広く空をより月を見るために

ひのもと

最終話

「ねえ、見えているかい」


それは何年前の声だろうか。僕に届く頃には君は君でなくなっているかもしれない。

それは何年後の声だろうか。君に答えを送りたいけれども、僕の声が届く頃、僕は塵すらも残っていないのだろうか。

枯れ果てた大地に残された、僕は、君の見たいものが見たいから、ずっと見上げている。

とうに尽きた生き物の残骸が宙を舞う。視界を遮るから、薄目で見てみるけれど、どうにも視線が定まらなくて嫌だなと思う。

狭くるしい窓から覗く、月の、なんと綺麗なことだろう。

君の声が届く時間に、いつもこの月が見えるものだから、僕は決まって「この時間に届くようにしてくれ」と語尾に付け足す。

君はわかったと返事をくれて、そしてその時から、君の声が届く時はいつも月が見える。

見えているよ。きっと君の言う、見えているか、の答えでは、ないかもしれないけれど。

さあ、今日の通信も終わりだ。明日に備えて、就寝しなければ。

すっかり昼も夜も無くなった世界では、自己管理が大変なのだ。


「見えているけど、見えていないようだ」

再び閉じた瞼の上にかざしていたライトの電源を切り、ポケットへと戻した。

宇宙に放り出されてからすぐに救出したが、ずっと眠ったきりであった。たまに目を覚ますも、ライトを月と言い、まるで地球からの通信を行うように話すと、すぐに目を閉じて意識を閉ざしてしまう。

ろくな医療施設もない上、点滴すらも受け付けない身体は衰弱していくばかりであった。

「君は今、地球にいるんだな」

何世紀も前に見限られた地球に、死にゆく体で一人、住んでいる。

モニターには、星図に点で表示された地球しかなく、その衛星の表示は端折られている。

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広く空をより月を見るために ひのもと @yocchama

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