第50話
建国祭とロイとレイニーの婚約お披露目と明日の結婚式の前の前夜舞踏会でガタガタと隣から小さな音が聞こえてソフィアは思わず驚いてルイを見た。
ルイがずっと貧乏揺すりを無意識にしている。
そのため横並びで座るソフィアはずっと地面が小刻みに揺れていた。
気持ちは分かるのでマナーを指摘するつもりは無かったのだが顔色が悪い。
まるでこの舞踏会の主人公かのように緊張しているようで食事もろくに食べていないし余裕が無いのか会話すら集中出来ない様だった。
こんな姿は滅多に見ないので心配になって思わず身体を揺すって声をかけた。
「ルイ…どうしてルイがそんなに緊張しているのよ…?」
苦笑しつつ聞くとようやく意識が戻ってきたのかルイははっとしてこちらを向いた。
「なんで分かった??」
「だって、ほら。ずっと貧乏揺すりしてるから…」
「え…」
ルイは全く気がついていなかったようで自分の足を見つめる。
「顔色も悪いしご飯も食べてないし…自分たちの時よりも弟夫妻が主人公の舞踏会の方が緊張するだなんて」
ソフィアは弟想いなルイが可愛くてくすりと笑った。
実際ソフィアとルイの婚約式ではいつものルイのように完璧にこなしていた人なのだから尚更緊張している様子が際立つ。
「なんか…ソフィアと自分の時より息子の婚約式のようで変な緊張が…」
はは…と笑いながらルイも自分に呆れていた。
少し話したからかルイも落ち着きを取り戻したようでウォンがルイに用事で話があったようなので行ってきたら?と見送った。
ふと、昼間のロイとレイニーの婚約式を思い出す。
皇宮の敷地内にある大聖堂で2人は婚約式を行った。
もちろんそこはルイとソフィアが幼い時に皇太子夫妻になるために婚約式を行った場所と同じだ。
元々帝国の皇族が行う婚約式及び結婚式には貴族同士や平民より決まり事がいくつかある。
基本的に皇太子と皇太子妃が皇帝と皇后にそれぞれ即位する時にもう一度行う婚礼と既に皇帝に即位している皇帝が皇后を迎える場合に行う婚礼を除いては1日目の昼に婚約式を、2日目に結婚式を行うのだ。
婚約式は皇族と有力貴族に見守られながら大聖堂で婚約の誓いを立てる。
そして2日目の結婚式の前日に前夜祭というように前夜舞踏会で新郎新婦を祝い、2日目当日には首都の大聖堂で結婚式を行い帝国民にも2人の新しい門出を知らせる。
2日目の昼の結婚式までが通常の日程でここまでの流れを全てこなしてようやく終了する。
式の後は結婚式場の大聖堂から馬車でそのまま新郎新婦は帝国民に祝われながら新しい屋敷に移ることになっている。
しかしここまで熟知していてもソフィアも実はしっかりとした婚約式に出席したのは初めてだ。
ルイとソフィアの婚約式は皇太子夫妻はよくあることだが幼すぎた。
厳粛な雰囲気の中で皇族と有力貴族の視線一身に集めて婚約の誓いを立てた2人の姿に胸が震えた。
レイニーが身につけたティアラはこれまで皇族の女性たち、または皇族と婚姻関係になる女性たちのみが身につけた物なのでもちろんソフィアも婚約式で身につけたが当時は自分がまだ幼かったのであまりに似合わなかった思い出がある。
しかしレイニーはティアラも含めそれはそれは美しくてロイも素晴らしい紳士になっていた。
緊張している中でもお互いだけを信じて誓いを立てる姿から目が離せなかった。
自分とルイの婚約式はまだ幼い可愛らしい夫婦という雰囲気で和やかに終わったのだが本当に明日夫婦になる彼らの婚約式は感じる全てがまったく違った。
初めて、ソフィアの中で結婚が鮮明に色付いて輝き出したように感じる。
今まで何となく結婚とはソフィアにとって即位であり、ルイの御代の始まり…そんな風にしか考えられず実感が湧かなかった。
でも今はいつかは自分とルイがあんな風に婚姻の誓いを立てられるだろうか、ルイと見つめ合って微笑んで幸せなあの光景を描けるだろうか、そんなときめきで胸いっぱいになったのを忘れられない。
ルイを見送ってから挨拶が途切れていたタイミングだったのでついうっとりしていたらふっと視界に誰かが近づいて来るのが見えた。
普通ならぼーっとしていた事に恥ずかしく感じるが背格好だけ見ても誰なのか認識できるその相手には全く感じない。羞恥心などとうにない。
「皇太子妃様にご挨拶申し上げます」
なんでかなんて簡単だ。
この相手こそ生まれるその前からずっと一緒の存在だからである。
「お久しぶり、カイロス」
ソフィアは弟であり実家の後継者、カイロス・ウィル・ウォール公子と挨拶を交わした。
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