第35話
ロイの縁談の相手は3人にまで絞られた。
元々ティーパーティーの一件で入れる貴族令嬢が限られていたのでとても話が早く進み、そのうちのひとり、レイニー・オプシス伯爵令嬢が最も有力な候補だった。
レイニー・オプシス。
彼女はオリーブベージュ色の瞳と髪色を持つ美しい娘である。肌は白く、ぱっちりとした瞳が天真爛漫に見せるが年齢よりも遥かに落ち着いて受け答えをする。ロイよりひとつ歳下だった。
とても美しい天気雨の中産まれたからレイニーと名付けられた。
雰囲気は柔らかく性格は常に謙虚。
立ち居振る舞い全てから気品が感じられる。
ただひとつだけロイには気にかかることがある。ロイから見た彼女は1ミリたりとも縁談を望んでいるようには見えなかった。
皇室内の掟で皇子の縁談を進める場合、特定のひとりに決まっていなければ候補者たちをそれぞれ日をわけて皇帝、皇后、皇太子、皇太子妃、宰相、そして夫となる皇子とティータイムという名の面接をして最終決定することになっていた。
しかしそれがあまりに散々だった。
1人目の令嬢は錚々たる人物の集まりに緊張で固くなってしまって気持ち悪くなって途中退席。
2人目はルイとソフィアの噂が気になって仕方ないようでしきりにちらちらとふたりの様子を伺う。
流石に兄もその無礼な振る舞いにいらいらとしていた。表情は笑っていたので令嬢は気がついていないだろう。いつまで経っても噂が気になって仕方ない様子が抜けないので結局ルイがソフィアの肩を突然抱いて愛称で呼んだ。それに驚いて顔が紅潮したソフィアを見てようやく様子見を止めた。
そしていよいよ3人目がレイニーだった。
はっきり言って彼女だけは最初から違っていた。
物怖じせず受け答えをし、しっかりと礼を尽くして話す。皇后やソフィアとも気が合うようで会話が弾んだ。しかしロイは何となく彼女が苦手だった。
その作り込まれた余所行き感が妙に皇室の皇子の妃になるという意思から距離を感じさせる。
そして彼女が1度だけその表情を崩したのはロイが仲睦まじく話す兄とソフィアを見た時だった。
一瞬表情が曇ったように見えたが気のせいだったのかもしれない。
彼女は次に見た時には微笑みを浮かべていた。
最終的にティータイムが終われば皇后と庭園を散歩するのが一通りの流れなのだがレイニーの時だけソフィアが皇帝にお願いをした。
「陛下、お願いがあるのですが」
ソフィアのその珍しいお願いに皇帝が目を細める。
娘のように思ってきたソフィアの珍しいお願いなのだから嬉しく感じたようだ。
「なんだい?」
優しい声で問いかける。息子ふたりには全くそんな素振り見せない父に兄もロイも呆れた。
両親には娘がいないのでソフィアは本当に娘のように思って可愛がっている。なのでふたりしてソフィアには甘いのだ。だからといって甘えるソフィアではないけれど。
「オプシス伯爵令嬢と私もお話するお時間を頂けませんか?皇后様が終わったあとに…」
遠慮がちにだがソフィアがしっかりとした意志を持って頼んでいるのが伝わるのでもちろん答えはいい答えだった。
安心したソフィアが笑顔で礼を述べたあとくるりとこちらを向く。
「御二方もよろしいでしょうか?」
皇帝が許可しているのだから息子たちがダメだと言う権利はないが一応ちゃんとソフィアはふたりの意向も聞いた。
先にルイがこの上なく優しく甘い眼差しで言う。
「もちろん。ゆっくり話すといいよ」
そんな滲み出る甘い眼差しは兄は無意識だろう。
ロイも同意した。
「ぜひ。皇太子妃様までそう仰るのなら」
そう言って皇后にもその後許可を取りソフィアがレイニーを誘って庭園の方へ向かった。
その後ろ姿を見ながら皇帝と皇后は微笑ましそうに見ていた。
レイニーに決まればふたりは義理の姉妹になるからだ。
ロイが何となく内定している雰囲気のレイニーと上手くやって行けるか不安になっているそんな中でルイがロイに言う。
「多分決まりだな。オプシス伯爵令嬢。ソフィアがああいうのは珍しい」
その言葉にロイも同じことを思っていた。
恐らく建国のパーティーで大々的にロイの婚約と結婚を発表する予定だから皇帝は面接を急いたのだろう。
秋の紅葉の中、なびく銀髪とオリーブ色の髪が柔らかい太陽の日差しに反射した。
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