第30話

わあっと声が上がる。

目が耳が全ての人間の全ての神経が彼らに集中していた。


ルイとソフィアの前には貴族たちが列を作っていた。先に皇帝と皇后に挨拶を終えたそれはそれは大勢に。

「皇帝陛下と皇后様に続いて御二方が会場に来られた時、あまりの美しさに驚きましたわ!」

「改めて本当に御二方はお似合いですなぁ」

社交辞令を永遠に聞かされてルイとソフィアもそろそろ頬が引きつってきた。

しかしまだまだ続く。

ただこんな事で音を上げる皇太子と皇太子妃としては育てられていない。

それにルイはソフィアを見れば頑張れた。

今日のソフィアは本当に綺麗だった。

白い肌と銀髪にワインレッドのドレスが映える。

どんなドレスでもルイの贈ったネックレスをしてくれているのも嬉しい。

見える度ちょっと口角が上がる。

少し貴族たちが途切れた時にソフィアに見惚れていたら声をかけられた。

「…か…んか…殿下!」

はっとして目の前のソフィアに微笑んで言う。

勝手に頬が緩んだだけだけど。

「ん?ソフィーどうかした?」

爽やかににこやかにそういうルイに相反してきゃあー!と黄色い歓声が上がった。

ソフィアが少し驚いて顔を赤くした後にルイも気がついた。

公の場でぽろっと愛称で呼んでしまってしかも自分の婚約者である皇太子妃に見惚れて気が抜けていた事が露呈したのだ。

遅れて気がついたルイもどっと汗が出る。

ソフィアが少しまだ頬が紅いまま言う。

「あの…メラル侯爵とメラル次期侯爵がお見えです…」

メラル家はウォンの実家。

ああ、最悪のタイミングで友人がやってきた…。

ルイの顔は絶望的だったのだろう。思わず近しい人だけは分かる悲壮感が滲み出てしまった。

それにウォンが内心笑いを堪えているのが分かる。

そんなルイとソフィアにメラル侯爵が挨拶をした。

「お久しぶりです、皇太子殿下、皇太子妃様。いつも息子がお世話になっております」

メラル侯爵が何事も無かったように対応してくれて助かった。

「いや、世話になっているのは私だ。いつも助かっている」

「お久しぶりです。領地はお変わりないですか?」

ルイとソフィアが口々に挨拶を返していく。

そのまま会話を続けながらメラル侯爵がルイにもう1つお礼を申し上げなければと言う。

「此度息子ウォンに次期宰相として皇宮内に席を設けていただけると陛下が仰ってくださいました。殿下がそうして欲しいと言ってくださったと。重ね重ねありがとうございます」

そうだ、ウォンの次期宰相としての席を用意して欲しいと父にルイは頼んでいた。執務室はまだ前任もいるので今回はルイの執務室に席を用意して欲しいと頼んだのだ。過去はそうしなかったもののルイとウォンは近くにいる方が相乗効果が大きいと今回感じた。

その話を今日侯爵とウォンに父はしたのだろう。

「そうだった。これでウォンと連携が取りやすくなると思って。私にはウォンが必要だ」

ルイがそう答えるとソフィアが嬉しそうに言う。

「まあ!それならこれからは何時でもウォンに会えるということですか?殿下」

そうやってぱっと喜ぶソフィアにウォンもよろしくお願いしますと答える。

ソフィアとウォンは昔から本の虫で気が合う。

ルイも嬉しそうにするソフィアを微笑ましく見ていた。

するとようやく久しぶりに会った緊張感が解れたのか突然侯爵から思わぬ攻撃を食らった。

「いやぁ、御二方が仲睦まじくて何よりです。幼い頃から御二方を見てきた人間のひとりですが久しぶりに殿下が皇太子妃様を愛称で呼ばれているのを聞くと感動してしまいました」

侯爵には微塵も悪気はないがルイとソフィアが硬直した。ルイが顔から火が出る思いで弁解する。

「い、いや!?仲はいいがたまたま出てしまっただけでな!?」

初手で声が裏返って更に逆効果だ。

ルイが自爆したのを見てウォンが俯いて肩を震わせる。ちなみにラルドも近くにいるので向こうは喉を鳴らして笑っている。

ソフィアは恥ずかしさに肩をすぼめた。

特段関わりのない貴族なら上手くあしらえただろうがメラル侯爵は別だ。

なにせ本当に昔からルイ、ソフィア、ロイ、ウォン、ラルド、カイロスを知っている。

それぞれの関係値に差はあるものの親戚のような人に言われると余計に言い訳がましくなってしまう。

結局そのまま挨拶が終り切るまで2人はその話をされ続けた。


その後はそれぞれ挨拶に回ったりソフィアは貴族令嬢たちに贈り物を渡すように彼女らを呼び出した。

今年ソフィアが贈り物に選んだのはお洒落なワインの栓だった。

綺麗な花々が掘られていて恋人とも家族とも使える。

昨年日射量が減ったためぶどうの収穫量も比例して減ってしまいワイン農家たちは苦労した。

そのため貴族令嬢たちにワイン農家を盛り立てる為に協力を得たいと言って渡したと言う。

しましょう!というのではなく協力を頼むというところがソフィアらしい。

そしてそうやって豊穣のパーティーの際にちゃんと皆も納得してなおかつ趣旨を忘れない贈り物を選ぶのがさすがだった。

そうしてワイン農家を盛り立てようと皇太子妃が言うことは貴族令嬢たちがお金を使って帝国内の経済を回すことに繋がる。

ルイから見ても彼女はウォン以外に背中を預けられる政治家の1人だった。


そうしてパーティーも中盤に差し掛かりようやくそれぞれの家門が会話を始めたりして2人の手が空いた隙にルイがソフィアを手招きして2人は会場から姿を消してしまった。

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