少しだけ明るく

 さて、目的地に着いた。都会だなあ。こんなところにくるのも何年振りだろう。自分がおかしな恰好をしていないか心配になっちゃうよ。それと、あまり周りを見渡しすぎると田舎者だってばれちゃうから気を付けなくちゃな。僕はまるで慣れているかのように、堂々と友人との待ち合わせ場所に向かった。

 どうやら彼は、僕よりも先に待ち合わせ場所に着いていたみたいだ。久しぶりに見る顔だなあ。でも、なんにも変わってないや。これはもちろん、いい意味でね。

 「やあ、久しぶりだね。」僕は彼に話しかけた。

 「おお!久しぶりだなあ。」

 彼はなかなか気前がいいんだ。話していると気分が下がることはそうそうない。そんな人は、思っているよりいないものなんだ。だから、僕は彼を結構気に入っている。

 「待たせてしまってごめんよ。」

 「俺も今着いたところなんだ!気にしないでくれ。さっそく行こうぜ。」

 そう言って彼は歩き始めた。僕もそれについていく。多分、今着いたっていうのは本当だろう。彼は嘘がつけない性分だから。

 僕らはレストランに着いて、それぞれ料理を注文した。

 「なあ。お前、仕事辞めたって本当かよ?」彼は僕に聞いた。

 「ああ、本当だよ。そんなウソつかないさ。」僕は少し笑い気味に返した。

 「そっかあ、まあ、いろいろあるよな。」

 彼は真剣な表情でそう言った。これは彼の優しさだろう。それと同時に、きっと彼にもいろいろあるんだと思う。

 「君は最近どうなのさ。」僕は適当に聞いてみた。

 「あー、まあ、ぼちぼちさ。だいたいそんなもんだろ。みんな。」

 なんとなく、良くはないというのは伝わってきた。これほどポジティブな人間なら、なんでも楽しくやってそうなイメージはあるが、彼は意外と繊細なのだ。

 「そうだよな。」

 会話をしているうちに料理が届いた。それからは食事が終わるまで、適当に話をしていた。最近の趣味はなにか、周りの環境はどうか、お金の話、世間の話…そんな感じにね。そうしていたら、一時間半ほど時間が経っていた。

 「じゃあ、俺は帰るわ。今日のところは。また今度食事以外でもなんかしよう。」

 レストランを出たところで、彼がそう切り出してきた。この後用事があるみたいだ。

 「わかった。今日はありがとう。また今度。」

 僕はそう言って見送った。彼は手を振って歩いて行った。彼のおかげで、久しぶりに退屈しなかったな。今度、そうだな。もしその今度があるならの話だけど、その時は映画でも観に行けたらいいなと思うよ。映画、そうだな。この後は何か適当に、ひとりで映画でも観ようかな。ああ、それがいい。ちょうど近くにあるし、いい時間つぶしになる。

 僕は歩き始める。多分だけど、いまはいつもより、少しだけマシな表情をしているんじゃないかと思うよ。少しだけね。

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17時と鐘の音 積星針 @sekiseisin

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