第5章
第1話 聖クレアは、センシティブ
『――はい、では次のお便りを読みますね~』
クレアさんの澄んだやらしい声……じゃなくて、優しい声が耳に届く。
今日はクレアさんとのコラボ配信で、視聴者からのお便りを読みながらの雑談だ。
私と彼女は、最低でも月に1度、できれば2週間に1度のペースでコラボ配信をしている。
年齢差はちょっとあるけど(そう言うとクレアさんは静かに怒る)、同期ふたりの掛け合いは、視聴者の皆からも結構好評だったりする。
それというのが――。
『さぁ、それじゃあさくちゃん、このメッセージ読んでみて~』
『……ええと、ん?あ、これ
酷い設定だな、おい。
この小説の中の私、一体何されるの。
言われるがまま暫く声に出して読んでいくと、段々と文面に違和感が出てきて……。
『ちょっ、これほぼほぼ18禁じゃないっっ!!』
『あ、バレた~?』
『バレバレよっ!!!なんてもん音読させるのよ!!この配信がセンシティブ判定受けてアカウント停止されたらどうするんですか!!今日私のアカウント枠での配信なのに!』
『でもコメント欄の皆は大喜びよぉ~?』
その言葉を受けてコメント欄を見ると、
『さくたん……、またクレアに騙されて……』
『可哀想に……』
『草www』
『さくたんすまん。うちの性天使が……』
と同情の声と視聴者の笑いが連なっている。
誰かこの性天使を止めてくれ。
はぁ、と盛大に溜息を吐き、モニターの前で項垂れる。
クレアさんとの配信はいつもこうなのだ。
エロネタの知識が乏しい私に彼女が仕掛けて、弄ぶ。
それがお決まりのパターンになっていた。
お陰様で段々とその手の知識も増えてきてはいる。
でも、クレアさんが
『嫁入り前なのに……』
『あらぁ?お嫁になんて行かせないわよぉ~?それに、私事前に確認したもの』
『え?』
『私が配信前に「私達で二次創作のSSを書いてくれている人のメッセージも入れていい?人によっては地雷だから、ちょっと迷うけど」って聞いた時、「いいですよ」って答えてたじゃない~』
『それかぁ!それって、私がどんなものか確認しようとしたら、クレアさんが「新鮮味が減るから当日まで読んじゃダメ」って言ってたんじゃないですか!』
私のその言葉に、
『犬養、それはあまりにも素直すぎだろう……』
『クレアを信用しすぎちゃいかんぞww』
『さくたんが悪い人に騙されないか将来が心配です……(既に手遅れ)』
なんてコメントが並んでいく。
確かに、この見習い天使、もとい悪魔を信用しすぎた私が悪い……。
『私って本当にダメダメだぁー……』
『あら、さくちゃんはダメじゃないわよ~?素直だし、皆からのクソコメ……じゃなくて、あらゆるコメントやメッセージにも真摯に対応するじゃない。相談にも真面目にのるし。ゲーム実況とか雑談配信じゃないときも、コメント欄との掛け合いを丁寧にするのも凄く良いと思うし、皆そういうさくちゃんが好きなのよ?』
『クレアさん……』
そうやって急に真面目に褒めてくるところ、ズルいと思う。
嬉しくて、今までされたこと全部を許してしまいそうになる。
クレアさんのそういうところ、好きなんだよね。
『ありがとうございます。とても嬉しいです。クレアさんのこと、エロしか頭にない性天使だって思うこともあるけど、私もクレアさんのそういう、人をちゃんと見てフォローしてくれる優しいところ、好きです』
『ん?エロしか頭にない……?』
『あと、例えクレアさんが未成年の私を捕まえて、いかがわしい事を教え込もうとするヤバい人でも、私はクレアさんの良さを……』
『あなたそれ、わざと言ってるわねぇ~?』
珍しく反撃した私に、『いいわよ、受けて立つわよぉ』とクレアさんの声が低くなる。
これは……イヤな予感がする。
じわり、と冷や汗が出る。
『そっちがその気なら、今日の配信はさくちゃんのチャンネル。今からすっごいセンシティブな事言って、喘いで水音とか入れてやるんだからねぇ!覚悟しなさいよぉ!』
『やめてぇぇぇぇええ!そんなことしたら、やっと通った私の収益化が剝がされちゃう!さっきも言ったけど、私のアカウント停止されたらどうしてくれるんですか!』
『知ったこっちゃないわよ~!』
『やめてぇぇぇぇええ!』
ゲンキンなもので、その日一瞬だけ私達ふたりの名前がSNS上でトレンド入りしたそうな。
一体どんなワードが入ったのよ。
エゴサしないといけないけれど、怖くて当分、できそうにない。
皆そんなに私がクレアさんにやられるのが楽しいのだろうか。
まあ私だって、満更でもないのだけれど。
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