第27話:第一章 23 | 神選学園 ②


 ケイナの言葉に驚いて、僕は一瞬押し黙った。


 28代目のケイロン? ケイロンって確か、何かの神話で、ケンタウロスにして教育者とかいう、あのケイローンの事か?



「あぁなるほど。だから理事長はあんなに生徒想いなんですか? というかあれ? 普通に人型のフォルムですよね?」


「むむっ、失礼な。そこは別にケイロンとしての役目に引きずられたとかではないよ? 普通に私の性格が良かっただけだとも! それに言ったろう? 私は元は人間だったと。私が受け継いだのはあくまで『肩書き』と『教える』という神の力だけだ。だから半身が馬になるなんて事はないさ」



 そう言って小さく咳払いをすると、ケイナは話を戻した。



「ケイロンの神の力は、集約された『教える』という1つだ。人に教える以上、自分が精通している必要があるからね、大抵の事はある程度できるが、あくまで大本の力は『教える』という1つだけなんだ。……しかし、今回入れ替わる最高神は全能だ。その為に複数の力を持ってる。。そのせいで少し事情が難しくてなっているんだ」



 まず僕の左手の『把握』と、そして清光の『予知』。

 さっきの話だと、その他の神の力も学園内の相応しい誰かに宿っているということになる。



「それは、全部でいくつあるんですか? そして、それを集める…揃える方法というのは、具体的にどうすれば…いや、方法は少し予想がついてるんですけど……」


「現在確認しているだけで5つだ。まだあるだろうと考えているがね。君の『把握』と、清光明良の『予知』、新しい何かを生み出す『創生』、あらゆるものを失くす『壊滅』、もう1つ、分かれたというのが掴めただけで実態は謎の『何か』だ。……揃える方法は、宿した者より、自分の方が持つに相応しいと『証明』する事」



 証明する、という言葉の曖昧さが引っ掛かった。

 僕の予想した返答とは違って、自然と首を傾げてしまう。



「簡単なのは物理的に相手から引き剥がす事だ。神の力は最初、君の左手のように身体の一部に宿る。それを引き剥がす以上、当然五体満足とはいかないが、分かりやすくてシンプルだろう? 私達としては推奨しない方法だが、明確に奪った奪われたという優劣が着き、当然力は奪った者へと移る。……相手を殺した場合も同じ結果となる」


「次に簡単でなくとも安全なのが、平等な試練を与える事だ。今日行った選定試練セレクトゲームの事さ。試練でいかに自らの方が優れているか証明していく事で、相手から神の力を移すのが狙いだ。過去に成功例がいくつもある。学園としては、この方法で安全に進めたいのさ。だが……」


「──清光はそれを逆手に取ったって事ですね。『予知』で自分が勝ちやすいゲームを受けれるように、状況を作った」


「そうだ。藤収フジマキ君たちは最高神の代替わりというイレギュラーな問題に対処する為に用意された、サポーターのような立場の組織だ。清光君は『予知』でその存在を先に知り、それも絡めて利用してきたのさ」



 なるほど、あらまし理解してきた気がする。

 ここまで聞ければあとは……



「清光はなんでそこまで。あいつが次の神様になろうとする理由はなんですか? それに僕はどうしたらいいでしょうか、これから……」


「……そうだね。清光君の理由について、本人に聞くまで確かな事は言えないが、予想はついてる。最高神に成れれば世の中の事など自由自在だ。。……しかし、理由はそれじゃない筈だ。そうせざるを得なくなっているのだろうね、彼も」



 ケイナの言葉と表情には重いモノが見える。

 最後の一言に含むところを感じ、聞き返そうとしたが、先に彼女の口が動いた。



「君が、……君がこれからどういう風にするかは、本来なら君が自分で決めるべきだ。こんな事に付き合ってられないと、はねのけてしまって構わない。……でも、恐らく君も神様になろうとするだろうね」


「──それは、どういう意味で。なんでですか? そんなの」



 分からないでしょう? と言いかけて、その前に思い出した事があった。


 ゲームの前に清光に突きつけられた言葉を。



『 次の神様になりたいからさ。

  他の事なんてどうでもいい。


  ……君もそうなんだろ?


  他に打ち込める事なんて、目指せるものなんてないと、そう心の中で思っている筈だ 』



 ──あぁそうか、そういう事か。

 ──あの時に気付かされた事は、きっとそのまま間違いじゃないんだ。



「……一度、この話はやめよう。私から言えることはこのくらいだ。あとは君達の事を話してあげてくれたまえ」



 そう言って、ケイナはレンとマコトの方に視線をやった。

 そこで僕も2人に聞きたいことがあったのを思い出す。



「もしかしてだけど、2人は僕の『従者』ってやつなのか? 僕を手助けするのが目的っていうのも、だからだったりする…?」


「─そうよ。あたしとレンはあんたの従者。神様の力を宿した候補者に仕えて手助けすること。それがあたし達『従者』の役目であり任務なの」



 従者。

 今日で何回か聞いた言葉だ。

 清光にとっての活州イケスや藤収がそうだと言うのなら、同じ神の力を持った僕にとっての従者は二人なのかもしれないと思っていた。

 確か藤収は正式な従者ではないと言っていたけれど。



「従者は、候補者の能力や性格に合わせて、世界中から最適な人材が選ばれるんだ。……で、従者に選ばれた人間には何というか、啓示けいじって言うのか? 従者に選ばれた事と、準備事項とか注意事項とかが指示されるようになる」


「──じゃあ、ずっと前から知ってたのか? 僕の左手に神様の力があるって事を。何で今まで言わなかったんだ?」


「俺達が知ってたのはキスキに何かしらの神様の力が当てがわれてるってところまでだ。左手にある事も、それが『把握』だって事も知らなかったよ。それに今夜の21時までは情報規制があったろ? あれは従者に対しても掛かってたんだ。だから今日まで言えなかった」



 そういう事か。

 今まで自分にばかり秘密があると思っていたけど、全然そんな事はなかったんだな。



「今日スマブラで『なんでも質問に答える』って罰ゲーム仕掛けたろ? あれ『なんか隠し事してるだろ?』って聞くつもりだったんだよ。前々から探ってたのに、お前がどこに、どんな神の力を持ってるのかまるで分からなかったからな。21時過ぎてもお前がボカすようなら聞くつもりだったんだ」


「え、探ってたっていつ? どんな事してたの?」


「まぁ色々やってたけど、例えば今日の昼休みにスマホ借りたのもそれだ。あとパズドラとか格ゲーとか勧めたりな。お前がピアノ得意って知ってたし、手のどっちかじゃないかと思ってたんだよ」


「──それはっ! ……いや、そうか。なるほどね……」



 レンがピアノの事を引き合いに出した事で、僕は少し言いたくなる事があったが、でも何も言えなかった。

 確かにそうだ。一度だろうと、ズルをした結果は変わらないのだから。



「──三人とも今日は疲れただろう。他に聞きたいことが無ければ、今日のところは一度解散にしようか。……ハニ君、君はこれからどうするのか、しっかり考えておくんだ、いいね?」



 そう言ってから、今後の事を話すように全員で予定を合わせて、僕達は一度解散する事となった。




『 恐らく君も神様になろうとするだろう 』




 ケイナのその言葉が、嫌なくらい耳に残っていた。


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【ストック50話以上】次の神様になってくれ ~色を変える能力を持った僕の、無茶で無謀な神様ダマし~ 由木兼人 @yuuki-kaneto

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