第45話
お茶の時間非常に気まずくルイもソフィアも表情には出さずとも実は戸惑っていた。
ロイは終始しどろもどろで目を泳がせていてこんな姿は見たことがないほど落ち着きがない。
一方レイニーは曖昧にほほ笑みを浮かべて当たり障りのない返答しかしない。
ソフィアといる時やルイと話す時はきちんとしているレイニーなのにどこかロイへの返答は心が感じられないのだ。
ルイとソフィア、傍から見ても2人のぎこちなさはひしひしと伝わってくる。ルイが少し肩を竦めてどうしたものかとソフィアと顔を見合わせるとソフィアが少し考えた後、思いついたように閃いた顔を見せる。
ルイはソフィアに任せることにした。
「ねえねえ、2人とも見てみて」
ソフィアがロイとレイニーに明るい声をかける。
気まずい空気をソフィアが一変させたおかげで2人がぎこちなくともそれぞれソフィアとの関係は深いので安堵した顔を見せた。
ソフィアが何をするのかじっと皆が見つめる。
実はルイは何となく察していた。
多分魔法を使う。
ソフィアは本当に簡単な魔法しか学ぶことが出来なかったけれどそれでも優秀な魔法使いだった。
ソフィアがふと呪文を唱えてぱちんと指を鳴らす。するとぱあっと光が差して次の瞬間にはレイニーの頭に花冠が乗っていた。
秋にふさわしいピンク色のコスモスの花冠がレイニーのオリーブベージュの髪色によく似合っている。コスモスの時期は少し過ぎているがソフィアの魔法ならいつでも見ることが出来る。
その不思議な出来事にレイニーがわあっと思わず声を上げた。
「すごいですわ、私初めて魔法を見ました。こんなに素敵な魔法があるだなんて!」
レイニーが瞳をキラキラと輝かせる。
「レイニーに似合うと思って。ルイ、似合うわよね?」
ソフィアが目配せをする。言わなくてもわかる。
ロイに上手く話を繋げろと言う意味だ。
ルイも弟のためと愛しい婚約者の頼みに微笑んで応じた。
「本当に良く似合う。ロイもそう思うだろ?」
するとロイはハッとして心ここに在らずだったと言うように反応した。
「え!?あ?あ、はい!」
その気の利かない返事にルイもソフィアも苦笑いする。ロイにしては珍しいことなので余計に。
しかしここで空気の読めないロイでは無い。
少し困った顔をして、照れたあとにちゃんとレイニーに向かって言った。
「とても似合っていると思います。綺麗です」
それにレイニーが頬を染めて初々しい反応を見せるのを兄と義姉はにやにやと見つめていた。
レイニーを帰りの馬車に3人は乗せてロイはそのまま送っていくことになりルイとソフィアはふたり、皇宮内を探検していた。
知り尽くした場所ではあるがこれも子供の頃の遊びのひとつだ。こんなにゆっくりした時間を2人で過ごすのも久しぶりでルイは自然と頬が緩む。
だが気にかかることもあった。
「なんだか···ロイがロイらしくなかったというか、あの2人、大丈夫だろうか···」
ソフィアもうーんと唸る。ルイの言いたいことは十分に伝わるからだ。
「だけどもっとちゃんと話しなさい、とは俺たちは言えないし···」
そこでルイもソフィアも同時にあははと情けない笑いが漏れる。
2人の一時の冷戦、そして数年に及ぶ不仲は狭い貴族社会だけでなく商家たちまで知るところとなりそこは偉そうに指摘できるわけが無い。
「私たちがもっと模範的にならないといけないわね」
ソフィアが左の頬に手を当てて困り顔をする。
はの字に眉が下がっていた。
そこでルイは模範という言葉でソフィアに気になっていたことを聞いてみた。
「ソフィアの国のための模範的な皇后像とか皇太子妃像ってどんな感じなんだ?」
その質問にソフィアが目をぱちぱち瞬かせたあと答える。
「そうねぇ、皇后像はともかく···皇太子妃像は理想の形があるわ。いつどんな時でも逆境に負けず屈しない、それでいて帝国民があの人を見ていたら希望が湧くと言ってくれるような親近感のある皇太子妃かな」
相変わらずかっこいいことをさらりと言うものだ。
感心させられてしまった。
逆にソフィアにルイも同じ質問を聞き返される。
「うーん。俺は強く、帝国民を引っ張っていける人になりたい。今まで学んできたことを活かして帝国民が安心して暮らせる国を造ることがまず1番。その為に時には厳しく国政を動かすかもしれないけれどそれでも帝国民、それは領主とか平民とか身分関係なく誰かの慶次には皆に笑顔を向けられる、国じゃなくて国民を見る皇帝や皇太子が目標···まあ、あくまで理想だけど」
2人は厳しい現実を知っているからこそ今だけでもと言葉にしていく。
ソフィアもルイの目標を聞いてより一層ルイに相応しい皇太子妃に、皇后になるために頑張ろうと思う。
ルイはそんな中で今ならソフィアが自分をどう思っているのか少しは聞けるかもしれないとチラッとソフィアの顔を覗いて自分を鼓舞した。
「あのさ、ソフィアの理想の夫婦像とかはあるの?」
その質問にソフィアは流れるように返事をした。
いや、、聞き返した。
「はい?」
ソフィアはまるでそんな質問は想像もしていなかったという顔を向けた。
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