第19話
本当にどうかしている。
ルイは頭の中がその言葉でいっぱいだった。
ソフィアがほんの少しだけ近くでルイを見つめただけなのに心臓が破裂しそうになった。
今でもばくばくしていて健康に悪そうだ。
ふとソフィアがこちらを見ているのに気がついてなんだろうと見つめ返すとソフィアの顔がみるみる近づいて心臓が警報を鳴らすようにどきんどきんと音を立てた。結局焦ってソフィアを止めた。
直ぐにキスできる位近くで見つめられて心音が聞こえそうになって危なかった。
それにしても絶対赤面していたはずだ。
恥ずかしすぎる。
だいたいこんなこと以上のことを他の娘たちとは今までしてきたくせになんでソフィアにはこうも心臓がもたないんだ。
そんなことを考えながらも本当は何故なのか分かるのでルイは自分の雑念を消すように深呼吸をして切り替えた。
今はティータイムに集中しよう、そう思ってルイは全力で精神統一して目の前のクッキーといい香りの紅茶のことを必死に考える。
そうやっていい具合に無駄な煩悩が消えた頃ロイが邪魔をした。
「昨日の兄上は潔くて格好良かったです。ねえ、ソフィア嬢?」
ロイはにこにこして紅茶片手にソフィアに言う。
ルイはこの数年で1番ロイを恨んだ。睨むがロイには届かずルイの恨みの籠った視線は空中をさまよった。
ちらりと見たソフィアは突然の質問に狼狽えていた。そして戸惑ったのか話を逸らす。
「そうですね…それよりもロイ様、私のことはいつも通りソフィアと呼んでください。ぎこちないですから」
それよりも?
ルイが声には出さないが心の中でわっと言う。
それにロイが笑って返す。
「ではお言葉に甘えて。ソフィアもそうしてよ」
ソフィアも微笑みを返してふふと言いながら返事言う。自分にやめろやめろと思うのにまたルイの心の中がルイの意に反して言う。
なんでそんな風に笑うんだよ?
「そうさせていただきますね、ロイ」
ソフィアとロイの話になんだかもやもやするルイは自分のこの感情に気がついてなにを考えているんだと正気を取り戻した。
だめだだめだ、考えるな。
そんなルイの複雑な心情は関係なしに2人が仲良く話していく。
「昨日はソフィアもかっこよかったけどね」
「本当に?嬉しい、でも…嫌な感じだったわよね」
「あれくらいがあの令嬢にはいいよ」
そんな会話を交わしてロイの留学の話、これまでのソフィアが読んだ本とロイの読んだ本の話、ロイの魔法についての質問、ソフィアが成長したロイを褒めるとロイはソフィアを褒める。
ロイの褒め言葉に微笑みながら少し照れるソフィアを見てなんだかルイの腹の中がぐつぐつと煮えてきたが何とか耐える。
そんなルイは気にせずロイがルイとソフィアにお土産があるとテーブルにそれぞれ置いた。
その箱をルイが先に空けた。
見覚えのある箱だったから中身は分かっていた。
ぱかっと蓋を開けるとそこにはやっぱりルイの瞳の色の宝石をポイントにしたネクタイピンが入っていた。
ああ、やっぱり。
ルイは久しぶりにそのネクタイピンを見て頬が緩んだ。
このネクタイピンはルイとロイが過去に口論した際に落として宝石が割れてしまった。
こんな形でもう一度手に入るなんて思わなかったけれど。
ルイのその顔を見てロイが言う。
「兄上、気に入って頂けました?」
そのロイのわくわくした顔にルイは笑顔で返した。
「もちろん。大切に使うよ」
ロイもルイに気に言って貰えて満足そうに笑う。
するとソフィアがわあ!と声を上げた。
2人の視線がソフィアに向かう。
ルイはソフィアの箱の中身も実は知っていた。
過去ではソフィアに関心がなかった…と言うようだったがしっかり覚えている当たりこの頃は関心がない訳ではなく関心がない振りをしていたようだ。
ソフィアの箱の中にはソフィアの瞳の色、美しい菫色の宝石をポイントにした万年筆が入っていた。
ソフィアがロイを見て言う。
「私が万年筆が欲しかったってどうして知っているの?凄く嬉しいわ!ロイ、ありがとう!」
子供のようにはしゃぐその笑顔が眩しかった。
ロイも嬉しそうに話す。
そんな2人を微笑ましく見ていたのだがふとルイはつまらないことを考えてしまった。
お似合いだしそんなにお互い気も合ってお互い大切ならお前たちが婚姻すればいいじゃないか。
そんな言葉が浮かんできた。
またはっとしてルイは自己嫌悪する。
もういい加減にしてくれルイ・ソルセルリー・フェンガリ。みっともない。
そう思って険しい顔をしていたのだろうか。
ソフィアとロイがルイを見つめていた。
ソフィアが言葉を発する。
「ルイ、どこか具合が悪い?」
その言葉にルイは顔を上げて聞き返す。
「え?どうして?」
するとソフィアが心配そうに言った。
「顔色が悪いから。この間も倒れたし…」
本気で心配そうに言うソフィアにルイは焦って取り繕った。こんなつまらない感情で顔が険しくなっていたなんて知られたくなかった。
「いや、思い出してたんだよ。昔もソフィアはそれをロイから貰った時そんな風に喜んだから、いつの事だっけって」
なんとか強ばる顔を笑顔にした。しかしルイはその時の自分のミスに気がついていなかった。
ロイに聞き返されて気がついた。
「前にも?ソフィア、前にもこれと似ているもの贈ったことある?これ、今回のために作ったものだけど被ってた?」
ルイはそのロイの言葉を聞いてやってしまったと思った。つい焦って過去の話を…!
ロイの問いにソフィアが答える。
「いいえ、初めて貰った」
ソフィアはロイを見つめずルイを見ていた。
まるで全てを見透かすように真っ直ぐな瞳でなにかに気がついた人のように。ルイがその真っ直ぐすぎる瞳に焦って言う。
「あ、あー、待て。ロイじゃなかったのかも!他国の来賓からのものだったような気がする。そうだ、俺に贈られたのを羨ましそうに見てたんだよ」
そうやってルイが真実を混ぜて嘘を言うとロイがなんだ〜とほっとしたように言う。安心したのか久々にロイが兄に話すように砕けた話し方をする。
「そうそう、それを思い出してこのお土産にしたんだよ。昔の思い出と重なったってことか。兄上も驚かせないでくれよ」
そうロイが言ってルイもごめんと言ってほっとした。
なんとか誤魔化せたようだった。
その後はソフィアももう!ルイったらロイをいじめて!とからかってきてなんとか談笑が続いた。
ただルイは見落としている。
ソフィアがルイの誤魔化しの話を難しい顔で聞いていたことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます