第7話

 男たちのあいだから素早く彼女の手を引っ張り走りだす。男たちがどこまで追いかけてきていたのかも分からないほどに走った。

そこから少し複雑に入り組んだ路地に入り、僕は彼女を座らせて

「大丈夫?」

と声をかけ、自分のパーカーを彼女の肩に被せた。恐怖なのか、寒いからか、はたまた別の理由か、彼女の身体は少し震えているようにも見える。少なくとも大丈夫ではないだろう、さぞ怖かっただろう、もう一声かけようとすると、彼女は顔をあげていつもの調子でこう言った。

「大丈夫、痛くも怖くもないですよ。ほら」

ニコッと笑ってみせる可愛らしい振る舞いがとても不気味に感じた。

彼女はひとつ息を吐き、

「あれくらいなんでもないですよ、でもありがとうございます」

彼女がパーカーを僕に返そうとしたとき、彼女の上半身に痣や傷があるのを見つけてしまった。

「傷がひどいじゃないか、痛いだろう」

あまりに痛々しい怪我だった。あの男たちに傷をつけられたのか、あいつらはこうやって彼女をいつも虐げているのだろうか。やり場のない怒りが胸に込み上げる。しかしそれはまた違うようだった。


「これは家でできた傷だから」

「家にいる方がもっと怖くて、もっと痛いから、こんなの全く怖くないの」

僕は本当に彼女のことを知らなかった。この前の彼女の「死のうと思う」という言葉に対して自分が取った態度が何よりも軽く感じられた。

「取り敢えずタクシーを呼ぶから一旦僕の家に来なさい、その服じゃ帰るに帰れないだろう」

彼女は一瞬びっくりした顔をしたが、すぐにそれに賛同し、「意外と行動力あるんですね」と小馬鹿にしてきた。しかし今の僕はそんなことを気にしていられるほど心の余裕がなかった。


だるそうに送迎に来たタクシーに彼女を押し込み、運転手にはアパートの近くの郵便局の住所を伝える。バックミラー越しの目線が少し痛かった

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購買意欲 村上 耽美 @Tambi_m

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