第27話

久しぶりに4人で会う。

それぞれに交流はあっても全員が昔の空気感で揃ったのはいつぶりだろう。


「ルシアがふたりを呼んでくれたの?」

ソフィアにしては珍しくはしゃいだ声を出す。

「ウォン、久しぶり!ティーパーティー以来かしら?」

ウォンがにっこりと微笑んで答える。

「そうなりますね、皇太子妃様」

ウォンはちゃんと礼儀をわきまえた返事をしたのだがソフィアが少し頬を膨らました。

「せっかく会えたし非公式なんだから友人として接してくださる?次期宰相殿?」

わざとそうやって距離感のある言い回しをするとウォンが負けた!と言って笑った。

「ソフィアには敵わないなぁ」

そう言って仲良さげに話すふたりにラルドが割り込む。

「ちょっと待って、なんでウォンだけ?ソフィアに俺は見えてない?」

そうやっておーいとソフィアとウォンの間を手を振るとソフィアがラルドを見て笑って返す。

「だってラルドは毎朝会ってるでしょ〜?」

「まあ、そうだけど。こんなに長い付き合いでこいつばかり贔屓されてたら悲しくもなるね」

「贔屓してないわよ〜」

その話にルイが加わった。

「え、ちょっと待て。ソフィアとラルドはなんで毎朝会ってるんだ?」

ルイが聞いてない!というように言う。

するとラルドが決まり悪そうな顔をした。

対してソフィアはけろりとこたえる。

「あら、聞いてなかったのね。私、1年くらい前かな。ラルドから護身術習ってたのよ」

「え!?」

ルイが驚いてラルドを見るとごめんという風にラルドが顔の前で手を合わせた。

ソフィアが言う。

「でもルイ、ラルドを怒らないでね。自分で身を守れるようにってお願いしたのは私よ。ルイに黙っててって言ったのも私」

ルイがしばらくあんぐりと口を開けたがふとある場面と繋がった。

あ、ソフィアが護身術を習っていたおかげであの時ソフィアを人質に取る奴を射撃出来たんだ。

そう分かった。

ソフィアが隙を作れたのはそのおかげだったんだ。

そしてソフィアがルイに言わなかったのはルイが自分を守ってくれるわけないと思っていたからだ。

それで始めたのかとルイはソフィアに申し訳なくなってじっと見つめてしまう。

するとウォンが何かを察したように空気を変えた。

パン!と手を軽く叩いて言う。

「せっかく久々に4人で顔を合わせた事だしお茶をしよう。ルシアもそのために呼んでくれたんだろう?」

ウォンがひょこっと顔を出してルシアを見るとルシアが頷く。

「はい、ご用意してあります。御二方がお着替えを済まされたら移動しましょうか」


「ところでウォンはなんで今日は皇宮に?」

着替えを済ませたルイが紅茶を飲みながら聞くとウォンがげんなりしてルイを見る。

「あのさ、ルイ殿下はご自分の政務に次期宰相が関わってないと思われます?北の地での種の交渉してるのに加えて他にもいい候補がないか図書室で調べ物してたんだよ」

ルイは今はウォンの執務室がないからウォンの動向を読めないので仕方ないが非常に申し訳ない。

この豊穣のパーティーの後に与えられるはずだ。

そうなれば連携が取れやすくなるはず。

だが今は素直に謝った。

「ウォンに迷惑かけっぱなしですまない」

そのルイの素直な謝罪にウォンではなくラルドが紅茶を吹き出した。

そして大笑いする。

「やだ、ラルド。染みがついちゃうわよ」

ソフィアがラルドのマントを拭く。

げほげほとむせるまで笑うのでルイが気恥ずかしくなって怒る。

「ラルドお前笑うな!ちゃんと謝ってるんだから!」

そうやってルイが怒るとしれっとウォンが毒を吐く。

「そうだよ、ラルド。ルイが素直になってるんだから今みんな謝ってもらっておいた方がいいよ」

それに今度はソフィアが笑った。

「おい!」

ルイが裏切ったウォンを見るとウォンが何食わぬ顔をしてクッキーをつまむ。

「もー、いいわ!」

ルイも知らん!と言って呆れた。

この空気感はいつぶりだろうと実はルイが1番体感していた。だってそれこそルイは過去からの空白期間が追加されている。

これもルイのせいで作れなくなった空気感だったから今戻ってきたのが嬉しい。


4人での談笑を終えてウォンとラルドが帰ることになり自然とルイがソフィアを部屋まで送る流れになった。

ルイとソフィアも普通に談笑していて大した話はしていなかったが部屋に着く途中の廊下でソフィアが急に立ち止まった。

「ソフィア?どうした?」

ルイが振り返って聞くとソフィアが少し複雑そうな顔をしてルイを見た。

言うか言わないか迷って言葉にしたように言う。

「ルイ、最近私の事避けてる?なんだかよそよそしいし…私、何かしたかな?」

そう聞かれてルイはどきっとした。

こんなに直球で聞かれると思っていなかったが思い返せば昔のソフィアはそうだった。

なんて答えるか迷ったルイは結局苦し紛れの嘘をついた。

「あ、その…ソフィアが皇后様に視察団に参加させて欲しいって頼んだって聞いて悩んでて…」

嘘だ。

これは悩んでない。ソフィアは参加させないから。

でも今はこれくらいしか切り札がなかった。

「それは、私のわがままだからルイが気にしないで欲しいと思う。でもそんなに気にしていたのならごめんなさい。あの…ルイ…こんな気まずい空気、寂しい、かな私は」

最後は控えめにソフィアが言う。

謝らせてしまって申し訳なかった。

寂しいと正直に言うソフィアにルイがこれ以上自分の気持ちから逃げ回る為にソフィアを避けられなかった。

自然と口から漏れる。

「うん、俺もそうだよ。よそよそしい態度をとってごめん」

そう、言ってしまった。

ルイの中で何かがブチッと大きな音を立てて切れる。崩れ出す。

そんな最中でソフィアがぱっと笑顔を見せた。

「じゃあもうこういう空気は終わりにしましょ?」

そう言って微笑むソフィアを見てルイも微笑んだ。


ああ、決心した事が崩れて音を立てている。


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