第46話
ルイとて気になるところはあるのだ。
今のこの恋人のような婚約者ではある微妙な関係性が。
「はい?」
そう短く聞き返すその菫色の瞳をどぎまぎして見つめ返す。
恐らく2人の間の時間だけ停止した。
ルイは固まったソフィアを見て直ぐに後悔した。せめて先にルイの気持ちを伝えるべきだ。
なんとも言えない空気感の中ソフィアが言葉をようやく発した。
「え、えっとそれは」
自分の情けなさに頭を垂れていたルイは珍しく歯切れ悪いソフィアの言葉に反応して顔を上げる。
するとソフィアの菫色の瞳とルイの瞳の視線が合ってルイは驚いた。
ソフィアが耳まで真っ赤になっていたから。
そしてつられてルイの体温が上がるのを感じる。カーーーッと駆け上がる血の流れを感じてどっと汗が出るような、そんな感覚だった。
お互いなにを口にするのが正解なのか分からず焦りばかり増していく。
しばらくしてルイはこんなに赤くなって焦るソフィアを見るのは初めてかもしれないとソフィアを見ていたら落ち着いてきた。
えーっと、えっと、と口をもごもごさせて少し俯きがちに顔を赤くして困り顔をしている。
そんな様子を見ていたらルイの緊張はいつの間にか解けて、ソフィアを可愛く思ってしまいふっと笑みが漏れた。
ソフィアの赤い顔を覗き込んでルイは微笑む。
突然覗き込んできたルイに瞳が驚いている。
「ソフィア、俺はね。ソフィアのしっかりしているところ、でも少し抜けていてすぐに転ぶところ、努力家なところ、優しくて笑顔が可愛いところ、怒らせたら怖いところ、秘密にしてるけど寝起きが悪いところ、本当は大の甘党なのに体型を維持しようとして我慢してる時は口をとがらせるところ、人見知りだけど仲良くなったら沢山尽くしてあげるところ、そういうどんなところもそれ以外のところも全部全部好きだよ」
自然と唇から言葉が歌を歌うように出てきた。
これはルイから愛するソフィアへの最大の愛情のこもった告白なのだ。
ルイも知らずにソフィアのたくさんの好きなところを述べていてこんなに自分はソフィアが好きで愛していて、よく見ていたんだなと実感させたられる。
過去の自分がそこまで好きなソフィアを手放せる訳がないことに今更気がついた。
ソフィアが望むことなら何でもしよう。
もしルイから離れることを望むのならばそうしよう、でももし一緒にいてくれるのならばルイは自分の命を賭けてでも幸せにしよう。
今まで何度も胸に刻んできた言葉だけどそれでも何度もでも誓える。
ルイの告白を聞いたソフィアは一瞬停止して頬を紅く染めた。
そして少ししてじわっと涙がその菫色の瞳に浮かび上がってソフィアが唇を開く。
「私ね、ずっと長い間ルイが憎かった。私の事、嫌いなのかな。私はもういらないのかな。私がいるのにどうしていつも他の人の所へ行くの?いつも思ってきたの」
そうして話し出す。ルイは頷いて聞く。
「本当に本当に苦しくて辛かった。でも何も感じ無い振りを続けて来た。けれど…最近分かったの。こんなに憎くて苦しくても私はきっとルイから離れることを望んではいないのよ。離れるとしたらそれはもうきっと死ぬ時だと思うの。それだけ強い想いの答えなんて他にない。…私はルイがとても好き。ずっと気がつけなかった。ルイが少しの間私を避けていた時にようやく気がついたの。ああ、ルイと少し距離が空いただけで私はこんなに心が揺らぐんだなって。だからね、これからも一緒にいたいと思うの」
泣きがならそう言いきってソフィアは答えてくれた。
ルイは思わずソフィアを抱きしめる。
ルイの胸の中でソフィアは泣いているけれどルイの背中に腕を回した。
長い年月をかけてようやくお互い気持ちを伝えられた。
「うん…、ソフィア、俺もね同じだよ。ソフィアが望んでくれるならばずっとずっと死ぬまで一緒にいたいと思う」
そのルイの返事にソフィアはルイの胸の中でうんうんと頷く。そしてぱっと顔を離して涙を流しながらもにこっと笑って言った。
「ようやく言えた。ルイ、大好きよ」
その日のルイの日記はびっしり書き込まれていた。惚気ともちろんこれからのことに誓いを立てて。
しかしひとつの部分だけ気がついたことについて書いてある。それは…
『ソフィアが過去、死を選んだのは離れるなら死ぬ時だと思っていたからのようだ。だけどそのきっかけは自分ともうひとつ、あの件が関わっている。今回の変化によってあれを回避できるだろうか。ソフィアを危険に晒したくない』
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