花が散ればやってくる。
綾瀬七重
初恋は叶いませんが2度目はいかが?
ただうざいほど蒸し暑くて。
制服のシャツが汗で濡れて素肌にぺたっとくっつくのも気持ち悪いし。雨でジメジメして髪はうねるし。
そんな中でも自転車通学しなきゃいけなくて。
田舎だから一駅歩いてダイエットとか言うレベルじゃなくて、駅から駅まで1時間はかかるし。
朝寝坊してチャイムぎりぎりに教室に滑り込む。
そんなつまらん私の人生にも転機は訪れるのだ。
夏が終わって大好きな金木犀の香りが充満する季節。でも昨日の雨が花を散らせてしまった。
その代わりに雨が連れてきたのは私の人生の台風。転校してきた雪村柊と言う奴だった。
何とも冬生まれを象徴するかのような名前だけど。
とにもかくにもイケメンだった。
だけど相手にされないことはわかっていたから興味のないふりをして彼に興味を持つ女子たちの標的にならないように静かにしようと思ったのに。
運悪かった。自分のくじ運を恨んだ。
席替え、隣の席。
体育祭、二人三脚。
掃除当番、2人だけでプレハブ掃除。
なんだこれ。
黙々とどの作業も進めるけどやっぱり柊の一挙手一投足が気になってちらちら見てしまう。
2人で黒板を消しているときだった。
「なんか顔についてる?」
柊がこっちを見もしないで言った。
私に見られているということに気がついていた。
かあっと顔に熱が上がるのが分かる。
「べ、別に何も」
「そっか」
会話終了。何となくもどかしい。
その日の放課後だった。
柊のことが好きな友達に合わせて柊と時間を合わせて偶然を装って一緒の車両に乗った。
別に話しかけもしないけれど、ただどきどきするらしい。その気持ちは分からなくもなかった。
その時事件は起こった。
「菜々。菜々ってば、おい」
誰かに名前を呼ばれた。辺りを見回す。
該当する人は居ない。聞き間違えかと思って無視するとがしっと突然肩を掴まれて振り返ったら柊がいた。
「菜々。何度も呼んでるだろ」
驚いて目が飛び出そうになった。柊と私が親しげな様子に友達の視線も痛い。結局素っ気なく返事をした。
「なに?菜々って呼ばれたの初めてだから気が付かなかったの」
「ああ、皆が菜々って呼んでるからさ」
「それで、なに?」
すると柊が気まずそうに言った。
「あのさ、高村が赤井さんと話したいんだって。言ってやってくんないかな?」
赤井さんは私の友達。高村は柊の友達。
柊から言われる一言に赤井さんと呼ばれた友達の傷ついた顔は忘れられない。だって私は下の名前で呼び捨てにしたから。
それから気まずくなってお互い避けるようになった。友達とも距離ができた。
そうして卒業した。
それから7年も経って今になってあれが私の初恋だったのかなあなんて思ったりする。
昨日は雨が降って金木犀の花が落ちてしまった。
香りが好きなだけに惜しい。
柊に会うことはもうないんだろうな。
そうして過ごしていたある日。
仕事先で出会った。
目を疑ったお互いに。名刺交換をする。
何度見ても名前は雪村柊。
柊も同じ反応をしていた。
初恋は叶わなかったけど2度目なら叶う?
昨日の雨が花を散らせた代わりに柊を私の元へと連れてきた。
花が散ればやってくる。 綾瀬七重 @natu_sa3
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