ビール!
ninjin
ビール!
ビールについて考えてみる。
ここで言う「ビール」とは、所謂「発泡酒」でも「第三のビール」でもない、酒税法でいうところの「ビール」と表示できるものにつての、評価である。
「ビールみたいなもの」は対象外であり、ビールではないということを前提に考える。
《取り敢えず、ビール》
日本人で、この言葉を聞いたことのない人は、皆無と言って良いと思われる。何なら、聞いたことがあると言うだけではなく、その言葉を口にしたことがあるのは、日本人成人男女であれば、七割くらいにはなるんじゃないだろうか。いや、もっとか?(知らんけど)
日本人は兎に角、ビールが好きだ。いや、基。『取り敢えず、ビール』が好きなのだ。
それは世界各国の年間消費量を比べてみれば分かる。
中国がトップで、アメリカが二位、日本は七位で八位にイギリスが続く。因みにビール大国のドイツは第五位。
単純に消費量をみれば、中国が一位のなのだが、人口比を勘案して一人当たりの年間消費量で見てみると、実はチェコが断トツの一位なのである。しかも二位のオーストリアにダブルスコアに近い差をつけて。
ドイツが妥当に三位入賞で、日本はというと・・・実は五十位前後を行ったり来たりなのである。
ただし、この数字は、日本でいうところの「ビール」「発泡酒」「第三のビール」を含んだ、所謂ビールテイストアルコール飲料の総量である。
さて、ここで考えてみよう。
あなたが居酒屋に行って、「取り敢えず、なまビール」と注文をしたとしよう。いや、居酒屋に行ったら、余程の変態じゃない限り、必ず「取り敢えず、ビール」と言うのが良識ある日本人の暗黙の作法であるから、あなたもきっと「取り敢えず、ビール」と必ず言うと、私は信じているし、信じたい。
そこで、である。もし、「ビール」以外のなに物かが提供されたら、あなたならどうしますか?そう、「ビール」のフリをした「生190円」とかいう店頭手書き看板に騙されて、ついつい吸い込まれるように入ってしまった居酒屋での出来事である。
確かにその居酒屋の若いホール従業員は注文を復唱する時「はい、生ですね。かしこまりましたっ」そう言ってから「カウンター新規さんっ、生一丁っ、オーダー頂きましたぁ」と、カウンター内に伝えている。
そうなのだ、「生」とは言っているが、決して「生ビール」とは言っていないのだ。
だ、ま、さ、れ、た。
ここ最近では殆ど無くなったことではあるけれど、ほんの十年くらい前までは実際に有った、嘘のようなホントの話だ。え?今もあるって?それはJAROさんに訴えた方が良い。
見た目はほぼ変わらないソイツは、キンキンに冷えたジョッキの中で、やはり「ビール」と同じようにシュワシュワと泡を立てながら、こちらに分かりやすい色目を使ってすり寄って来る。こちらも初めからその気だから、ついつい何も考えずに唇を尖らせて助平おやじ宜しく・・・いやいや、ちょっと待て。
あれ?何か、ちょっと今日は君、顔色悪くないかい?いつもより薄み掛かってるようだし、それにお肌のキメが・・・いや、泡のキメが、荒くないかい?
それでも私もあなたも、自らのムラムラとした欲望には勝てずに、一気に、ゴクリ・・・。
そして思う、私もあなたも。
そりゃそうだ、こんな場末の酒場で、本物の深田恭子と出会えるわけがない、と。
たった190円で本物の「生ビール」に出会えるわけはないのだ、と。
それでも、「取り敢えず、なまビール」と言えて、そんな風なものが出て来て、既にそんな事はどうでも良くって、次はレモンサワーにしようか、それとも刺身を食べながら日本酒にしようか、ぶり大根に芋焼酎のロックも良いなぁ、等と考えているのだ。多分。
兎に角、「取り敢えず、ビール」って、言ってみたかっただけ。
《今夜はワインにしよう》
何かの記念日に、ワインを飲むことってありますか?私は自称ワイン好きってことを他人に吹聴しているのだが、実際にワインを飲む機会は年に十回有るか無いか、それくらいのものである。
まず必ずワインを飲むのはボージョレィヌーヴォーとクリスマス。それにお正月に日本酒とビールにも飽きて、三日目くらいに必ずワインを飲むから、それで年三回。
あと、結婚記念日にも、結婚した年のワインをインターネットで探して購入している。
段々と結婚から年数が経つにつれて、その値段は高額になってきている。
既に結婚から十年が経ち、あと4~5年で、もう手の届かない価格になってしまうんではないか、という想像には難くない。
どうしたものか?まだ手の届く内にあと二十年分くらい、つまり二十本ほど買い置きしておくか?それとも結婚自体を解消して、無かったことにするか・・・。
ん?そんな話じゃない?
まぁ兎に角、それで四回。
外食でイタリアン、フレンチをどうしても食べなくちゃならない時(それは取引先の女部長を接待する時が殆どなのだが)、それが年に二、三回。
あとは何となく気が向いたときにワインショップで年に数回、酔っぱらった帰り道に気まぐれに購入してしまう。
それで大体十回程度になる。
そう、つまり、本当はワイン好きでも何でもない。
実際、ボージョレィヌーヴォーは一杯目で味と香りを確かめて、昨年のことは既に忘れているくせに、今年のブドウはなかなかのものだねぇ、とか、やっぱりボージョレィはフレッシュさが際立つねぇ、とか自分でも意味がよく分からないことを口走りながら、二杯目を飲み干したら、即、「ビールにしよう」と、自ら冷蔵庫に足を運ぶのだ。
え?残ったワインはどうするかって?
それは翌日、オレンジジュースとパインジュースで割り、それにレモンのスライスを添えて、サングリアになります。休日の昼酒には、雪印の6Pレアチーズケーキと相性抜群である。
そして、クリスマスのワインの残りは翌日のビーフシチューに投入されるし、気まぐれで買ったワインも同じような運命を辿ることになる。
接待時のワインの味なんて、おべっかを使うことに全神経を集中していて、味なんか解かったものではない。多分、凄く高いワインなんだけどね。まぁ、会社の経費だ、知ったこっちゃない。
ただそんな私でも、唯一、味わって飲むワインが在る。
それは結婚記念日に飲むワイン。それは私たちが結婚した年のラベルが打たれた、その年生産されたワイン。
実はこれも味なんていうものは分からない。何故なら、毎年違った銘柄、ブドウ品種のワインを購入しているのだ。
それでもこの日ばかりは一本のワインを、妻と二人でゆっくりと味わって飲む。
何故か?
ただ単に妻を怒らすのが怖いだけだ。
ワインを一本空けて、ひと言、ポツリと、呟くように言ってみる。
「ビール一本、飲もっかな?」
「飲み過ぎです!今日は大人しく寝てください!」
うむ、今年も怒らせてしまったようだ。先ほどまで良い雰囲気だった思い出話が、全て台無しになる。私が悪いのか、妻の寛容性に問題があるのか・・・。ま、いっか。
私は風邪でもひかない限り、基本、365日、アルコールを摂取しない日はない。そしてその内、363日は恐らくビールを飲んでいる。「発泡酒」でも「第三のビール」でもなく、「ビール」を好んで飲んでいる。
時々、妻に「ビールを買っておいて」と頼んで仕事に出かけ、帰ってみると冷蔵庫にキンキンに冷えた見たこともない変てこな缶のソレが居ることがある。
私はソレを見詰め、暫し身動きが出来ないでいると、妻が言うのだ。
「ビール、冷やしておいたわよ」
これはビールじゃなーい。
それでも私はその言葉に起動スイッチを押されたように、固まっていた右手を伸ばし、その内の一本を取り出しながら「うん、ありがとう」と言って、食卓に着く。
実は私は寛容性には何も問題のない、優しく良い夫なのかもしれない。
そして思う。
明日は自分で買って帰ろう。
《ビール、麦酒、Beer どれがしっくりくる?》
「びーる」と発音した時、あなたの頭の中にはどんな文字が浮かぶだろうか。
カタカナで「ビール」なのか、漢字で「麦酒」か、それともアルファベットで「Beer」が浮かんでいるのか、それとも字面ではなくシュワシュワと泡の立つ黄色い液体の画像が浮かんでいますか?
