第41話
『愛菜は和人なしでは生きられなくなる。
愛菜のすべては和人のものになる。
愛菜と和人はずっと一緒にいる。』
なに、それ……。
どんどん血の気が引いて行く。
気を強く持っていないと、今にも気絶してしまいそうだ。
目の前の和人の顔が、歪んで見えた。
「あ、ごめん見えちゃった? ちょっと過激に書いただけなのに、こんな大事故が起こるなんてね」
和人はそう言って笑う。
「でも大丈夫だよ。愛菜は俺がいれば生きていけるんだから」
和人はそう言い、愛しそうにあたしの頭を撫でた。
撫でられた箇所は激しい痛みが走り、顔をしかめる。
しかし、それを表現する術を持ち合わせていなかった。
「これほどの事故で死ななかったってことはさ、こういうことをしても、死なないんだよ?」
和人はそう言い、鞄の中からカッターナイフを取り出してあたしへ見せた。
あたしは必死に左右に首をふって止めさせるが、やはり動くことはできなかった。
「ほら、見て」
和人は口元に笑みを浮かべたまま、自分の野地にカッターナイフを押し当てた。
そのまま、ジリジリとじらすように横へ引く。
真っ赤な血があふれ出し、白いシーツを染めて行く。
切れたカ所からは白い肉が見え、その傷は骨まで到達していることがわかった。
それでも和人は笑っている。
「ほら見て愛菜。俺は死なない」
切られた喉から空気が漏れる音が聞こえて来た。
「愛奈も、これから先ずーっと生き続けるんだ。俺と一緒に何百年も何千年も、ずーっとね……」
恍惚とした表情でそう言う和人。
嫌だ……。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!
和人の顔があたしに近づいて来て、血の匂いに吐き気がした。
和人は包帯の上からあたしにキスをする。
ポタポタと落ちて来た血が、あたしの包帯も赤く染めた。
逃げたくても、逃げ道はどこにもない。
これは和人が作り上げた、和人のための世界になり果てていた。
言葉は人を殺す。
そのことばかりに囚われて、気が付かなかった。
言葉は人を生かす。
死にたい人間まで生かす。
和人に抱きしめられながら、あたしは懇願した。
お願い咲紀、あたしを殺して。
END
ストーリー 西羽咲 花月 @katsuki03
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