第25話

「ああああああああぁぁぁ」

ルイもルイで悩んでいるのだからこんな苦悩の声が部屋に響いてもおかしくない。


ルイの悩んだ声に今日執務室に遊びに、というのはおかしいがルイの友人に限りなく近い未来の部下たちが反応した。

ルイが皇帝に即位すると宰相になるウォンとルイの護衛のラルド。

ふたりは元々幼い頃から貴族の家柄の子息でルイと友人関係である。

ソフィアとまた少し違った幼馴染というか親友たちというか…。

ルイが15歳の時にふたりを次期宰相と護衛に選んだ。結果的にはソフィアともかなり長い間友人だ。

ウォンが言う。

「また皇太子妃様の事でお悩みで?」

淡白だが気にかけてはくれる。

ルイが答えずにいると代わりにラルドが言う。

「まあ、悩んで当たり前でしょうね。散々なことしてきましたから」

こっちもなかなか冷たい。

しかしルイにとってふたりは苦言を呈してくれる貴重な人物だ。こういう時は果てしなく辛辣だがふたりが今まで散々フォローしてくれていたので文句は言えない。

ウォンは皇宮には住んでいないから外の情報ももらっている。ラルドは皇宮の中に自室がある。

過去ではふたりはルイがソフィアが亡くなった前後に他国へ派遣して居たのでルイの惨状を知らない。

報告は受けていたのかもしれないが。

ウォンにはもう少しで執務室が与えられるはずだ。

過去ではそうだった。

ふたりはいつもルイのブレーキ。

山賊との喧嘩なんかは一緒にやっていた悪友だがルイの女遊びに対してはちゃんと臣下として何度も苦言を呈していた。

ルイが聞く耳を持たないのと皇帝に即位してからは遊ぶ暇がなかったのであまり言われてないが暇の多かった皇太子時代1番酷かった頃は何度もやめろと言われた。正しく言うと暇ではないが隙を見つけてはルイはサボっていた。

ウォンは次期宰相に選ばれているので情報収集の為に貴族の女性たちと会うことが多くルイがその場について行くと聞かないため連れていくと目を離した隙にルイは誰か気に入った者を皇宮に連れて帰って行ってしまっていた。

身分的にはルイの言うことに基本逆らえる立場では無いのでウォンも困っていたがソフィアには特に申し訳なく感じていた。

なので今ソフィアの為だけに悩んでいるルイにウォンもラルドも心底安心していた。

「ところで今日はウォンはなんでここに?」

ルイがそういえばとでも言うように顔を上げて言った。

するとウォンとラルドが顔を見合わせて肩をすくめてため息をつく。ラルドが代わりに答えた。

「誰かさんのせいで極寒の地の視察団に次期宰相殿とこの護衛も行くようにと皇帝陛下から直々にご命令があったので」

ルイがえ!と声を上げた。

ラルドは元々護衛なので行くような雰囲気があったがウォンまで巻き込んでしまうとは。

するとウォンが読んでいた本から顔を上げて冷めた目をして遠くを眺めながら言う。

「まあ…ルイがティーパーティーでやらかしたのを遅れて到着したせいで後から知って処罰が出た時から次期宰相なら一緒に行かされるな〜って思ってたからね…」

ウォンはどこを眺めているのか目が死んでいた。

本当にこればかりはルイも申し訳なく感じる。

「す、すまん。陛下にお前は外して貰えるよう言おうか…」

そうルイが言うとウォンが意識を引き戻して言う。

「いや、それは宰相になる人間のすることじゃないでしょ。どうせいつか視察する可能性の高い地域なんだし今行っても損は無いから」

ウォンがルイを見ながらちゃんと言う。

申し訳ないが頼もしいと感じる。

一方ラルドが言った。

「こっちは問答無用で着いていくんだからもうちょっと気にかけてくれます?ルイ様?」

ラルドは絶対に着いていかないと行けないので処罰が決まった時点でもう諦めていた。

「うん、お前も本当にすまん」

ルイが素直に謝るのでラルドも文句は言えなくなった。ちぇっとひとこと言っただけだった。

その後ウォンがそんなラルドを無視してルイに聞く。

「視察に皇太子妃様はお連れする予定で?」

質問されてルイが少し考えたあと言った。

「いや、今のところはその予定は無い。ソフィアは悪くないのに一緒に処罰を受ける必要ないから」

それを聞いてウォンとラルドがふーんと言ったふうにルイを見る。

ソフィアの話が出た流れでラルドがまた聞く。

「それでルイはソフィアとの何に悩んでる訳?」

少し砕けた言い方になった。

それはウォンもラルドも友人として聞いている時に話す方法だった。

それを聞かれたルイはばふっと自分の腕に顔を埋めてもごもご言う。らしくない。

「…ソフィアとの距離感が分からない」

なかなかに間があってしかもものすごく小さな声だったがふたりは聞き逃さなかった。

ウォンが更に重ねて聞く。

「そんなに悩むこと?これからは昔みたいに仲良くしていけばいいんじゃ?」

ルイは返事をしない。ラルドが言う。

「そうだろ。ていうかルイのそういう姿久々に見たなあ。女遊びが激しかったのはなんだったんだ本当に」

それを言われるとルイはぐうの音も出ない。

しかしウォンとラルドの会話は続く。

ウォンがラルドに返した。

「何言ってんの。ルイがあんなに女遊びしてたのも結局はソフィアが好きで好きで仕方なくてしてたんだから。ソフィアをこれ以上自分の色んな複雑な気持ちに巻き込みたくなかったんでしょ。これが世に言う愛情の裏返し」

「ほぉ〜、さすがなかなかに女慣れしてる次期宰相殿は違いますね」

「うるさいな。好きで会ってるわけじゃないんだよ」

ふたりの会話を聞いていながらばれてると心の中でルイが言う。

しかもウォンはルイが言語化出来ないことまで正確に全部言い表していて正直怖いレベルだ。


そう、ウォンの言う通り。

だからこそこれから先はソフィアを自分勝手に巻き込みたくない。

ルイは自分がいちばん信じられない。

また傷つけるかもしれない。それだけは嫌だった。

ならばソフィアを傷つけない人間にソフィアと婚姻して欲しい。幸せにしてやって欲しい。

心から笑わせてやって欲しい。

でもソフィアへのルイの気持ちも日に日に強くなる。結局ルイの頭と心の中はぐちゃぐちゃになっていた。

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