第6話 聖クレアと、エピローグ

 未だ真っ暗のスリープ画面のまま、音沙汰もない手元のスマホを見て呟く。

「まだ返信、来ていないのね」


 念の為、画面ロックを解除してメッセージアプリを立ち上げる。

 やはりあの子からの返事は来ていない。

 何なら既読すらついていない。


 別に急いでいるわけではないから、いいけれど。

 そう思いながら、再度ちらりとスマホを見る。


 同期である犬養桜に、クリスマスイブ配信の連絡をしてから、約1時間。

 まだ返信は来ていない。

 配信中かと思ったけれど、彼女の配信スケジュールは把握しているので、そんなはずはない。


 いつもなら、結構すぐに返事が来るんだけどなぁ。


 まあ、彼女も現役女子高生なのだから、友達とまだ遊んでいるのかもしれない。

 そう思うと、少し寂しさが滲む。

 誰と遊んでいるのかしらと、見たこともない相手を恨めしく思う。




 高校2年生になり、同期の犬養桜――さくちゃんは、少しずつだけれど変わってきた。

 それはきっと、仲良くなった友人達の影響で。


 感情表現が豊かになったし、以前よりも頻繁に、可愛らしい表情も見せるようになった。

 そうした彼女を可愛いと思う反面、やっぱり少し寂しくもある。


 デビューする前の顔合わせで初めて出会った時、「美少女」という言葉が頭に浮かんだ。

 色白の肌にすらりとした細身の身体、背中まで伸びた黒髪に、綺麗に切りそろえられた前髪。

 整った顔立ちの彼女は、私達同期のなかでも一番年下で、人見知りなせいか緊張して恥ずかしそうにしていたのを覚えている。


「え……可愛い」

 思わずそう呟くと、自分に言われた事に気がついたのか、目が合った瞬間俯いた。

 耳まで真っ赤になっていて、その様子を見て、照れるとすぐに赤くなる子なのだと知った。

 白い肌が染まる様子は、何ともそそる――じゃない、魅力的だった。


 初めての配信を見たときも衝撃だった。

 兎に角、頭の回転が速い。

 コメントのひとつひとつに丁寧に回答したかと思えば、辛辣にスパッと返すこともある。

 その緩急のつけ方が、見ていてクセになりそうだった。


 例えば、『僕は勉強ができません』という視聴者からのメッセージに対して。

『えっと……、それはどうして?英語は、まずは――で、数学は――で、あとは現代文はまず課題文より問題文を先に読んで――』

 と、コメント欄がどよめくぐらい何とも律儀に答え。


 例えば、『さくたんって呼んでいいですか?あと、俺に飼われてみる気はありませんか』というメッセージに対しては。

『あ、遠慮しときます。既に親に養ってもらってるし』

 とバッサリ。


 頭が良いことは分かったし、そこまで物事に頓着しない性格なのも分かった。

 かと思えば、視聴者が悪ふざけで送ったエロネタもそのまま読み上げちゃう辺り、その手の知識が弱いのだということも分かった。


 最初にエロネタを読み上げた時は、わざとかと思っていたら、そうでは無いと気づいてにやにや――ゴホン、ひやひやした。


 ……この分野に関しては、私が教えてあげなきゃなぁ。

 以降、彼女に免疫をつけさせるために、事あるごとにそういうネタ振りをしている。

 ピュアピュアな彼女のためを思ってやっているのであって、断じて、私がさくちゃんにそういう事を教え込みたいからという欲求でそうしているわけじゃない。


 たまにやりすぎることもあるけれど。

 それはご愛嬌だと受け止めて欲しい。

 因みに私のすること全部を、さくちゃんはもっともっと受け止めてもいいと思うのだけれど。


 あと、ゲームが本当に下手くそポンコツ過ぎるから、もっと練習した方がいいと思う。


 つい、話が逸れてしまった。


 とまあ、同期ということもあり、私がさくちゃんを大好きということもあり、何だかんだと世話を焼いたり構い倒した結果、最近では少し反抗期気味になってきた。

 自我がちゃんとあるのは良いことだけれど、私の手元から離れないように、もっと身体に覚えさせる必要があるかもしれない。


 そんな彼女にも、さっき述べたように、最近、仲の良い友達ができたようで。

 それこそ“”を度々笑顔にさせたり、悩ませたりするような子が。


 妹分のような同期の青春を羨ましく思う一方で、年上のお姉さんとしては寂しい部分もある。

 分かりやすく言うと、嫉妬だ。


 ――出会った頃より、彼女は本当に柔らかく笑うようになった。

 できればその変化を起こした要因の中に、私からの影響もあるといいな、なんて思う。


 そう思う分には、年下の可愛い女の子に私はメロメロで、性天使をこんなに骨抜きにさせるなんて、どうしてくれようかしらね。


 だってさくちゃん、ピュアなんだもの。


 目の端で、スマホの通知が光る。

 見ると彼女からの返信で、私が投げかけたイブコラボ企画アイデアへの返答と、「楽しみにしていますね!」の文字。

 これだけで嬉しくなってしまうのだから、私も余程重症だわ。


『私も、久々の生のさくちゃん……楽しみにしているわね』

『負けませんよ!』


 ――何と勝負するつもりなんだか。

 クスリ、と思わず笑みが零れる。

 本当に、今年のクリスマスは、楽しみだ。




 =================

 はい、というわけで第5章はおしまいです。


 次からは第6章!クリスマスです!


 いつものごとく、プロットはまだまっさら。

 でも書きたいネタの大枠は決まっています。


 クレアさんにも働いてもらわないとね。


 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

 また次の第6章でもお会いできますように。

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