第8話

相変わらず、火曜日にはいつもの公園にいる。


地元の大学へ推薦も決まり、戦争みたいな受験の喧噪とも無関係に過ごしている。友人たちに気楽でいいなと陰口をたたかれながら。


最近はiPodで音楽を聴きながら、公園から抜け出て父の病室へ向かうのがいつものコースになっていた。




最初はいろんな管がついていて、医師に歩くなだとかベッドから動くなだとかいろいろ行動にも制限があった。しかし、だんだん管も抜け、今では点滴もなくなり、腕にたくさんの針跡が残るだけになった。動いてもいいと言われたら早速喫煙室に行って、看護師に怒られた、と父は笑っていた。


「これまでやめたら、俺にはなにも残らねぇからな」


笑いながらタバコを吸うしぐさを見せる。


変わりない、ヤニ色の指をして。




俺もきっと変われないと思う。だからなにも言わない。無理に変えることはない。


大学に進学しても、就職しても、こうやって火曜日には父とパチンコやら麻雀やら俺には何の役にも立たない話につきあって行くんだろう。


そんな親子関係でもいいじゃん。


父の心臓が止まってしまうまで、きっと続いていく。






来年の花火は公園で父と見よう。そんなことを思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花火 花澤あああ @waniyukimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