第26話:第一章 22 | 神選学園 ①
清光達と別れてから僕のマンションに到着すると、そこには意外な光景が広がっていた。
「えぇ、治ってるし。マジかよ」
「お、良かったじゃん。理事長が何かしたのかもな」
外から見る僕の部屋は普段通りで、隣の部屋にも異常はないように見える。
レンの言う通りケイナが何かしてくれたのだろうか。
これならわざわざ隣の部屋で待ってる必要も無いかもしれない。
「とりあえずキスキの部屋に入りましょうか」
「そうだな。……あぁ、めっちゃ疲れた。やっと故郷に帰ってきた……」
ふざけて言いながら周囲を見渡す。
野次馬も消防車も見当たらず、僕等以外は誰も居ないようだ。
……そんなのありえるか?
今は治ってるにしても、ほんの3、4時間前までは確実に部屋が吹き飛び火が出ていた筈だ。
通行人なりが連絡して消防車が到着していて当然の筈だ、それなのに。
「……なんで、野次馬も誰も居ないんだろうな」
「終業式で言ってた情報規制ってやつじゃない? これも言ってしまえば願能絡みのイザコザな訳だし」
ああなるほど。確かにそうなのかもしれない。
まぁその当たりの理由もケイナが来てから一緒に聞けばいいか、なんて思いながら、自分の部屋のドアを開ける……と。
「なるほどなるほど。ハニ君はこういうのが……なるほどなぁ。少々特殊だが良い趣味をしている……だけど教師モノが無いじゃないかっ!! これは困ったぞぅ。いや、まぁ私の外見はハニ君とほぼ一緒な訳だし? 実際ああいう系に出ている女優さんは結構年上だったりするから、もしあったとしてもそれはそれで私の属性と100%合致してるわけじゃないし大丈夫か…? ──ハッ! そういう点を考慮して判断するのならば金髪洋モノ!? 今私が探すべきなのはそれなのではっ!? 何本ある!? 女優さんの髪型、身長差、ボディライン、全てを覚え、糧とするんだ、私……!!」
「「「………………。」」」
酷いよ、あんまりだよ……
ちなみにこの酷いっていうのはケイナの奇行が見るに耐えない酷いものという意味と、いともたやすくおこなわれたえげつない僕への人権侵害についての2つを指してである。
どうやら先に
僕達が清光達と話をしながら帰宅する間に抜かれてしまったのだろう。
「──あ。えぇっと、これはその……」
「「「………………。」」」
僕らに気付いて何やら口ごもるケイナの視線を切るように、そっと玄関の扉を閉じる。
ちょっともう、ねぇ、ほんとに勘弁して?
ガッツリ友達に見られたんだけどぉ……!!
「……今どき動画サイトに頼らずに現物の媒体を揃えてるとはやるじゃねえか。今度おすすめのやつ貸してくれる?」
「……ぇっと。あ、前にお姉ちゃんがね? 男の子ってそうだって言ってたし、うん。別に普通じゃん? その、でもあれ。……ちなみに特殊な趣味ってどんなかんじ?」
もぉ!! 何でこんな目に遭うの!?
2人とも別ベクトルで気を使ってくれてるのが伝わってきていたたまれない。
特にマコトさんの態度、普段とだいぶ違うから処理がしにくいよぉ…、顔赤くしてそっぽ向いてるよぉ…、全然目を合わせてくれないよぉ……ぴえん。
「なんか、うん。もろもろ忘れてくれると助かるっていうか……とりあえず外は冷えるから、もっかいお部屋に入ろうかしらね? 開けるよ? 大丈夫? 開けますよ?」
なんだか僕もテンパっちゃって、オネエ口調が混じりつつアセアセと喋る。
しかし最後の一言を中のケイナに聞こえるように声高に言い、暗に今からもっかい入るから速攻で片付けてと指示を出して、ドアを開いた。
「お、おかえりなさいアナタ! ご飯にする? お風呂にする? それとも、ワ、ワタシ……?」
その一言で僕の秘蔵コレクションの一本である、『金髪美少女JK若奥様 ~甘々新婚性活VR特装版~』のパッケージの文章を見られたのだという事を悟ったが、あえて口には出さない。
そして何でちょっと照れてるの?