まさか「ale(エール)」(イギリスでのもう一つの言い方)とか「Bier(ビーア)」(ドイツ語)なんて人は居ないと思うけど・・・。
あ、ここでは別にビールの語源や歴史、ビールの起源なんかを話すつもりは無い。それはWikipediaに詳しく載っていると思うので、そちらを参照してください。悪しからず。
因みに私は「Beer」が浮かぶ。
何故だろう?
今でこそ外での飲酒は居酒屋が主戦場のおじさんだが、若い頃、大概外飲みと言えば大学近くのカフェバーがお決まりだった。
学生街に点在する学生相手のそういったお店は、十種類くらいもある瓶ビールを、一律400~500円程で提供してくれていて、私みたいな貧乏学生には実に有難い存在だった。
ま、それでもビールが飲めるのは最初の1~2本、あとは最安値のバーボンをボトルで頼んで飲むのだけどね。
さて、そこで行く度に目にするのがメニューの一覧なのだが、やはりそこはカフェバーだけあって、表紙には「Menu」、それを開くと「Food」「Drink」と書かれており、「Drink」のカテゴリー分けには「Whiskey」「Cocktail」そして「Beer」と記載されている。
そう、刷り込みだ。
若い頃に「Beer」ばかりを目にしていると、自分でも気付かないうちに完全に洗脳されていた。
ところが、である。その洗脳も、ここ最近は新しい上書きが進んできていて、「びーる」=「ビール」になりつつあるのだ。
東京の居酒屋のせいである。何せ、駅前には居酒屋が溢れていて、その店先には手書き看板、電光POPで「生ビール」の文字が溢れているのだ。
さっきも書いたが、若かりし頃とは違って、主戦場は居酒屋のおじさんだ。「Beer」なんて書いたメニューの出てくるお店にはすっかりご縁が無くなっている。何なら「お品書き」を渡される。
いや、別にそれがどうということは無いのだ。ただ、昔飲んだ「Beer」と今飲む「ビール」が果たして同じものなのか、それとも違うものなのか、それが知りたいのだ。
言ってることが分からない?
それは同じビールには違いないのだけれど、あの頃のビールに感じていた美味さと、今飲んでいるビールに対する価値観は同じなのかってこと。
学生時代、仲間とワイワイやりながら飲むビールは麻薬のように私を饒舌にしてくれたし、暑くてしんどかった講義の帰りに立ち寄るパーラーで飲む一本は、大人な幸せを教えてくれた。海辺で夕陽を眺めながら飲むビールは、何とも優雅でロマンチックな気分にもさせてくれたけど、女の子にフラれて飲んだビールは死ぬほど苦かったのを覚えている。
と、まぁ、その時々に飲んだビールの味は、その時の気分だったり思い出なんかとリンクして、今でも結構鮮明に覚えているものなのだ。
翻って、ここ十年くらいはどうだろう。
仕事帰りに立ち寄る居酒屋で飲むビールは、乾いた喉、疲れた身体にきゅーっと染み込んで「ぁあ、
だからと言って、現在に於いて、昔よりビールのことを軽んじている訳では決してない。寧ろ愛情は深まるばかり、言ってみれば空気のような存在?いや、液体なので海のように私を優しく包み込んでくれる、大いなる母のようなもの?
恐らく、例えば納豆がどんなに好きな人でも、納豆にまみれて眠りたいとは思わないだろうけど、私はビールの海でビールに抱かれて溺れたって構わない。何ならそのまま逝ってしまっても、決して悔いは残さない、それくらいの自負はある。
普段は気付かない空気のような存在だったとしても、ふとしたことで妻に想いを馳せれば、「感謝」の文字が脳裏を
おや?「妻」?
・・・ああ、そういうことか。
今夜の食卓で、妻に向かって感謝の意を込めて
「君は僕にとって、ビールのような存在だったんだね。今まで本当にありがとう。そして、これからも宜しく」
って言ったら、多分引っ叩かれるので、止めておこう。
私は理解した。
若くてピッチピチだった「Beer(びーる)(妻)」は十年の時を経て「ビール(びーる)(妻)」になった。そしてこの先きっと「麦酒(びーる)(妻)」に変わっていくのだろう・・・と。
この思いは、決して妻の前では口にすることは出来ない。恐らく墓場まで持って行くことになるのだろうなぁ。
♪俺は浮気はしない、多分しないと思う、しないんじゃないかな?ま、ちょっと覚悟はしておけ・・・
何か、関白宣言の歌詞を思い出したら、可笑しくなって、食卓で妻を目の前にしてニヤニヤしてしまっていたらしい。
「あなた、ちょっと変よ」
「え?そうかい?」
私は「ビール」に微笑みかけた。
《休日、一人きりの午後》
今日は休日である。週に二日ある休日のうちの貴重な一日である。何しろ、今日の午後から明日のお昼まで、家で一人きりになれる休日なのだ。
何故かって?
