二日目の朝

 朝が来た。時刻はまだ朝六時。今日は早くに目を覚ましたかったから、昨日は晩御飯と風呂を済ませたら、少しテレビ番組を見てすぐに寝ることにしたんだ。今日は、さらに都会の方に行こうと思うからね。何かをしに行くわけじゃなくて、ただ世界を見たいだけさ。

 そんなわけで、ホテルを出たらすぐに駅に向かった。五分もあれば到着したよ。列車もすぐに到着したから、乗車した。結構いい列車にしたんだ。数時間はかかるだろうからね。特にやることは無いと言っても、本当に何もしなければ意味がないから、やることをきめることにした。そうだな。たしか、友人がいるはずなんだ。前に引っ越したと言っていたからね。まずはそいつに会いに行くことにしたよ。それで一緒にランチを食べることができたらいいな。とりあえず彼にメッセージを送った。その後のことは、またその時に考えればいい。そして僕は、しばらく窓の外の景色を眺めることにしたよ。まだ都市部だから、無数に建造物が並んでいる。僕は、こういうのを見ると、自分の全く知らない人間のことが気になるんだ。だって考えてみたらすごいことだよ。こんなにたくさん家が建っていて、そこには人間が住んでいるんだ。僕と同じように、感情を持ち、生活があり、色んなことで悩んでいるはずなんだ。自分の知らないところで、今何をしているんだろう、何を思っているんだろう。そんなことが気になるんだ。でもきっとその人たちは、そんなことを考えない。僕が何をしているかだって、何を考えているのかだって気にも留めない。僕は、そんな相違点にまた悲しくなってしまうんだ。

 しばらく考え事をしていたら、メッセージが届いた。友人からだ。今日は空いている、とのことらしい。良かった。これで最初の予定はできたわけだ。列車が到着するにはまだまだかかりそうだから、今度は音楽を聴いて時間をつぶすことにした。曲を聴くと、それを一番よく聴いていた頃を思い出す。そうして色んな時期を思い出してみると、自分の失ったものの多さと大きさを実感する。基本的には人だ。僕はこれまで色んな人間と関わってきた。でも、みんないつの間にか僕の周りから消えているんだ。物理的な距離が離れてしまったり、共通の趣味で繋がっていた人は、その趣味に飽きたときに連絡を取ることすらなくなったりね。みんなは、こんな風に僕を思い出すことがあるのだろうか。気にもしないのだろうか。僕は寂しくて仕方がないんだ。僕との関係がなくなっても楽しくしてるということは、僕じゃなくていいと言われているように感じる。僕は、唯一の存在になりたかった。でも、そんなことは不可能だって気づいたんだ。こんなこと、気づかないほうが幸せだったに決まっている。何も知らない頃に、何も理解できない頃に戻りたくて仕方がないんだ。楽しかったあの頃に。

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