第2章
第1話 吉谷歩は、さくたんへの想いが一番です
私、吉谷歩(よしたにあゆむ)は罪深き女だ。
机に両肘をつき、顔の前で手を組み合わせた姿勢で、前を見据え思考に耽る。
季節は秋冷、やがて紅葉も赤く染まり始める今日この頃。
ここ数日、普段あまり使わない頭をフル回転で使って考えた。
その結果、何度考えても同じ答えに辿り着いた。
本人には酷な話かもしれないけれど、私の心はもとより決まっている。
なら、言うしかない。
あいつは大事な、友達だから。
「おはよ、吉谷、……なに、その姿勢、碇ゲン〇ウごっこ?」
「ちょうど良かった。有住……、話がある」
「うわー、ちょーめんどくさい」
心底嫌そうな顔で有住がこちらを見る。
嫌そうにしながらも、周囲を見てまだ席の持ち主が登校していないことを確認し、私の前の席に座る。
こういう気遣いとか目配りができるところもこいつの良いところなんだよな。
……じゃなくて。
こほん、と咳払いして有住と向き合う。
あああでも、緊張する。
手のひらがぬるぬるすると思ったら、手汗でびっちょりと濡れていた。
「え、めちゃ汗かいてんじゃん。タオル借りる?」
「ううん、いい……」
ほんと、こいつ面倒見がいい。
ていうかわざわざ他人の汗を拭くために自分のタオル貸すってなんて良いやつ。
……もしかすると、私のことがそれだけ好きだからなのかもしれない。
ええい、言ってしまえ。
「有住」
「はい」
スゥッと息を吸い込み、一気に捲し立てる。
「ごめんね私が好きなのは犬養桜なの、さくたん無しじゃ生きられない身体なの、だから有住の気持ちには応えられないごめんねほんとにでも友達としては有住のこと好きだからこのまま友達でいてほしくて……」
「へっ!?えっ!?ちょ、ちょっ、ちょ、えっ!?なんでそうなるのっっ!!!しかもめちゃめちゃ早口。周りが見てるからっ、一回黙って吉谷っ!」
「えっ、やっぱ駄目だったり……」
「ちゃうわ!なんで私があんたのことそんな好きみたいなことになってるのよ!?」
「だってこの間有住が私のこと好きって……」
そう答えた途端、合点がいったように有住は両手で顔を覆い、深い深い溜息を吐いた。
「ああ、そういうことか、だから皆あんな生暖かい視線を…」だとか、「しまったぁ、言動にはもっと気を付けるべきだった…」とかぶつぶつ言っているのがちいさく聞こえてくる。
こいつがこんなに取り乱すのは珍しい。
有住に、黙っててと言われたので、暫くじっと黙っている。
すると、有住も気持ちの整理がついたのか、顔を覆っていた両手を下ろし話し出した。
「違うのよ、吉谷、そういう意味じゃなくて、友達として好きって意味で言ったのよ。さっちゃんや、ようちゃん達のことも、吉谷と同じくらい好きだし」
そう言って、一言一言私に言い聞かせるようにゆっくりと話してくれる。
そうなのか?私は早とちりしてしまったのか?それなら申し訳ない。
あれ、でも。
「でもさ、有住って結構、私がさくたんの話してたら嫌そうな顔するじゃん。この間も、さくたんがFPS系ゲームの配信中、間違えて自分で投げた手りゅう弾めがけて走って自爆したのが神がかってて、切り抜き動画を何回も観て笑い転げたって話したら……」
「そもそもあんたほど犬養桜に興味がないからよっ!」
少し食い気味にそう言うと、「取り合えず、私は吉谷のことなんて全っ然好きじゃないんだからねっ!」と言って去って行ってしまった。
「それ、何かのフラグでは……」
なんて呟いたら、聞こえてしまったらしく、遠目からキッと睨まれた。何はともあれ、私の勘違いだったらしい。あいつもなんて人騒がせな。
ま、別にいいんだけれど。
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