妻が同窓会に出席するために、今日の午後から、彼女の実家がある埼玉県蕨市に帰省するのだ。
その同窓会の後、遅くなって横浜まで帰って来るのは面倒だということで、そのまま実家に一晩泊まって、明日の昼頃に帰って来る予定らしい。
「あなた、そんな感じの予定でいいかしら?」
「もちろんだよ。僕のことは気にしないで、うんと楽しんでおいでよ」
「じゃ、お言葉に甘えて、行ってくるね」
「うん、気を付けて」
「あ、それから、お洗濯物夕方に取り込みと、明日の朝、洗濯機、回すだけ回しておいてね。干すのは私、やるから」
「うんうん、分かった。ほら、早くいかないと、電車に遅れちゃうよ」
私は妻をエスコートするようにリビングの扉を開け、玄関へと促す。
勘違いしないで頂きたい。決して妻を追い出そうとか、厄介払いしようとか思っていない。
妻が何となく怪訝そうな表情をしているような気がしないでもないが、多分、それは私の気のせいだろう。
勘違いしないで頂きたい。決して
オートロックのドアが「カチッ」と閉まる小さな音を確かめて、私はリビングに戻り、壁掛け時計を確かめる。
時刻は12時50分。
そのまま冷蔵庫の前まで行ったが、冷蔵庫の扉を開けようとして、ふと、それを止めた。
ちょっと待てよ。折角の一人きりの休日の午後・・・いや、間違った。一人きりで寂しい休日の午後、だからこそ、ちょっと優雅に・・・あ、また間違った。寂しさを紛らわすために、久々に料理でもしてみよう。
頭の中で速攻でメニューを考える。ビールに合うコース料理を。
そして、考えながら財布と携帯電話をジャージのポケットに滑り込ませると、私は最寄りのスーパーマーケットに向かうべく玄関を出た。
思った以上に買い込んでしまったな。
リビングキッチンのダイニングテーブルに買い物袋をドカッと置いて、その買い物の量を確かめるように、暫し眺めてみる。
さて、始めましょうか。
料理は、焼き枝豆、キムチの肉炒め、手羽中の黒焼き、ジャーマンポテト、野菜スティックタルタルソース添え、以上五品。
さて、小ぶりの新じゃがを半分にカットして鍋にぶち込み茹でながら、冷凍枝豆をレンジで解凍し、フライパンに手羽中を投入して中火でカリカリになるまで揚げ焼きにする。
その間に、キュウリ、人参、セロリを一センチ角のスティックに切って水にさらし、小鉢にマヨネーズ、玉ねぎとピクルスの微塵切り、砂糖と塩コショウを少々、レンジで加熱して固茹でになった卵も微塵切りにして投入、そしてまぜまぜ。
その間に手羽中を焦がさないようにフライパンを振り、ジャガイモのゆで加減を気にしながら、スライサーでキャベツの千切りを作って平皿に盛る。
解凍が終わった枝豆に若干多めの塩を振り、クッキングシートに乗せてオーブンに突っ込み180℃で10分加熱。
豚の三枚肉スライスを3センチほどの長さに切り、キムチのパックを開けて炒める準備をしておく。
茹であがったジャガイモをざるに取り、シャウエッセンと玉ねぎの串切りを二つ目のフライパンに入れ、玉ねぎに軽く火が通るまで炒める。
一つ目のフライパンでは、そろそろ手羽中の表面がカリッと焼きあがってきた。手羽中の焼け具合を確かめて、焼き肉のたれ、ウスターソースをそれぞれ大さじ1ずつ投入し、いりごまをまぶして少し絡めるようにフライパンを振る。黒ソースが絡まったところで皿に移して、手羽中の黒焼き完成。
二つ目のフライパンにジャガイモを投入し、バターを一かけら、塩コショウを降り、バターがなじむまで弱火で炒める。
そうしながら、先ほどの一つ目のフライパンを洗って、再度火にかけ、サラダ油少々入れ、三枚肉スライスを投入。
三枚肉に火が通り、少しカリッとしたくらいでキムチを追加投入し、よく炒めたところで、ほんだしを小さじ1加えてさらに軽く炒め、先ほど準備しておいたキャベツの千切りの上に投下。
そうしている間にどうやらジャーマンポテトも上手く出来上がったようだ。
ん?焼き枝豆のオーブンは?おや、いつの間にやら止まっている。上手く焼けたかな?
