第7章

第1話  さっちゃんは、野暮だと分かっていても案じる

 私が最近、頭の片隅で気になっているのは、ふたりの可愛い友人のことだ。


 有住愛花と吉谷歩。

 うちの学校のミスコン1位と2位でありながら、当人達はそれを鼻にかけることもなく、むしろ全く興味が無い。


 吉谷なんてこの間、昼休みに涎を垂らして幸せそうに寝ていたし。

「だらしないなぁ、男子もいるんだからそんなアホヅラして寝ないの」


 うちは女子高ではなく、共学だ。それなりに男子生徒もいる。

 親切心を出してわざわざ注意してやったのに、「別に彼氏が欲しいわけじゃないし、モテなくていいもーん」とまた寝る始末。


 この子は、黙って佇んでいれば可愛いのに。


 そう思って溜息をついていたら、たまたま通りがかった有住が「きたなっ。っていうか、もう昼休憩終わるから起きなよ」と言っただけで、渋々起き上がって座り直していた。


 吉谷は、有住の言う事だったら大体聞く。


 高2になって初めて出会ったとは思えないくらいに、ふたりはとても仲が良い。

 そう、


 周囲の人が、そのやり取りを見て思わず注視してしまうくらいには。


 始めはただの友達同士のやり取りだった。

 それが、月日が経過するごとに距離が近くなり、最近では度々有住の膝上に吉谷が鎮座するのが日常になりつつある。

 その度、私達は見てはいけないものを見ているような気持ちになる。


 そう思いながらも、ちらちらと見てしまうのが人のさがというものだけど。

 だって、あのふたり、目の保養になるんだもの。

 クラスの男子達も、何だかんだあのふたりの方を、顔を赤らめてそわそわしながら盗み見ている。


「ありずみー」

「はいはい」

 そう言って吉谷が有住の所にトコトコと歩いていき、有住があやすようにあの子を軽く抱きしめるのも。


「ありずみー」

「ん」

 そう言って吉谷が差し出した頭を有住が優しく撫でてやるのも。


 全部日常の光景になりつつある。


 その度に、相棒である洋ちゃんに「……私達もやる?」と聞き、「いや、私達がやってもあんな甘い雰囲気は出ないからやめとこう」と返答されるという会話を繰り返している。


 一見普通のスキンシップに見えるかもしれないけれど、吉谷は思いっきり無防備に有住に甘えるし、有住は普段無表情なくせして吉谷に触れるときはひどく慈愛に満ちた顔になる。


 そしてふたりともそれを自覚していないときた。


 ふたりがお互いのことをどう思っているのかは、本当のところは分からないし、それを代わりに私が語るのは野暮というものだ。


 それでも、同じクラスで仲良くなったからにはふたりのことはそれなりに大切な友達だと思っているわけで。


 だからこそ有住が周囲に秘密にしているVtuverとしての活動も応援している(そのせいで「さっちゃんには内緒の話をして私には言ってくれない」と吉谷が拗ねたらしいけど、更に仲良くなった様子だから結果オーライだと思っている)。


 でも、気になることもあるわけで。




 テーブルの上に置いていたスマホがピコン、とメッセージの着信を告げる。

 確認すると丁度いま私が気になっているふたりのうちの片割れから。『ねぇねぇ、年明け皆で初詣に行かない?』というものだった。


『いくー』

 すぐさま了解のスタンプを押す。

 少しして、有住や洋ちゃんからも『OK』のスタンプが送られてきた。


 続いて各自が空いている日にちや時間をどんどん送信していく。

 あっという間に初詣の日時が決まった。


 何だかんだ、私達4人自体、結構相性が良いと思っている。

 できればずっとこうして皆で楽しくやっていきたい。


 やっていきたいけれど、やっぱり時の流れに逆らうことはできない。

 誰のもとにも、等しく時間は流れている。


 年が明けて暫くしたら修学旅行で、それが終わればまたすぐに春休みだ。

 そして、春休みが明けたら我々は高校3年生になる。うちの学校は持ち上がりではないから、進級すれば必然とクラス替えが生じる。


 ――あと残り約3か月。あのふたりは進級してクラスが別れたらどうなるのか。


 出来ればまた4人一緒がいいな、そうでなくとも、あのふたりは一緒のクラスにしてあげて欲しいな。

 初詣の時、奴らの代わりに神様にお願いしようか。

 そんな野暮なことを考えながら、自宅のリビングでひとり年末のテレビ特番をぼんやり眺めていた。

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