第21話
ソフィアの部屋の扉をノックすると侍女のティナ困った顔をして出てきた。
「殿下、申し訳ありません。お嬢様は調べ物をしに行くと出ていったきりなのです…」
そう言って出た時は勝手に戻ってくるから探すなという意味らしい。1人で考え事や調べ事がある時だとティナが言う。
それを聞いてルイは自分で探すから気にするなとティナに言ってふむ、と考えた。
ソフィアが行くところは宮中の中で多すぎる。
ソフィアは宮中にたくさんのお気に入りの場所があるしルイも知らないような人目につかない隠れられる所も知っている。だが言葉のままに考えると出ていったきり戻って来ないでいる場所で1番可能性があるのは宮中の図書室だった。
あそこに行くとかなり長時間ソフィアは出てこないし子供の頃ソフィアと入ると放置されるので暇で仕方がなかった記憶があった。
とりあえず図書室に向かってみる。
目の前の重たい扉を開くとそこには探していた人がいた。
扉が開く音でその人がこちらを向く。
長い銀髪がふわりと揺れた。
「ソフィア」
ルイが声をかけるとソフィアが手に持っていた本を閉じて周りの本もさっと片付けて返事をした。
一瞬、焦っていたように見えたけれど気のせいだった。
「ルイ、どうしたの?」
「あ、ソフィアに会いに行ったら戻って来ないってティナに言われて探しに」
「あ、そうだったの?ごめんね」
そこまで話をしたところでソフィアの目に何が入ったのかもう!と声を上げた。
「ルイ、ちゃんとシャツを着て!だらしなく見えるわ」
ルイが暑くて図書室に入ってから緩めたシャツの事を目ざとく指摘してきた。
確かに上のボタンも3個開いて、シャツの裾も入ってないが暑くて今すぐ直すのは無理だった。
外で稽古して長時間演説を聞かされて、宮中でソフィアを探していたので涼しい図書室で少し熱気を冷ましたい。
「大丈夫だって。今ソフィアしかいないから」
そうやって見逃してくれと言うとソフィアがぷんぷん怒って言う。
「誰か入ってきたらどうするの!それに…っ」
そこまで言いかけてソフィアが急にやめるのでルイが聞く。
「それに?」
なにを考えたのだろうとちょっとからかったらソフィアがむっと可愛く拗ねて近寄ってきた。
頬が少し紅潮していて可愛い。
閉めるわよ!と言いながら手を伸ばして歩き出した時、ソフィアの足元にあった本につまづいてソフィアが倒れてきた。
ルイは咄嗟の事にソフィアを受け止めて2人で倒れる。
ソフィアがよく転ぶのでこれくらいは慣れていた。
床の上でソフィアがルイに覆い被さるように転んでソフィアが謝ってくる。
「やだ、ルイごめんなさい。背中痛くない!?」
そう言って起き上がるとルイが笑って返す。
「ソフィアのおかげで慣れてるから」
ルイもそう言って両手を後ろについて身体を起こすとソフィアがごめんね、と申し訳なさそうにいじけた。
その時だった。
ソフィアの瞳が揺れた。
ルイのシャツがめくれ上がったせいで何かを見て目を見張った。
そしてルイを見て泣きそうな顔で言う。
「どうして…」
まるで信じたくないけれど信じざるを得ないというような言い方でルイが戸惑う。
焦ってソフィアを慰めた。
「どうした?大丈夫だって。意地悪言ってごめん。ほら、なんともないから」
ソフィアが俯いたまま顔を上げない。
ルイがそう言ってソフィアの肩を抱いて背中をぽんぽんとさすってやると暫くしてソフィアが顔を上げた。
泣いているのかと思ったのだが泣いていなかったようだ。
顔を上げたソフィアはいつものソフィアだった。
なんなら少しふざけていた。
ルイの心配そうな顔を見てルイの鼻をつんっとつついて笑って言う。
「そんなに心配だった?昔のルイみたい。この前までのルイが夢だったのかしら?」
そう言われてルイはぽかんとし少ししてようやくからかわれていたことに気がついた。
「ソフィア、からかっただろ!」
ルイが引っかかったのを照れ隠しに怒ったふりをして言うといつもの仕返しよとくすくす笑う。
本気で心配したんだぞとぶつぶつ言うルイにソフィアは部屋に戻ろうと促した。
「私のお部屋に昨日おば様から美味しいお茶が送られてきたの。一緒に飲みましょうよ」
それを聞いてルイが言う。
ちょっと不満そうだけどソフィアから誘いを断る必要はなかった。
「じゃあお邪魔するかな」
そしてひとつ気になった。
ソフィアはやはり母親をおば様と呼んでいたのだと。
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