第7話 洋ちゃんとさっちゃんは、ふたりを見守る
今朝、登校してすぐに有住から、
「
と報告を受けた。
良い感じ、というのがどんな状態なのかよく分からなかったけれど、いつも仲の良いふたりが更に仲良くなるのであれば、それは私も嬉しい。
「そっか。良かったね」と笑顔で答えたのが今朝のショートホームルームの前だった。
昨日の帰り際、有住に吉谷とスキンシップとってみたら?とアドバイスした。
さっちゃんが有住の相談事にのるようになってから、あからさまに吉谷はヤキモチを妬いていたから、それが解消されるきっかけになればいいな、ぐらいの気持ちだった。
――で、今は授業2限目、修学旅行の事前学習の時間なんだけれど。
一応、言っておくと、友達同士のスキンシップにもある程度の限度はあるもので。
「自由行動どこ行く?私、三十三間堂行ってみたいな。千手観音像が1000体も並んでいるんだって」
有住が、学校から調べ学習のために各班に配布されたタブレット端末をスワイプして、画像を見せてくれる。
「へー凄い神秘的」
「あ、いいんじゃん。私もそこ行きたい。自由行動のルートに入れようよ」
私とさっちゃんが口々に賛同する。
吉谷もうんうんと頷きながら「でも、こんなに沢山の観音様に見られたら少し怖いね」と有住が見ている画像を指さした。
「んじゃ、吉谷はここ行く時ずっと私と手を繋いでおくといいんじゃない?」
「うん、そうする」
「「へ?」」
声がシンクロしたのは、私とさっちゃんだ。
「え、え、どうしたの有住……?」
「え?どうしたのって……。吉谷が不安になるなら私が手を繋いでおけば大丈夫かなって」
ね?と隣に座る吉谷に問いかけると、吉谷も元気よく、うん!と返事をする。
ね?とか、うん!じゃなくて。
さっちゃんの方を見ると、彼女もぽかんとしていた。
良かった。私の感覚がおかしいわけじゃないよね。
とまあ、そんなやり取りがあったのが2限目で。
次のお昼時間には。
「ねぇねぇ、有住、それ私も食べたい」
「ん?良いよ。はい、あーん」
そう言って自分の弁当からおかずを吉谷の口に運ぶ有住。
ついでに吉谷の口元をティッシュで拭いてあげている。
彼女か。
「吉谷が美味しそうに食べていると私も嬉しい」
「ありがとー」
「可愛いなぁ、もう」
普段、笑顔を安売りしない有住が、微笑んでいる。
昨日、吉谷の家で一体何があったのか、聞きたいけれど聞きにくい。
「えーっと、確認しておきたいんだけどさ…」
見かねてさっちゃんが切り出す。
「ふたりっていつから付き合いだしたの…?」
あ、私が想定していたよりも踏み込んだ質問をぶん投げたな。
恐らくこいつらに気を遣う必要はない、って判断したんだろう。
どきどきしながら答えを待つ私達ふたりとは対照的に、目の前にいるふたりの頭にはハテナマークが浮かんでいる。
「え?付き合ってないよ?ふたりとも女子だし」
吉谷のその言葉に、またも私とさっちゃんは「「え?」」とシンクロする。
「さっちゃんと洋ちゃん、またシンクロしてる。面白い」
「面白い、じゃないわ!っていうかふたりとも昨日の今日で距離感変わり過ぎでしょう!昨日何があったのよ!」
先程から思っていた疑問をぶつける。
勢いに任せて質問したけれど、もうこれだけで疲れた。
有住と吉谷は若干照れながら、昨日の事を話し出す。
有住が吉谷を抱き寄せた、というあたりの話から私とさっちゃんは身悶えしていた。
何を聞かされているんだ、私達は。
一部始終を聴き終わり、何と返そうか迷っている時。
隣でさっちゃんが、面白いから黙って見守ろう、と目線だけで語り掛けてきたので、親指を立てて了承する。
「ふたりとも、何か困ったことあったら私達に言うんだよ」
「ん?分かった。いつもありがと、さっちゃん、洋ちゃん」
「ありがとー」
友達との適切な距離感を掴むのは難しい。
有住と吉谷とでそれぞれ居心地のいい距離感が、今の距離に落ち浮いたのなら、私達はそれを見守ろう。
面白いし。
「洋ちゃん……」
「なに」
「私達もあーん、ってしてみる?」
「マジでやめて。自分で食べられるわ」
「そうだよねぇ」
ふたりがそれでいいなら、いいけれど。
1月の修学旅行が、色んな意味で楽しみになってきたのだった。
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第4章はこれで終わりです!
お読みいただきありがとうございました!!
次回からは第5章。
いつもの通り、まだネタもプロットも何もないです(笑)
頑張って書くので、見捨てずにまた見に来て頂けると幸いです。
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