第51話
ガタン、ガタタン、ガラガラ…
不規則な車輪の音に揺られながらカイロス・ウィル・ウォールは父であるウォール公爵と共に姉の住む皇宮へと向かっていた。
今日はカイロスにとって2度目に近しい人の婚約式がある日だった。
カイロスはその婚約式の主人公のロイ第2皇子と幼馴染でありつつ親友である。
それに国内の指折りの有力貴族であるウォール公爵家は彼とカイロスの親交がなくても招待されていただろうけれど我がウォール一族の家格のおかげで貴族でも容易に入ることができない親友の婚約式に参列できることになって初めて家格に感謝した。
これまでカイロスはあまり人々の上下関係や血筋による希少性の誇りとかを感じたことが少なかった。
どちらかと言えば魔法使い達は実力者が上に立つ世界だ。そんな環境に長らく身を置いていたからかもしれない。
と言いつつカイロスの身分は彼と同世代の貴族の中では最も高いと言える程だった。
まず彼の実家は優秀な魔法使いを輩出することで有名な名門ウォール公爵家である。
父ももちろん優秀な魔法使いなので爵位を継いで現当主に当たる。またカイロスと彼の双子の姉の生みの母親に当たる今は亡き母、ニュクス公爵夫人も魔女で尚且つ国内有力貴族の家門の出身だった。彼自身も魔法使いとしての学問を学んでいるが優秀な生徒だ。
そして最後にカイロスの双子の姉、ソフィアが皇太子妃として後宮の次期主として内定している人だということが大きかった。
カイロスにとって姉…ソフィアは幼い時から皇宮で暮らすことになったため稀有な人生を歩んだと言える。
皇太子と仲が良かった日々は過ぎ去り状況が悪い時もカイロス自身は努めて姉とも、そして皇太子とも変わらずに過ごした。
それはいつか仲が戻るかもしれないと信じていたからだし、何よりカイロスは2人の臣下だったから態度に違いを見せるのは無礼だと自分なりに考えを持っていた。
だからソフィアとはたまに会っていたし、ルイのことも公式の場でなければ義兄上と呼んでいた。
それにやっぱりルイとの付き合い方はロイとはまた違う部分がある。
それぞれ帝国の主とその忠臣の後継者だから魔法を利用した戦略を立てるために会うこともよくあった。
どんなに2人の冷戦が続いても態度を変えることはなかったがそろそろもう難しかと思っていた頃にルイが変わり出した。
皇室で伝統的に続く皇太子夫妻主催のティーパーティーでソフィアがワインをかけられたことがあった。
遅れて行ったカイロスは丁度その時に到着し、姉の衝撃的な瞬間を目にするのだが自分やロイが動くその前に誰よりも早くソフィアに向かっていった人物がいた。
それがルイだったのだ。
正直に言ってソフィアがワインをかけられたことよりルイがソフィアを庇い、大切に扱っているその昔のような2人の姿の方が衝撃的だった。
そしてその1件があってからは2人はもう一度今までのことが嘘のように仲良く過ごしているらしい。
今年帝国中が最も驚いたニュースだったと言える。
その後に皇帝が下したルイへの処罰も震えるような内容だったが。
皇宮が見えるにつれカイロスはこのことをふと考え込んでいた。
「何をそんなに考えているんだ?」
思考に割り込んだその父の声でようやくカイロスは現実に戻ったようにはっとした。
父は厳しい人だが常にそういう態度の人では無いのでただ単純に疑問に思って聞いてきていた。
ふっと笑みを零したカイロスが言う。
「ソフィアと殿下のことを考えていました。子供の頃のような姿が見られるといいな、と」
それを聞いて父も納得したようにああと言いながら頷いた。
口数が多い方ではない父は一言だけの返事だったがその表情はソフィアのことを考えていることが一目瞭然だった。
ソフィアがつい最近まで皇宮生活を苦しんでいた時は父はソフィアに対して申し訳ないと常に言っていたから誰より2人の仲睦まじい姿を望んでいるだろう。
晴天のこの日にロイの婚約式を無事に出席し終えて残す前夜舞踏会でカイロスは姉の元へ向かった。
つい先程までのルイとソフィアの姿を見ていたから話しかけずには居られなかったのだ。
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