第6話 また逢う日までのエピローグ


『――はぁーい、それでは皆さん、明日からは新しい期間限定の“春色ボイス”が発売となります。クラス替えをして私達ライバーと同じクラスになったていで、様々なシチュエーションボイスをご用意しておりますっ!私も参加してるよーん』

 

 そう告知すると、コメント欄にちょろちょろと色が付き始めた。

 視聴者からの投げ銭金額に応じてコメントの色が変わるシステムで、色々な色が流れていく。


『あのー、できればここでの投げ銭もいいけど、ボイス…買ってね……?みんな…?』


 わかっちゃ!と元気な返事が流れ、更に色とりどりの投げ銭が飛ぶ。

 多分、何も分かっていない。


『まぁ……いいや。ありがとう……。あ、そうそう、もう一つ告知があって』


 忘れていた。これを言わないと今日の配信は終われない。

『来月から始まる、Vtuber総勢20名で行う運営主催コラボ企画に、私も出演が決まりましたー!』


『うおぉーーー!』と皆の雄たけびでコメント欄が埋め尽くされていく。

 画面の向こうにいる沢山の人たちが、こうして私のことで喜んでくれることに嬉しさを隠せない。


『てなわけで、来月からは配信の中で持ち回りで出演し、様々な企画に挑戦していきます。皆さん、宜しくー!』


 そうしていつもの終わりの挨拶をして、配信を切る。


 次いで、SNSを開き今日の配信終了のメッセージと先ほどした告知を流す。

 コラボ企画への告知を流すと、どんどん“いいね”が押されていった。


 私、今年受験生なんだけどなぁ。

 コラボ企画だけではなく、歌ってみた動画やその他にもイベントが詰まっている。


 この4月に進級して、私は高校3年生になった。

 進学クラスなので、受験勉強も配信も、同時並行で進めていかなければならない。

 元より真面目な性格なので、どちらも手を抜くつもりはさらさらない。


 スマホが震えて、メッセージの着信を告げる。

 見ると吉谷からだった。

『今週末空いてる?一緒に勉強しない?』というものだった。


 週末といわず、最近ではだいたい放課後は一緒に勉強することが増えている。

『いいよ。どこでしよっか。どっちかの家でする?』

 送信ボタンを押して、にやける顔の筋肉を引き締めようと力を入れる。


 吉谷との関係も、勿論、手を抜くつもりはない。




 4月の進級で、私と吉谷はそのまま同じクラスになった。

 元担任からは、「有住さん……吉谷さんのこと、頼んだわよ」と遺言めいた言葉を受け取った。

 多分、吉谷のお世話係としての采配なんだと思う。


 でも違うんだけどな。

 お気に入りのゲーミングチェアに深く座り、背を預ける。


 一見すると私が吉谷の面倒を見ているように思われるかもしれないし、周りからもよくそう言われる。

 けれど、いつもこうして何かしら私を誘って引っ張って、外の世界に連れ出してくれるのは、吉谷だ。


 吉谷にとって私がいないといけないんじゃない。

 私にとって吉谷がいないと駄目なんだ。


 結構恥ずかしいことを考えてしまった。

 ちょうど吉谷から返信が来たので確認する。


『学校近くのファミレスにしよう』

 暫く考えて、返事を打ち込む。『それじゃ、休憩中に吉谷に触れないじゃん』


 すぐに既読がつき、返信が来る。

『触らなくていいからっ!勉強するだけだもん!』

 心の中で舌打ちをする。ちぇっ。


 2年の年明けから勉強し始めた吉谷は、現在かなり真面目に勉学に励んでいる。

 まぁ、私と同じ大学に行く、って言っているからだろうけど。

 ふたりでいくつか一緒に受験する予定だ。


 私も吉谷が同じ大学だと安心する。

 変な虫が寄って来ても、阻止してやるつもりでいる。


 私の彼女は可愛いから。


『洋ちゃん達も誘ったんだからね!』

 ああ、予防線を張られてしまったみたいだ。

「――楽しみだなぁ」


 ただの勉強なのに、4人で集まるというだけで嬉しくなる。

 因みに、さっちゃんや洋ちゃん達も同じクラスになった。


 はいはい、と返事を送り、犬養桜のエゴサに取り掛かる。

 最近、以前よりも私の喋り方が柔らかくなってきたらしい。

 そのせいなのか、以前よりもチャンネル登録メンバーの解析では男性だけではなく、女性ファンも増えてきている。


 犬養桜のファンが増えるのは嬉しいけれど、ガチ勢が増えると複雑なのだと、以前吉谷が言っていた。

 でも私の声が柔らかくなったり甘くなったりするのは、吉谷の影響だったりもするんだけど。コメント欄に投げられる吉谷からの投稿を見ると、つい…ね?


 因みに吉谷には、私が犬養桜だということは言っていない。

 言っていないから、教室で日々垂れ流される彼女の重いさくたん愛に赤面することもまだあるわけで。


 息も絶え絶えに感情のたかぶりを抑えていると、「有住の前で他の人の話して、ごめんね……?」だなんて上目遣いで言うもんだから、更に追い打ちをかけられ心臓を鷲掴わしづかみにされる。

 一応、犬養桜への浮気(?)はOKということにしている。


 ただ、私が把握しているだけでも吉谷が使っているお金や時間の費やし方的に、さくたんの方が本妻の立ち位置のような気がしないでもないけれど。

 どちらも私なので、自分にヤキモチを妬いても仕方がないと、己に言い聞かせている。


 どちらにせよ、吉谷は私のことが好きなのだ。

 そのことに身悶えする。


 本人はそのこと(さくたんが私だということ)に気づいていないけれど。

 私からはまだ言えない。


 それが後々火種になりそうな気もする。(実際、私が犬養桜だと知って相談しているさっちゃんに対して、吉谷は今でもたまに嫉妬している)


 だって、そうそう身バレなんてしたくないんだもの。

 あと私が犬養桜だなんて吉谷にバレたら、愛情が重たそうで明かすのが怖い。


 パソコンの電源を切る。思いっきり伸びをする。

 学校に行って、勉強して、配信して。私はこれからもこの生活を続けていく。


 大切なものはどんどん増えていく。

 クラスの友達、画面の向こうの視聴者、家族、――可愛い彼女。


 私、有住愛花は、高校3年生になりました。

 そして、これからも配信と勉強の二重生活を頑張ります。




 おわり


 ===============

 一旦、ここまでで『ガチ恋相手のVtuberは、実は同じクラスの親友だった―そうとは気づかず、今日も推しへの愛を呟いています―』は完結フラグを立てさせて頂きます。


 第7回カクヨムコンへの応募のためです。

 それが終わればまた、付き合いたてのふたりや犬養桜の配信活動、周囲との人間関係、吉谷に身バレしそうなエピ、などなど…書きたいことがちょろちょろとあるので更新していくつもりです。


 ひとまずは、ここまで。

 拙い文章を読んで頂き、本当にありがとうございました!


 良ければフォローと☆評価、お願いします(*^-^*)


【更新後の追記↓↓↓】

 完結フラグ、立てなくて良いみたい!!前言撤回します(はやい)

 一区切りつけたかったのは本当なのでお話としてはこれで第1部完って感じですね。

 あとはゆるゆる続けます~(⋈◍>◡<◍)。✧♡

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