第4話 有住愛花は、ミスを犯す
今日ほど、配信中の自分の言動に気を付けようと思ったことはない。
穴があったら入りたい。
入りたいけれど、入ったら入ったで、明日になれば真面目な私は、穴から出てまた学校に行くんだろう。
真面目な自分の性格を呪いたい。
そんなことをうだうだ考えながら、蓑虫の如く毛布にくるまり、ベッドの上で丸くなる。
私が今、こんな状態になっているのには、深刻な理由があった。
吉谷の家でノートパソコンの初期設定をして帰宅後、私は今日の分の配信を開始した。
『はーい皆さんこんばんは!心は狼、見た目は子犬。真面目な狂犬、犬養桜です!本日は以前から視聴者の皆さんがオススメしてくれていたこちらのゲームをやっていきたいと思いまーす』
今日はゲーム配信で、“ゲームよわよわな犬養でもできそうなゲーム”ということで、視聴者がオススメしてくれた無料ゲームを実況プレイする日だった。
私でもできる、という点で確かにプレイ難易度は易しく、いつもより比較的まったりとした雰囲気のなかで配信は行われた。
……ので、油断した。
順調に進んでいた配信の中盤、ついうっかり、口が滑ってしまったのだ。
『そういえば、友達が新しいパソコン買ったんだけどね。初めてのパソコンって言ってたのに、無料のパソコンゲームをダウンロードしてやらせたら、めちゃめちゃ上手くて!その子にそんな才能があると思わなかった。なんかこう、誰にでも取柄ってあるんだなと』
そうして笑うと、コメント欄の流れが若干早くなった。
『犬養、友達いたのか』
『いや、 脳内の友達じゃね?』
『その友達、俺だわ』
『いや、俺だ』
いやいや、吉谷だっつーの。
と、コメント欄を読みながら心の中でツッコミを入れ、はたと気づいた。
あれ、この配信、吉谷も聴いているのでは?
このエピソードは、まさに今日の、つい先程の出来事だ。
彼女が自分のことを話していると気付いてしまう可能性は、かなりある。
『……ッスゥーーーー』
しまったぁぁぁぁああああ。
どうしよう。
そんなことを考えていると動揺が手元に出てしまい、配信の後半はゲームに苦戦。
ボロボロになっていくのはゲーム操作だけではなく、私のメンタルもだった。
『なんか、さくたん急にミスりだしたな』
『やはりこのゲームも犬養にはまだ早かったか。。』
『あ、いま珍しく台パンしたな』
『珍しく荒れてんな』
視聴者からも散々な言われようだ。
挙げ句の果てに『さくたんもっとがんばりましょう』と、小学校で先生が押すスタンプのようなコメントが、一斉に流れだす始末だった。
ま、これはこれでおいしいけど。
「でも、吉谷に身バレしたら、どうしよう……」
配信終了後、頭から被った毛布の中で弱々しく呟く。
あいつは犬養桜が大好きで、犬養桜は私のことで。
それがバレたら私は。
あいつはどうするんだろう。
ばかばかばかばか。
頭の中で焦りと後悔がぐるぐると駆け巡る。
その日の夜は、目を瞑っても、ほとんど眠ることが出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます