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ある日お姫様は、陽光に照らされて微笑む草たちの上に、赤い点々が散っているのを見つけました。お姫様は、最初はそれが何なのか理解できませんでしたが、以前、本の紙で指を切った時に、裂かれた皮膚の間から滲み出てきた赤いものとこれが同じだということに気がつきました。
「あら、誰かが前の私みたいに、指を切ったのかもしれないわ」
赤い点々はずっと向こうの森まで続いているようでした。
お姫様は、お城と森を交互に見やってから、森に向かって走り出しました。赤い点々は次第に大きくなっていき、しまいには水たまりのようになってお姫様の行く手を遮りました。
お姫様はさすがに恐ろしくなりましたが、それ以上にこの血を流した者が心配でした。
「まあ大変。私は指から少し血が出ただけでも恐ろしかったのに、こんなに血を流したらどれだけ恐ろしいんでしょう」
お姫様は「えい」と、血溜まりを飛び越えます。そうして向こう側へ着地した途端、体制を崩したお姫様はそのまま地面へ倒れることにはならず、代わりに硬い何かにぶつかりました。
今まで触れたことのないような感触に、お姫様はびっくりしました。顔を上げると、青く透きとおった玻璃のような目をした生き物が、こちらをじっと見つめていました。お姫様は声も出せずに、その生き物を見つめ返しました。その生き物は、森の中の泉のような色の鱗を全身に纏った、小柄な龍でした。しかし、貴婦人のように気高く張られた胸元の鱗は剥がれ落ち、鋭い爪で引っ掻かれたような傷口からは、赤い血が滝のように流れ続けておりました。
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