第2話 犬養桜は、私である
自宅に帰りつき、お母さんに声を掛けて自分の部屋のドアを開ける。
肩に掛けていた学生鞄を床に置く。
一息つき、すぐにデスクトップパソコンを起ち上げる。
キュイ……ンという、パソコンが立ち上がる時のちいさな駆動音が聞こえてきた。
その間に制服を脱ぎ、部屋着にしている大きめのパーカーを頭から被る。
お年玉で買ったゲーミングチェアに座り、起ち上がったパソコンでSNSのアイコンをクリックする。
SNSのホーム画面には、「犬養桜@歌ってみた公開中」のアカウント名が表示されていた。そのままタグ付けされている関連のキーワードを追って、評判をチェックしていく。
ちらっと壁にかけられた時計を見て時間を確認すると、夕飯まではまだ少し時間があった。それまではエゴサーチを続けようと思う。
マウスを操作し、画面をどんどんスクロールしていく。
昨日公開した動画の評判は上々のようだ。
とはいっても、褒めているコメントしかちゃんと見ないけど。
そして、
この活動を始めたきっかけは、去年の春のことだった。
高校に入学したと同時に、エンジニアをしている父からデスクトップパソコンを譲ってもらったのが全ての始まりだった。
父のお古といえど、そのスペックは半端じゃない。
メモリ、CPU、SSD、どれをとってもハイスペックで、初めてのパソコンにしては大分贅沢なそれを私は有難く頂戴した。
ネット回線自体も、使い始めて知ったのだけれど、元々ネットゲームを好む父のためにかなり良いネット環境を契約しているようだった。
そして、私は以前からやりたかった計画を、実行に移すことにしたのだ。
それが、Vtuberだった。
最初は個人で活動しようとしていたけれど、今ではある事務所に所属して活動をサポートしてもらっている。
吉谷がこれを知ったら卒倒するだろうから、言わない。
というか、あの子にバレると色々と面倒くさいことになりそうなので、絶対に教えるつもりはない。
吉谷、本当に単純だからなぁ。
今日の教室でのやり取りを思い出しているうちに、笑っている自分に気づく。
いつも小競り合いはしているけれど、吉谷のことは嫌いではない。寧ろ、この春に進級してから出会った友達の中では、一番気心が知れているとさえ思っている。
裏表がないのだ。
だから、あんな――犬養桜にガチ恋だなんてことを人前で言えるのだ。
「……」
言えない。
絶対に、私が犬養桜だなんて、バレてはいけない。
バレたら、もう同じクラスの友達としてどう接すればいいのか分からなくなってしまう。
でも。
「あんなに毎日、さくたん大好き、なんて言われて、どうしろっていうのよ……」
それはそれで、しんどいものなのである。
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