していきます!』
とうとう始まった、運営公式の期間限定、特別番組。
総勢20名のライバーが3カ月に渡り、毎週夜21時から1時間、持ち回りで配信していくことになっている。
運営主催なので、収録はスタジオだし、何なら生じゃなくて編集してもらえるからそうそう大きな失敗でもしない限りは大丈夫…なはずなんだけど。
出演するライバーの皆さんが自己紹介をしている間に、段取りを頭の中で確認していく。
この後はあれをして、これを言って、あああもう、大丈夫かなぁ。
じっとりと手のひらに汗が滲む。
第1回目なので、みんなテンションがやたら高い。
自己紹介の雑談は尺どれくらいだったっけ。
このメンバーを舵取りしながら番組MCをしていくのは骨が折れそうだ。
『は、はぁーい…、ではこのメンバーで視聴者の皆さんとともに配信していきたいと思います。それではさっそく最初の企画に……』
『おいおい、さくたん緊張してんなぁ!ぷるぷる震えてんぞ!チワワみたいだぞ』
『はい、はい、そこの先輩方お静かに! ヤジ飛ばさないでくださーい。緊張しているのは重々承知しているんですよっ!』
『あははは』
私の緊張具合をほぐそうと、出演しているライバーの皆さんからもフォローが入る。
いかんいかん。しっかりせねば。
『企画っ!企画いきます!』
そんなこんなで、周りの方々の助けもあり何とか企画は進行していく。
手元に置いてあったペットボトルの水を飲む。
最後の一口が、少しパサついた唇を濡らす。
収録開始直前に開けたペットボトルの水も、これで飲み干してしまった。
それでもまだ喉が渇いているような気がする。
そしていよいよ、最後の企画へと入る。
『それでは最後の企画に参りましょう!最後は…、愛してるよゲームぅぅぅぅ』
『うーわー、俺これやだー!』
『はっず!!』
『え、私やったことない』
『まじで!?』
『はいはい、皆さんお静かに。ライバーにも視聴者の中にも初めての方がいると思うので、それじゃあルールを説明しますね。まず最初に皆さんにクジを引いてもらい、誰がやるかを決めます。ペアでやるので2名ですね』
『うんうん』
『それでそのペアで向かい合って、片方が相手に真顔で「愛してるよ」と言う』
『ひゃっ』
『うわー』
皆さん、いいリアクションをしてくれるわ。
説明を続ける。
『言われた相手は照れたり笑ったりしたら負け。そうじゃなかったら耐えて、「もう一回言って」とか「本当に?」とか何かしら返事をして、お互いに延々とこの掛け合いを続けてください』
『……何の拷問なのこれ』
本当にそうだと思う。
いやー、私MCで良かっ…『これ、犬養も参加しようぜ』…た…え…?
『そうやね、さくちゃんもやろうよ!』
『え、え、いや、これは』
バッと運営スタッフの方に振り返り、視線で問いかける。
スタッフさん達は、にこにこと楽しそうに笑って、親指を立てている。
『わかりました…、やればいいんでしょ!やればっ!でも引くのはクジだけですからねっ! わ、私が選ばれると決まったわけじゃないんですからねっ!』
『いいねぇー!』
――なんて豪語した時に限って、フラグを回収しちゃうんだよなぁ。
『はい、それじゃあMCのさくちゃんに代わり、合図をさせて頂きますっ!準備はいいかな?』
先輩ライバーが一時的にMCを代打で進行する。
その声は心底面白そうで、声がぴょんぴょん弾んでいる。
『おっけ!』
『……ふぁ、ふぁ~い…』
『さくたん、元気よく返事っ!』
『ふぁ、ふぁいっ!』
私の目の前にはクジでペアになったライバーさん。
そしてそれと向かい合う、何故かMCから移動してきた、私。
手の中にあるクジを握りしめる。
しかも“愛してるよ”の台詞を言うのも私から。
こんなハズじゃなかったのにっ…。
『いくよ? それじゃあ、よ~い、スタート!』
『よしこい!』
『……あ…あい…』
心臓が、ばくばくと激しく動く。
以前、クレアさんとのコラボ配信で無理やりこのゲームをさせられた時も、恥ずかしさで泣きそうだったのに。
ええい、もう! どうにでもなれ!
『――あいしてるよ』
顔に一気に熱が集まる。
全身から力が抜けて、その場で膝からがくんと崩れ落ちる。
両手で顔を覆ってぶんぶんと頭を振る。
その言葉を発する時に自然と浮かんでしまった、
ぷしゅー、と全身から湯気が出てきそうだ。
まるでショート寸前のロボットみたいに。
自分の顔がどんどん真っ赤に染まっていくのが、鏡を見なくても容易に分かった。
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