ベンチと昔といつものこと
彼女と別れた後、僕は途方に暮れていたんだ。行く当てもなかったから、とりあえず近くの公園に行ってね。またベンチに座っていたんだよ。僕は、何かあるごとに、いや、違うな。何もなくなると、だな。そんな時にベンチに座ってしまう癖があるんだよ。もしかしたら、座りすぎてかなりベンチの似合う男になっていたりしてね。うーん。誇らしくはなれないな。それどころかベンチの似合う男なんて、なんだか不名誉な気もするよ。まったく。とにかく、僕は公園のベンチにいたわけだけど、そこは昔とはまったく違う光景だったんだ。人っ子一人いやしない。まだ夕方の鐘もなっていないというのに。昔は、大勢でサッカーをしている少年たちや、遊具で遊ぶ小さい子がたくさんいたんだ。本当さ。僕もその中にいたんだよ。そんな現状に、僕は悲しくなってしまった。昔のことを思い出したからだろうか。昔と今のギャップがあるからだろうか。自分でも正確にはわからなかったけど、とにかく悲しかったんだ。泣きたくなるくらいにはね。でも、僕は泣くなんてことは絶対にしないんだ。それは、僕の正義に反するから。僕は、僕自身が決めた正義に縛られてしまっているんだ。それは、理解している。だけど変えるつもりはないよ。どんなことがあっても正義を、自分の決めたことを貫くこと。それもまた僕の正義だからね。
公園を出た後、僕は一番近くにあるホテルに向かうことにした。家はあるけど、帰らないよ。もう帰らない。それでホテルに向かっている途中、チラシを配っているお兄さんを見つけたんだ。でも、あんまりチラシを受け取る人はいないんだな。まるでそこに誰もいないかのように、無視していくんだ。僕はこういう光景が嫌いなんだよ。そんなのを見せられちゃったらさ、救いたくなってしまう性分なんだ。救いになるかはわからないけど、僕も近くを通ったんだよ。そしたらそのお兄さん、僕にはチラシを渡さなかったんだ。まあ、理由は何となくわかるさ。営業だから、大人に渡しているんだろうね。金を持っている人間に。そんで、僕は背がかなり低いんだ。さらに顔も幼く見えてしまうせいで、きっと学生だとでも思うんだろうね。こんなことはよくあるんだ。よくあるけど、毎回嫌になっちゃうね。悪気がないであろうことは想像できるさ。でも、やっぱり子ども扱いされているように感じてしまうんだ。本当にさ、ちょっとでも力になりたいなんて思ってしまった僕が馬鹿だったよ。でも、毎回そんな気持ちになるけど、少し時が経ってそういう光景を見たら僕はまた同じ行動をしてしまうんだ。そんなことの繰り返しだよ。でも、ホテルに着くまではこの先なにがあったとしても構わずにいよう。うん、それがいい。今決めた。さあ、ホテルまではあと少しだ。足が痛くなってきたところだけど、休憩は無しでいこうかな。
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