第39話

「お姉様〜!」

急な訪問に驚きつつもソフィアは扉を開けるなり甘えてくる妹を抱きしめた。


「どうしたの?突然」

ソフィアが突然訪ねてきた妹、リリアの顔を見つめながら言う。

我が妹ながら可愛い顔をしている。リリアがぱっと笑顔になって言う。

「お兄様がロイ皇子様にお呼ばれされたので着いてこさせてもらったんです!今回も熾烈な戦いでしたわ!」

ふんふんと鼻息を荒くして兄であるカイロスに無理矢理連れて来させた事を自慢する。そんな弟と妹のやり取りが目に浮かぶようでソフィアがぷっと吹き出した。

リリアは5歳年下の異母妹。今は12歳。

ソフィアとカイロスは双子の為、感覚は友達に近いがリリアは年が離れているので2人からたっぷり甘やかされてきた。

しかしリリアが5歳の頃、姉は皇宮へ。

そして6歳の頃には兄が魔法学校の寮へと行ってしまう。それでもソフィアもカイロスもなるべくリリアに会うようにしていたのでリリアは一応可愛い程度の甘えん坊になってしまった。

現に恐らく物凄く嫌な雰囲気を醸して連れて行きたくない顔をした弟を粘り勝ちでねじ伏せてきた。

ソフィアもリリアが胸に飛び込んできたのでいつも通り抱きしめてしまったが今日は少し違う。

リリアの肩を抱いてぱっと身体を離す。

リリアがきょとんとして言う。

「なあに?お姉様、あ、皇太子妃様」

ついいつものようにソフィアをお姉様と言って抱きしめてしまったが継母にそろそろ礼を尽くしなさいと注意されたのかリリアははっとした表情になって言い直した。その事をソフィアにも注意されると思ったのか身をすくめる。

ソフィアは少し不機嫌な表情と声で演技をした。

「もう私とお会いしてくださらないお姉様とは私の方からお断りしますわ!お会いしません!って言ったのはどこの姉不孝な妹だったかしら?確か公爵家の末娘だったような気がするわ」

ソフィアが意地悪を言うときゃあ!と黒歴史と言わんばかりにリリアが悲鳴をあげてソフィアの口を塞ごうとした。しかし注意された事が頭の片隅にあるので両手が行く宛てがなく宙を彷徨う。

そしてリリアが申し訳なさそうな顔をして小さな声で上目遣いで謝ってきた。

「も、申し訳ありませんでした…。あまりにも政務がお忙しそうでお会い出来なくて拗ねていました…。それに…」

その後は口をもごもごとさせる。ソフィアが不機嫌な演技を崩して聞き返す。

「それに?」

様子がおかしかった。

リリアは幼い頃の自分とは違って口篭るような子では無かった。首を傾げて覗き込んでくる姉にリリアは白状した。

「お、お、お姉様と仲良くなりたいからって私に取り入ろうとする殿方が多くて少し腹が立って…お姉様に八つ当たりしてごめんなさい…!」

リリアはひと息で言って謝った。瞳をぎゅっと瞑って両手を握っている。ソフィアはリリアの両肩を抱いているけれど明らかに強ばっているのが伝わってきた。

ソフィアも昔からそんな人がいるのを知っていたけれどこれまでの対象はカイロスだった。

幼いリリアが色々常識や貴族間の暗黙の了解を知ったり覚えるまでは手を出してこなかったのだがついに魔の手が伸びていた。

カイロスは親友は1人で十分だからと昔から社交の場で言ってくれていたがリリアはそうはいかない。男性にばかり社交の場で声をかけられていては悪い噂が出る。

絶対に許せなかった。妹を利用しようだなんて。

ソフィアが唇をきゅっと1度結んで眉を寄せて怒りをそっと腹の下に納めたあとリリアに声をかけた。

「リリア。顔を上げなさい」

その声は限りなく優しくてリリアは姉の声に弾かれるように顔を上げた。

黙って見あげるとふっと口元を緩めて頭を撫でてくれた。

「いい?リリア。次にそんな人が来たらまず私の所にその方といらっしゃい」

その返事に驚いたのかリリアが声を上げた。皇太子がいるのに他の男に会うの?と妹の顔に書いてある。そんなリリアのおでこをぴしっとつついてソフィアは言った。

「違うわよ、その人を注意するの。私の大事な大事な妹になんてことをするのって。公の場で1人でも注意されたら2度とリリアに取り入る為の輩は来ない。これからはリリアを本当に愛してくれる人だけがやってくる」

微笑みながら言うソフィアにつつかれたおでこを抑えながらリリアが言う。

「わ、分かりました。でもお姉様。私のことを愛してくれる人なんているのかしら。世の中の男の人は私とお姉様を見比べるわ。私も分かるもの。お姉様のが断然綺麗」

リリアが不安そうに言った。

ソフィアは今度は両方のほっぺたをむにっとつまんで呆れて返事をする。

「馬鹿ね、私たちは似て非なるの。確かにこの薄紫色の瞳の色も同じ、銀髪も同じよ。でもねあなたは私より透き通った肌をしているし鼻先には魅力的な黒子がある。声も私より高いから女性らしいの。姉妹なんてどこもそうよ。お互い似ているけれど持っていない物を片方が持つの。私だってリリアと並んだ時、似てるからこそ私の劣化が目立つんじゃないか気になるのよ?」

そのソフィアの言葉が意外すぎてリリアの口から変に高い声がもれた。それに恥ずかしくなって赤面するとソフィアが優しく微笑む。


その後リリアがどこか安心した笑顔を見せてくれたのでソフィアも少し安心した。

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