時間
あの後しばらく歩いて、無事にホテルに着いた。とりあえずチェックアウトを済ませて、大きい荷物だけ置くことにしたんだ。こいつをここまで持ってくるのはかなりしんどかったけど、やっと解放されるよ。そうだな、手も足も疲れたことだし、今日はもうこのまま外には出ないでおこうかな。まあ、一番疲れたのは心なんだけどね。それはいつものことだから、慣れっこさ。
気づいたら僕は眠っていたんだ。それも床に寝ていたんだよ。近くにはふかふかのベッドがあるというのにね。何しに来たんだって話だぜまったく。だったら野宿と変わらないさ。それで、寝ている間に三時間ほどの時が流れていたんだよ。もう夕方さ。やることはないからどうってことはないんだけどさ、自分が寝ようと思っていないときに寝てしまって、結構な時間が経っているのはなんだか嫌なんだよな。もう時間に縛られることもないというのに、なぜだろうね。時間に縛られていた時までの名残なのかな。時間に縛られていた期間が長すぎたせいで、その間に僕という人間ができちまったんだ。これはもう仕方ないことなのかもしれない。
やることもないからさ、スマホでネットの世界に入っていたんだよ。でも、すぐにやめた。見るに堪えなかったんだ。変な奴ってのはどこにでもいるもんでさ。こいつらはいつだって僕を最悪な気分にしてきやがるんだ。でも、おかしなことに、僕自身が何かをされたり、言われているわけじゃない。僕の全く知らない人間が、僕の全く知らない人間に対して悪意のある行動をしているのを見ているだけなんだ。それで心が痛くなるんだよ。難儀なもんだ。だから嫌になってスマホを投げたんだよ。大丈夫さ、壊れやしない。それで、そんなクソみたいなものを見たら、昔からいろいろと考えてしまう癖があるんだ。だから今がその状況ってわけだな。こういった悪意のあることをしている人の年齢層は実際のところどのあたりなんだろう、とか現実ではどんな生活を送っているんだろう、とかね。実際のところ、本当に気になるんだよ。僕は平和がいいんだ。嫌な気持ちになる人がいるという事実が、僕自身を嫌な気持ちにさせるんだ。こんな風になってしまったのはいつからだろう。環境自体も変わった気がするし、僕自身も深く考えるように変わってしまった。やっぱり、時間ってのは残酷だよ。そんなことを考えて、さらに悲しくなっていたんだ。そしたら、もう十七時だったみたいで、鐘が鳴り始めたんだ。この鐘は…この鐘だけはずっと昔から変わっていないな…。僕は、この鐘が十七時に鳴るせいで、あまり好きじゃないんだ。楽しい時間が終わる、一日がもう終わってしまうようなものだから。でも、この音自体は好きなんだ。だから鐘が鳴り終わるまでの時間、目をつぶって、ただその音を聴いていた。今までこんな風にじっくりと聴いたことなんてなかったけど、こうしてみると色んなことが思い出されるな。昔のことが。戻りたいって、そう思っちゃうよ。懐かしいって気持ちは本当に危ないんだ。嫌だったこと、嫌な奴。たくさんあったけど、そんなことでさえも戻りたいって思ってしまったり、久しぶりに会ってみたいなんて思っちまうわけだからな。時間ってやつは、僕の最大の敵さ。
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