オーブンを開けると、皮の表面が少し焦げた枝豆が、如何にも良い感じでこんにちは。完璧だ。
水に晒しておいたスティック野菜を取り出して皿に盛り、タルタルソースの小鉢を添える。
さぁ、出来上がった料理をリビングのテーブルに並べ、冷蔵庫からアサヒスーパードライの500ml缶を一本。あ、今日はちょっと綺麗なグラスで飲もう。
私は食器棚から来客用のビアグラスを一つ取り出す。
リビングのソファーに陣取り、グラスにゆっくりとビールを注ぐ。
嗚呼、やっとお逢いできましたね、今日はまた一段と輝きを増されたようで、その透き通った黄金色の煌めき加減も、なんともまぁ、そそりますねぇ・・・。
では・・・。
飲んではつまみ、つまんでは飲み・・・。
確か飲み始めたのは午後三時半くらいだったような・・・。いつの間にか、リビングから見えるベランダの外は紫色の僅かな陽の光を残して、やがて闇に包まれようとしていた。
何だか眠くなってきたなぁ・・・。
ケニー・GのサクソフォーンのCDは何度目のリピートだろう?その音色はもう既に室内の空気にも私の身体にも染み込み、混ざり合い、今ならある意味、本当に自分を俯瞰することができるのではないかと思えるくらいに、意識が宙に浮いていた。
ダメだ・・・このまま・・・私は・・・逝く・・・。
夢の中で、私は、何かを、そう、掴めそうで掴めない何かを、探して、追いかけていた。それが何なのかは分からない。
でも、それが辛い訳でも苦しく切ない訳でもなく、恐らく私の寝顔は、ニヤニヤと笑っていたのだと思う。
翌日、とっ散らかった部屋と干しっぱなしの洗濯物、半分以上残ったまま放置された食材を見た妻に、こっぴどく叱られたのは、言うまでもない。
《アルコール依存症、か?》
ハッキリ言って、私はビール無しでは生きていけない、そういう自負は少なからずある。良い悪いは別にして、飲んで良い状況であれば、いつでも身体はビールを受け入れる準備は出来ているし、何なら欲していると言っても過言ではない。
だからと言って、勿論仕事中は飲まないし、飲みたくても我慢することは苦痛ではない。それくらいの分別はあるし、中毒患者でもないつもりだ。
さて、ここに今、「アルコール依存症セルフチェックシート(WHO基準)」なるものがある。(携帯電話のネットサイト)
やってみるか、いや、今は止めておくか・・・。しかし、袖触れ合うも何かの縁?折角ふと開けてみたサイトにこんなものがあったのだから、やっぱりやってみようかな。
少し、怖い。
1.アルコールをどのくらいの頻度で飲みますか?
0:飲まない
1:月に1度以下
2:月に2~4度
3:週に2~3度
4:週に4度以上
2.飲酒する時は通常どのくらいの量を飲みますか?
【参考】2ドリンク:ビール中ビン 1本 or 日本酒 1合弱 or 焼酎(25度)0.5合程度
1ドリンク:ワイン 1.6杯程度 or ウイスキーシングル 1杯
0:0~2ドリンク
1:3~4
2:5~6
3:7~9
4:それ以上
3.1度に6ドリンク(1ビール 1500mL・日本酒3合)以上の飲酒がどのくらいの頻度でありますか?
0:ない
1:月に1度未満
2:月に1度
3:週に1度
4:ほぼ毎日
4.過去1年間、飲み始めると止められなかったことが、どのくらいの頻度ありましたか?
0:ない
1:月に1度未満
2:月に1度
3:週に1度
4:ほぼ毎日
5.過去1年間に、普通だと行えることを飲酒したためにできなかったことがどのくらいありましたか?