普段とキャラ違くないです? おかげで再現度が上がってて少しときめいたんだけど、それも口には出さない。
「──3つとも却下で。変わりに、もろもろの説明とやらをお願いします……」
◇
◇
◇
「──結論から言うと、ハニ君の左手には最高神の神の
「……理事長が言っていた『
出し抜けに提示されたその言葉に、僕は納得できた。
『神の力』だと言われて、混乱するでもなく。
今までずっと胸に支えていた疑問に答えを貰ったような感覚だった。
しかしその上で、当然いくつか疑問もある。
マコトとレンに「口を挟まないから聞きたいだけ聞け」と言われていたので、僕はそれに従った。
「確か終業式で、『生徒は全員、願能か、願能を開花させる可能性を持っていて、真弾学園はその中から次の神様を選ぶ特別な学校』って言ってましたよね?
神の力を集めないと神様になれないなら、持ってない他の生徒はどういう目的で集められてるんですか?」
「私達 神が散らばった神の力の行き先を把握しきれて無いからだ。どこの誰に宿ったのか、全てを突き止めれてはいないのさ。浅はかな事にね……。
分かっている事は、
「………なるほど。つまり真弾学園に通ってる今の生徒の誰かが、残りの神様の力を持っていて、それを1人に集めるのが本当の目的……?」
「そういう事になる。言ってしまえば願能持ちを隔離する事で、ややっこい神の力の移動先を、ぐっとローカルにしてしまおうという意図もあったよ。ついでに言うと、あの学園の裏の名前は字が違っていてね。本来こういう風に書くんだ」
言うと、ケイナは部屋の中からメモ書きとペンを持ってきて、何やら書き出した。
なるほど、文字通り神を選ぶ為の学園という事か。
なら……
「元々そういう字を当てるなら、もちろん最初から神を選ぶ目的で作られた学校なんですよね? どのくらいのスパンかは分からないですけど、これまでに何回か、あの学園から次の神様を決めてきたって事ですか?」
「お、鋭いね。その通りだとも。神は何柱も居る。当然あそこでは何度も次の神を決めてきた訳だ。……神には任期という物があってね? 最高神の任期が近付いたから次の神を決めるべく動き出した訳だが、つまり
なるほど。
確かにケイナも自身を神だと言っていたし、彼女に力を貸してくれた『治癒が得意な女神』とやらも居た。
神に任期があるのなら、ケイナもその女神様も、そして最高神とやらも全員、いや全柱が一定期間で入替されていくシステムな訳か。
「ちなみに、理事長はどんな神様なんですか? その、今の話だと貴女も元は人間で、神様になったって事になるんですよね…?」
「そうだとも。あ、いや、正確には全柱が元は人間かと言われると違うけどね?
私の場合は推測通り、ハニ君達と同じ人間だったよ。だいぶ昔の事だし、当時の記憶はおぼろげだがね。
………あぁッ!? で、でもね!? 神に上がった時点で人格や肉体や価値観は固定されるので、私はバリバリまだ全然若いというか、見た目通りでギャップはさほど無いと思ってくれたまえ! 年の差なんて関係無い!! 愛があればッ!!」
いや、愛は今のところ無いんだよなぁ……
まあほんと可愛らしい方だとは思うんだけどね、すごく。
終業式で最初見た時はうっかり好きになりそうだったのも事実ではあるんだけど、それにこの短期間で凄い生徒思いなのも伝わってくるし、優しいし。
でもそれ以外のところで減点が凄まじいというかなんというか。
何点か純粋に恐怖を感じるポイントもあるというか。
それに。
清光の言った事を思い出した。
『
いや、でも。
僕の左手を欲しがるサイコパスイケメン野郎よりも、目の前のストーカー気質な生徒思いの神様の方が、何倍もマシで、滅茶苦茶良い人じゃないか?
……なぜだろう。
分からないが、僕は心の中で思うのだ。
この人を疑ったり、悲しませたりは、もうしたく無いと。
──もう? って何だよ。
会ったばかりだぞ? 会ったばかり、だよな……?
「そういえば、結局理事長はどういう事ができる神様なんですか?
最高神とは違うにしても、受け継いだ神としての力というか、立場? みたいなものがある訳ですよね」
「あぁ、私は出来ることが幅広いが、専門は『教える』という事かな。生徒が伸びるように教育し、全力で育てる事を
彼女はそう言って姿勢を正し、ハッキリと告げた。
「 改めて自己紹介しよう。私は、28代目ケイロン。
正名を『 ケイローナ・アム・マクティ 』と言う。
改めてよろしくね、ハニ君 」
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