第58話

ゴー…ン…ゴーン…

重たい鐘の音が程度中に響き渡る。結婚式が1時間後に始まる事を帝国民に伝える鐘の音だ。


キッと馬車が止まると扉が開く。

ルイは先に降りてソフィアに手を差し出した。

「段差があるし今日は正装でドレスが重たいだろうからから気をつけて」

そう言うとソフィアは微笑んでありがとうとルイの手を取った。

今日のソフィアはまるで女神のように一段と美しかった。

ルイと同じく深い緑と白を貴重に金糸の刺繍の入ったドレス。普段のドレスより豪華さがあり、襟元にはルイがソフィアの瞳の色のブローチを選んだ様にソフィアもルイの瞳の色のブローチを着けていた。

ウェーブのかかった銀髪は今日は珍しく纏められていてすっきりとた印象だ。

このまま手を繋いであちこち歩き回って自慢したいが今日の主役は自分たちではないのでルイはソフィアにだけ言った。

腕を組んでひそひそと話しているので砕けた話し方のまま話してしまう。

「ソフィアと帝国内を歩き回って自慢したいけど今日は我慢しないとな」

「なんで自慢するの?」

馬車から降りたソフィアが小首を傾げて聞き返すのでルイは当然のように言う。

「だってソフィア、こんなに綺麗なんだから」

そう言うとソフィアは少し頬を赤らめてルイのエスコートを受けて歩きながら、もう、と言う。

「恥ずかしいわ」

「なんで?大声で俺の自慢のソフィアどうぞ見てくださいって言いたいくらいだけど」

「もうっ!ルイからかってるわね~!?」

「真面目に言ってる、大真面目」

そんな会話を2人で歩きながらしていると鐘の音を聞いた街の人々や招待された貴族の面々が既に集まり始めているのが目に入る。

ルイとソフィアは教会に入る前に皇帝と皇后を迎えてから入る為階段前で待つことになっていた。

2人は馬車から降りて教会の正門から大聖堂の庭園内を横目に歩く。

階段の前に着いてからも皇帝たちを待つ間このやり取りをしていたのだが知らぬ間に後ろに人が立っていた。

「皇太子殿下、皇太子妃様、かなり注目を集めていらっしゃるようです」

その人物の声を聞いてルイとソフィアは同時にばっと振り返るとソフィアの父、ウォール公爵と公爵夫人、そしてカイロスとリリアが居た。

カイロスは空気を読まず邪魔をした父にあーあと言わんばかりに父に向けて残念な表情をし、夫人も申し訳なさそうに微笑んだ。

しかし2人でじゃれていた所を見られたことによる恥ずかしさよりルイの緊張感は一気に高まった。ウォール公爵夫妻は義理の両親に当たる。

公爵は昨晩挨拶を交わした時カイロスと同じくルイに対する心証がまだ何とか修復可能な印象を受けたのだがのだが夫人は分からない。

正直カイロスと同じくらい、もしくはそれ以上に緊張している。

夫人はソフィアにとっても義理の母親とは言えソフィアを大切にしている事を知っているのでやはり緊張する。

「きゃ!お父様!…え、注目…?」

ルイが挨拶を簡潔に脳内で纏めているとソフィアが反射的にだったのか先に反応した。

それに2人が辺りを見回すと貴族を始め街の人々が微笑まし気~にとこちらを見ているのが分かった。

あら、とソフィアは少し照れて俯いていたがルイはそれどころではなくとりあえず挨拶を纏め夫妻に挨拶をした。

「ご挨拶より先にこんな姿を見せてしまって申し訳ないです、公爵夫妻。昨晩公爵には会えましたが夫人もお元気にしておられましたか?」

その挨拶に夫人は柔らかい笑顔を向ける。

「はい、お気遣い頂きありがとうございます。私は変わることなく過ごせています、それにお二方が仲睦まじい姿を拝見してむしろ嬉しかったですわ」

「あ…そうですか…それは、良かったです…ははは」

ルイはそう言われると急に安堵から恥ずかしさを感じてぎこちない返事をした。

その姿にソフィアがぷっと笑った。

「なんで笑うんだ」

ルイが驚きつつ理由はわかるので照れ隠しに拗ねて言うとソフィアはふふっと笑いながら言う。口調は人前で話す時のようになっていた。

「殿下がそんなに緊張なさっているお姿は久しぶりで可愛らしくて」

「お願いだから見逃してくれ」

「まあ、難しいことを仰りますわ」

「だってそりゃあ緊張するだろう、君のご両親なんだから!」

ルイが開き直って言うとソフィアがそこが可愛いとまた笑うのだがそんな2人をみて公爵が気分が良さそうに言う。

「娘に目の前で婚約者殿と痴話喧嘩をされたら父親は寂しいものですよ」

その公爵の冗談で再び空気が微妙に静かになる。公爵は気にせずはっはっはと笑っているが夫人は申し訳なさから顔を手で覆いカイロスとソフィアは呆れてため息をつく。ルイの心臓だけが恐らくバクバクしているというその状況でとある声が遮った。

「お父様、冗談のセンスが無さすぎますわ。先程も通り過ぎればよかったのに両殿下に声をかけて私達、邪魔してしまったのですよ」

その声に一同が視線を注目させると1番後ろにいたリリアがようやく声上げたようだった。

リリアは言いにくいことを父親にガッツリ正面切って指摘した。

「え!そうだったのか!?」

公爵はそう言ってリリアとその他2人を見てやってしまったという顔をした。

「すみません、どうも私は昔から鈍いというか…」

公爵が愛する次女に指摘されてしょんぼりするがルイはお気になさらずと苦笑した。

そうして先に中に入っているというウォール家を見送ると最後にリリアだけ引き返してきてカーテシーをした。

「皇太子殿下、皇太子妃様、父がお二人の貴重なお時間を奪ったようで申し訳ありません」

「いや、気にしないでくれ」

「そうよ、リリア頭を上げて、余計恥ずかしいわ」

そうルイとソフィアが言うとリリアが顔を上げる。本当にソフィアとよく似た顔立ちだ。

「寛大なお心に感謝致します。…あの皇太子殿下、一つだけよろしいですか?」

「なんだ?」

「お姉様の幸せそうな笑顔を近頃見られて私も妹として幸せです、これからもお姉様をどうぞよろしくお願い致します」

そんな事をとても真剣な顔で言うから、ルイも真剣に返事をした。

「もちろん、一生涯かけて幸せにする」

それを聞いてソフィアは嬉しそうに少し照れ臭そうに頬を染めてリリアは安心したように微笑んで去っていった。

しかしルイは不思議に思う。何故彼女が過去で側室候補になる事を承諾したのだろうか、よく分からなかった。


そのうちにウォンがやって来て皇帝と皇后の到着を知らせた。

2人はそのまま出迎えて一緒に教会に入り主役を待つ。

そうして結婚式が始まる知らせの鐘の音が鳴り響き扉が開くと新郎新婦がやって来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

皇帝の反省日誌 綾瀬七重 @natu_sa3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