第26話

このよそよそしさを残したまま2人の日常は続いていく。


ばたばたとした忙しさがルイとソフィアそれぞれの足を急かしてふたりは何となく微妙な距離感のまま豊穣のパーティーの1週間前を迎えていた。

これまでの間やることは山積みでルイとソフィアは任された政務とガーデンパーティーの料理と花を調理場のシェフたちと庭師たちと相談して決めていく。

更にルイもソフィアも皇太子と皇太子妃としての挨拶の原稿を昼夜2回分作成。

またそれぞれにルイは北の地域の民たちに寒さに強い他国の新種の種を分けられるよう何とか交渉を進めて農民達が喜ぶ贈り物を考えた。一方ソフィアは口うるさい貴族の令嬢たちも満足するように招待状の装丁とささやかな贈り物選びをする。

そんなことをしていたらそれぞれの仕事に熱中するしかなくあまり顔を合わせる時間が無かった。

しかしお互いたまに顔を合わせられていい雰囲気で話せて近い距離にどきりとする瞬間はあってもルイがよそよそしいのでソフィアももどかしくもやもやとした心は晴れなかった。

そうしていたらいつの間にか1週間前を迎えていてドレスコードに合わせてふたりが豊穣のパーティーの衣装を決める日になっていた。

皇帝と皇后もドレスコードを守って揃いのデザインの衣装を纏う。

今までルイとソフィアはドレスコードは守るもののお互いは無視して衣装を決めていた。

しかし今回は久しぶりに揃いのデザインにしようとソフィアが提案したのでルイも了承した。

ソフィアはかなり勇気を出して誘ってみたのでドキドキしていたがルイが笑顔でいいねと言ってくれて本当に嬉しかった。

一方ルイはまた自分の気持ちに負けてしまったと部屋に戻ってから後悔した。

ルイの日誌は今のところ悩みと後悔で埋まり続けている。

どうにかしたいと焦るもののなかなか上手くいかなかった。

自分の気持ちのコントロールがどうも上手くいかない。昔から自分の気持ちは無視をしてきたからなのか過去でもいざコントロールしようとすると失敗したように今も困っていた。

でもひとつ過去と違うと言えるのはルイはソフィアから目を逸らして逃げようとしている訳では無いということ。

とりあえずソフィアの幸せに目を向けていること。それは明らかな違いだった。


ルイが着替え終わって悩んでいるとパタン!と扉の閉まる音がした。

ドレスルームからソフィアが出てくる。

ルイはそのソフィアに視線を奪われた。

「あ、当たった」

そう言ってソフィアが微笑んだ。

今回のドレスコードは赤色かオレンジ色を取り入れることだった。昨年は少し日射量が少なかったので太陽がよく顔を出してくれるようにという事でそうなったらしい。

ルイはチャコールグレーのシャツにワインレッドのネクタイ、同じくチャコールグレーのスーツ。

ソフィアはワインレッドのドレスだった。

チューブトップでスカート部分から切り替えがある。いくつものチュールが重なっていて花びらみたいだった。

そこにソフィアの腰までの銀髪がストレートにアレンジされていて艶やかに揺れる。

胸元にはいつものネックレスがあった。

少し大人びたドレスにソフィアの菫色の瞳が美しく合わさって魅了する。

あまりに綺麗でぼけっと見とれてしまった後にソフィアに声をかけられて意識が戻ってきた。

焦って何か違う話をしようとルイはさっきのソフィアの発言について聞く。

「あ、当たったって?」

するとソフィアがいたずらっ子みたいに笑って言った。笑顔はまだ幼く見える。

「ルイは多分ワインレッドを選ぶだろうなって。きっと今年のワイン農家達が苦労しないようにって思ってこっちを選ぶ気がしたのよね、当たり?」

正確に理由を当てられて驚きつつルイが答える。

「当たり。びっくりした」

ルイの驚く顔にソフィアがふふんと自慢げに言う。

「殿下の事を誰より知っておりますのよ?」

とふざけて言った。

本当に、誰よりも知っている。

ルイもそう思った。

困ったように笑うルイにソフィアが何かを言いかけた時後ろから聞き覚えのある声がした。

「お〜、本当に絵になりますね」

振り返るとウォンとラルドが来ていた。

「あら!ウォン、ラルド!」

ソフィアが手を合わせてぱっと顔を明るくする。

「どうしてここに?」

ルイが聞くとラルドが隣を見て言った。


「ルシアが御二方を見に来てください、と」

そう言った張本人がにっこり笑った。


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