0:ない
1:月に1度未満
2:月に1度
3:週に1度
4:ほぼ毎日
6.過去1年間に、深酒の後体調を整えるため、朝迎え酒をしたことが、どのくらいの頻度でありましたか?
0:ない
1:月に1度未満
2:月に1度
3:週に1度
4:ほぼ毎日
7.過去1年問に、飲酒後罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか?
0:ない
1:月に1度未満
2:月に1度
3:週に1度
4:ほぼ毎日
8.過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいありますか?
0:ない
1:月に1度未満
2:月に1度
3:週に1度
4:ほぼ毎日
9.あなたの飲酒のために、あなた自身か他の誰かがけがをしたことがありますか?
0.ない
2.有(ここ1年無)
4.有(ここ1年有)
10.家族や友人、医師、又は他の健康管理に携わる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒を減らすように勧めたりしたことがありますか?
0.ない
2.有(ここ1年無)
4.有(ここ1年有)
どうやら、選択回答の上の数字を足していくらしい。
チェックをし終えて、評点ボタンをポチっとな。
「あなたの評点 6点」
「あなたの飲酒リスクは低リスクです」
「このまま上手に、お酒と付き合いましょう」
よっしゃぁっ。
ん?そんなに喜ぶことか?
まぁ、良いや。
どれどれ、では詳しく見てみるか。
「0~7 飲酒リスクは低リスク」
「8~14 問題飲酒は有るが、依存症には至らない」
「15~ アルコール依存症が疑われる飲酒」
へぇ、そうなんだぁ。
しかし、可笑しな質問もあったな。いきなり第一問の選択肢で「0:飲まない」という謎回答。そんな人は十問目まで答える必要なく、その場で終了。
第五問も読み方によっては可笑しな質問だ。
お酒を飲んだら、車の運転は出来ない。してはいけない、とも言う。
お酒を飲むことによって、普段出来ることが出来なくなるって、車の運転はスルーして良いんだよね?
その他にも、ビールを飲んで何故に自責の念に駆られなければならないのかも意味が分からないし、折角ビールを飲んで楽しかった前夜のことを忘れてしまうなんて、私には考えられない。
私はチェックシートの携帯電話をテーブルに置いて、キッチンの冷蔵庫に向かった。
冷蔵庫の扉を開け、チルド室でキンキンに冷えたバドワイザーを一本取り出そうとしたところで、夕飯の準備をしている妻に声を掛けられる。
「あなた、もうすぐお夕飯ですよ。もうちょっと待てない?少し飲む量減らしたら?」
なん、ですと?
『第十問、家族や友人、医師、又は他の健康管理に携わる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒を減らすように勧めたりしたことがありますか?』
有(ここ一年有、しかも今!)、4点加算されて、見事、10点、「問題飲酒アリ」に分類されました。
私は聞こえないふりをして、バドワイザー片手にそっと冷蔵庫を閉めた。
「ねぇ、あなた、聞こえた?」
「あ、うん。明日からそうする」
《つまるところ、ビールとは》
・生活の潤い。(うん、カッサカサの生活は嫌なもんだ)
・世知辛い世の中での癒し。(ふんわりと徐々に空気に包まれていくような酔い方が好きだ)
・思い出の呼び水。(あの日、あの時の香りと苦さが、心に染み出してくる)
・平凡な日常への反逆行為。(憂さ晴らしですね)
・安らぎのひと時。(なんかこう、一杯のビールの香りと味を楽しむ瞬間って、優雅で穏やかな気持ちになるよね)
・一日のご褒美。(今日も一日、頑張ったんだ、俺。おつかれっ)
・少し饒舌になれる麻薬みたいなもの。(それでも「羊の皮を被った山羊」な私は、やっぱり「メェェェッ」って鳴くのだけれど)
etc・・・etc・・・etc・・・。
まだまだ沢山出てきそうなのだけれど、きりが無くなるので止めておこう。
結局ビールが大好きで、止められないって、ただそれだけの話だったんだな。
考えるまでも無かった。
さて、今日は何が冷えているかな。
私はPCを閉じて、キッチンの冷蔵庫へ向かう。
おしまい
ビール! ninjin @airumika
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