第2話 有住と天使は、打ち合わせる
「あらぁ、面白そうじゃないのぉ~」
「そんな面白いもんじゃないんですって。ただでさえVtuberやってることも隠してるから目立ちたくないのに」
「大丈夫、大丈夫ぅ。そんな簡単に身バレなんてしないわよぉ~」
同期のクレアさん、もとい
聖クレア、自称200歳の見習い天使。
天界から人間界に舞い降り、現在、正天使になるための修行中、という設定だ。
200歳というのは、天使からしたらまだまだ若造らしい。
念の為に説明しておくと(誰の為の説明かは置いといて)、クレアさんを名前や見た目で勝手に判断して、清楚系のVtuberだと思ってはいけない。
リアルは24歳の立派なお姉さんで、しかも結構、エロいときた。
彼女が使っている天使のアバターも大人っぽく、美しく上品な色気を醸し出している。
その状態で視聴者から来た数々のエロコメントを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げして、付いた通り名が「性天使」。
私からしたらなんとも不名誉な通り名だけど、「これがいいのよ~」とクレアさんは不敵な笑みを浮かべている。
そういえば、この人と初めてしたコラボ配信の時からなんだよな。
犬養はエロネタ知識が弱いらしい、って視聴者に言われるようになったの。
オフコラボといって、リアル世界でスタジオを借りて一緒にゲーム配信をした時。
私が食べていたアイスの棒を、何故かしきりに欲しがってきて。
「先っちょだけ、先っちょだけでも」なんて言うから「んもぅ、少しだけですよ」と言って差し出したら、棒を咥えぴちゃぴちゃ音を立てて食べだしたんだ。
私のアイス……。
「もう、お行儀悪いですよ。音を立てないでください」
「だってぇ。思ったよりも大きくってぇ。あ、因みにさくちゃん、そのまま私に、悪い子ですね、って言ってみて~」
「えっ?え、あ、わるいこ……ですね?」
「んふふ、そう。さくちゃんはいい子ねぇ」
「……? ……もう、いいから、舐め続けるならいっそのこと噛み切ってくださいよ!」
「え、そんな。……歯を立ててもいいの~?」
「歯を立てないとずっと咥えたまんまでしょう!」
ふと気づくと、目の端を流れるコメントの流れが尋常じゃなくて。
驚異的な速さで流れていくのを目の当たりにした。
「い、い、一体何が……」と見ていたら、興奮したコメントと、私へのツッコミで
『おい、たぶん犬養、気づいてないぞ』
『誰か教えてやれよ』
『こいつ……天然か?』
この流れで流石に状況に気づいた私が赤面しながら振り返ると、ニヤニヤ笑ってペロリと舌なめずりをするクレアさんが居たのだった。
因みに、アイスは結局全部食べられた。
未成年の現役女子高生つかまえて、何してくれてんの、この人。
こんな大人にはなるまい。
そう思った時もありました。
今では頼りがいのある同期だけれど。
回想が長くなってしまった。
話を戻すと、ついこの間のミスコンの話をクレアさんにグチっているのだ。
それに対して彼女は、面白そう、だの、そうそうに身バレなんかしない、だの完全に他人事だと思って楽しんでいる。
そんなこと言ったって、私はすぐ傍に吉谷という爆弾を抱えているんだから、笑えない。
最近では、私と犬養桜の声が似ているって気づいたし。(そもそも本人なのだけど)
よりによって、なんで吉谷と演劇なんか出なきゃいけないのか。
「それで、演目は何になったの~?」
「シンデレラです……。私がシンデレラで、同級生のその子が王子様役…」
「まぁ、ベタねぇ。確かにさくちゃん、リアルも美少女だものねぇ」
「あぅ……。やめてくださいよ、茶化すのは」
「ふぅ~ん?あ、それならぁ。来月の私達のコラボ配信は、視聴者が送ってきた脚本でボイスドラマ風に演技する、っていうのどう~?さくちゃん、そもそもあまり演技したこと無かったわよねぇ?」
「あ、それいいかもですね。コラボ配信の日って、確か公演の直前の日だったし。予行演習にもなりますね!そうと決まれば脚本の募集、SNSに流しときます!!」
「うふふ、ほんと真面目ないい子ねぇ」
クレアさんに一通りグチったらすっきりして、気持ちの整理も出来た。
目立ちたくはないけれど、私の性格上、やると決まったら腹を括ってちゃんとしたものを作りたい。
これでも配信者の端くれだ。
犬養桜として、意地をみせてやろうじゃないか。
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