第7話
静かな病院の、静かな廊下だった。
案内してくれるおっさんも、ずっと黙っていた。
静かだからか、小さくても花火の音はずっと聞こえていた。
花火の音がフィードバックするように、殴られていた記憶を呼び覚ます。悔しさや悲しさ、いろんな痛みがごちゃ混ぜになって襲ってきた。心臓まで響く花火の音。何度もなんども鳴るから、だんだん息苦しくなってくる。失った感情が、俺の中で暴れているみたいだ。
嫌いだった花火大会。
俺は年を重ねるごとに、新しい家族や生まれたての妹のおかげで嫌いではなくなっていった。
父にとってはどうだったんだろうか。
黄ばんだ写真の成長しない俺を見ながらすごした10年ばかり、嫌いになっていったのだろうか。
失った時間をどうすごしていたのか。
「ここだよ。」
受付のおっさんがひとつの部屋を指し、去っていった。長い廊下の一番奥の部屋。病院らしい白い扉。
こんな奥にまでも、花火の音は聞こえていた。
俺は震える手で、ゆっくりとノブを回した。
「父さん・・・・・。」
もう花火の音は聞こえなかった。
何の音も聞こえてこなかった。
「男の癖に、なんて顔してんだよ。」
そこに父は座っていた。病室のベッドの上で弱弱しく笑っていた。
「俺が公園に来なかったら、もう関わるなと言ったのになぁ」
そういった父の目には光るものが浮いていた。
そして少しうれしそうにも見えた。
「それに・・・・処分しろっていったじゃねーか。」
俺はずっとその箱を抱きしめていた。恥ずかしいことに。
「俺に、変な処分を頼むなよ・・・・・変に泣けたじゃねーか」
「へ、それでそんな顔になってんのか」
「う、うるさいっ」
思わず鼻をすする。
「あのさぁ・・・。
俺は昔に殴られたこととか、母さんをあざだらけにしたこととか、やっぱり全部許せない。だけどな-----」
病室の窓がかすかに揺れる。最後の三尺玉が弾けているのかもしれない。
「だけど、父さんは父さんだから。
まったく関係なしにはできねーよ・・・」
「だからさぁ、長生きしてくれよ・・・・」
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