第40話
深い海の色の瞳とオリーブベージュ色の瞳がぎこちなく泳ぐ。
間には満面の笑みを浮かべたロイが居た。
カイロスは妹の駄々のせいで少しばかり遅れて皇宮に到着した。
親友であるロイ皇子に呼ばれて居たので妹のリリアには勝手に姉の所へメイドに連れて行ってもらって急いで向かう。
扉を開けるなりロイが待っていましたというようにぱっと笑顔になった。
それを見て何か企んでいるとひと目で分かったカイロスが怪訝な顔をするとロイが隣を見下ろした。
その視線を追うとそこにはロイが立ち上がったのに合わせて立ち上がった落ち着いた気品を漂わせる綺麗な女性がいた。
カイロスが並んで立つ彼女とロイを見てふっと目の前を過ぎ去る物を頭の中で振り払っているとロイがひと息で説明を始めた。
「お前に紹介したくてレイニーを引き留めてしまっているんだ。レイニー、こちら皇太子妃様の弟君で次期ウォール公爵家当主でありながら優秀な魔法使いで魔法学校首席で僕の幼馴染兼親友のカイロス・ウィル・ウォールだ」
長すぎる修飾語にレイニーと呼ばれたご令嬢が驚く。だが直ぐにとりあえず曖昧に微笑んでごきげんようと頭を下げて挨拶をする。
すると今度はカイロスに向かってロイが言う。
「こちらはこの度僕と婚約したオプシス伯爵家のご令嬢レイニーだ。今日は皇后様と皇太子妃様と色々相談するために来ていて僕に挨拶に来たところ捕まった。でもご実家のお祖母様の為に早く帰らないといけないそうなんだがだいぶ引き留めてしまったのでお茶は出来ないから紹介くらいはと思って」
また長い説明を加えてロイが話す。のんびりとした性格のロイらしくなく何か急いている。
カイロスも何事かと思いつつちゃんと挨拶をした。
「ええと、ご紹介にあずかりました。カイロス・ウィル・ウォールと申します。今は魔法省研修期間2年生です。ロイ殿下には長らく良くして頂いています。公爵夫人になられるオプシス伯爵令嬢にもお見知り置きを頂ければ光栄です」
するとレイニーもしっかりと挨拶を返した。
「もちろん存じ上げております。私も皇太子妃様に大変良くして頂いております。申し遅れましたがレイニー・オプシスと申します。カイロス様こそ次期ウォール家の公爵様ですのでこれから頻繁に顔を合わせる機会があると存じます。どうぞ仲良くしてくださいませ」
お互い社交界デビューはしているので名前くらいは知っている間柄だかきちんと挨拶をしたのは初めてだった。
そんな挨拶を交わしてレイニーは本当に急いでいたらしく帰っていった。
ロイが外まで見送る。
カイロスは部屋に待っているように言われて窓から見下ろすふたりの姿はカイロスの無意識のうちに魔力をを増長させた。
すぐに見るのをやめていつもの場所に座る。
しばらくしてロイが戻ってくるとカイロスがなんだったのか問いただそうとした。
「ロイ殿下、今のは…」
そこまで言うとロイがストップというように右手をカイロスの顔の前に突き出した。
「どうせそのうち紹介する予定だったから」
その言い訳はあまりに苦しくカイロスが右手を退けろと言うように払う。
「何企んでるんだ」
カイロスが親友の言葉遣いで聞いた。
するとロイがうーん、と決まり悪そうに斜め上を見たあと言った。
「彼女…婚礼する気あるように見える?」
その意外な質問に今度はカイロスがらしくなく間抜けな返事をした。
「はあ?」
婚礼する気も何も選択肢は無いのだから心を決めてここに来ているんだろうになぜそんなふんわりとした質問をするのだろうか。
ロイの意図が全く掴めない。
「いやぁ、実は僕は彼女を、彼女は僕を。お互いにこの人苦手だなあって多分思っているんだよね。お前もそういう雰囲気を感じる時、あるだろ?」
ロイが苦笑して話した。
なるほど。ロイはレイニーが自分をどう思っているのか知りたかったのか。
そしてロイが彼女が苦手なのか。ロイの持つ気質に全面に現れている。
だが少し見えてしまった彼女の持つ気質にも確かにロイに少し苦手意識を持っていた。
カイロスはそういう人の持つ雰囲気の様なものを見ることができるからロイはレイニーと会わせたかったんだろうと解釈した。
だけど珍しい。
ロイが人からそういう気持ちを向けられることも向けることも今まで殆どない事だったからだ。
少しカイロスが黙って考えているとロイがまた言う。
「やっぱりそうか。はぁ、困った。これからずっと暮らしてくのに打ち解けられなかったら言葉通りの仮面夫婦だ」
参った様子の親友を見てカイロスは余計なことは言わずひとつ助言をしてやった。
「レイニー令嬢をちゃんと見てやれ。彼女はお前をちゃんと見ようと努力してるから」
それを聞いてロイが目を丸くして信じられないとひとこと言った。
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