第18話

誰かがソフィアの日記を手に取ってぱらぱらと捲った。長い銀髪の女性だ。

「ふふ…っ、内容が変わったのね」

女性はそう一言いって眠るソフィアのおでこにキスをして光のように消えてしまった。


そんな夢を見た。


朝目が覚めるとソフィアの記憶の中にぼんやりと夢が残るもののよく思い出せなかった。

なんだろうと思い出そうとしていると部屋の扉がノックされてひょこっとティナが顔を出した。

「お嬢様、起きてらっしゃいます?」

「ええ、起きてるわ」

考えるのをやめてソフィアが返事をするとティナが部屋に入ってきて朝食の前の身支度をし始めた。

「今日から殿下の謹慎も解かれますわね。それに午後には大公様も一緒にティータイムを過ごすだなんて。一体何年ぶりでしょう」

ソフィアの髪を梳かしながらティナが言う。

「…そうね」

ソフィアが短く返事をした。


ルイはこの3日間皇帝陛下と皇后様の決定を待つ間は部屋に謹慎処分。

昨夜処罰の決定が決まった。

まず皇帝と皇后はルイが呼び寄せて皇宮へやってきた貴族の娘たちを一斉に探し出しこの先3年は皇宮主催のパーティー以前に皇宮への出入り禁止とした。

そしてソフィアの実家であるウォール家とは此度の騒動については穏便に済ませることになったので軽く食事会を行うことに。魔法省も皇室の支援があれば研究がより進められるしなによりソフィアが父親に頼んだのでソフィアを尊重して父も軽く済ませることにした。

そもそも魔法省の公爵、事実上魔法使いで一番の権力を持つ者の娘と言うのは実は皇太子との身分の差は大差ない。魔法省自体が皇室とはまた違う権力を持つためだ。その事からソフィアが自身魔女という事実以外はどの貴族令嬢より皇太子の相手に相応しかった。皇太子妃になったことで父親の身分は軽く超えてしまう。よって娘でもあるが皇太子妃のソフィアは父親にとって敬うべき相手であった。

そして魔法省の為に皇室に嫁いだ娘のお願いを断れるはずもなかった。

ルイ自体の処罰はまずこの先3年はルイに使われる皇室の費用の3分の2は帝国各地の必要な各所の寄付に使われる。そしてなにより厳しい処罰というのがルイは来年の1年のうち3ヶ月間は官僚は行くなら死にたくなると言われ、農民ですら行くとなれば死を覚悟すると言われる貧しく極寒の地にある皇室の別荘へ送られることになった。

そこで3ヶ月間は視察官を務める。

ルイへの批判やソフィアへの同情、貴族令嬢達への嘲笑、そして噂話をしていた民たちはこの決定に震え上がった。

これは皇帝は実の息子ですら容赦なく罰せると言うことを国中に広めるという事。その結果、気の毒に感じられてルイを批判する民はもはや同情するように、貴族たちも娘が皇宮に出入りしてた恥知らずがいる家はもう表を歩けないというような恥辱を味わったし他の家は命拾いしたものの皇帝の皇太子への処罰を見て緊張感を高めた。

ルイの処罰は最終的に権力のある貴族階級を牽制し貴族階級に属さない民には皇帝の公正さをアピールできて皇室の力をさらに強める結果になったのだ。

しかしソフィアはルイが心配でならなかった。

今日もロイと3人で久しぶりのティータイムなのに気乗りしない。しかし今日は3日ぶりにルイに会えるので逃すわけにはいかなかった。


険しい顔をしているとナディアがいつの間にかやってきてソフィアを心配した。

「お嬢様、お顔の色が良くないですが…今日はお断りしますか?」

その提案にソフィアは弾かれたように立ち上がって焦って答えた。

「だめ…っ!!」

つい声が大きくなってティナとナディアが驚いた顔をする。ソフィアのそんな人間らしい表情が見られるのが久しぶりだったこともある。

ソフィアがはっとして口に手を当てて座り直した。

そして少しまた顔を顰めて言う。

「だめよ、今日を逃すとルイと次にいつゆっくり会えるか分からないもの。もうすぐ夏だから忙しくなってしまうから」

そのソフィアの返事に2人がそれぞれ返事をした。

「確かにそうですわね、帝国の夏は政務をしてもしてもキリがないですし…お嬢様も忙しくなられてしまいますし…でも…」

「そうですが…もし具合が悪くなられたら直ぐに殿下に仰ってくださいね、心配かけまいと我慢はしてはいけませんよ」

2人して心配してナディアは釘をさしてソフィアに言った。その2人を見てソフィアの頬が緩んだ。

2人がそう言ってくれてなんだか妙に安心した。

どんなに状況が悪くても日常のやり取りは普通に続くんだなと思うと気を張らずに済む。

「うん、2人の言うことを聞くわ。ちゃんとルイに頼るわ」

心配する2人にソフィアはそう言った。


朝食を簡単に済ませて昼前に庭園でティータイムをすることになっていたのでソフィアは部屋に迎えに来てくれたルイと一緒に向かった。

「3日ぶり位なのに不思議と久しぶりな気がする」

隣を歩くルイが何気なくそう言った。

その言葉にソフィアは少し嬉しくなる。心臓が小さく飛び跳ねた。同じことを考えているんだと思って

小さく微笑んで何も言わずにいるとルイがソフィアが怒ったと思ったのか早口で弁解した。

「あ、俺がこんな言葉言うのはおこがましいな。ごめん。ソフィア、その…怒った…?」

そんなことを言われて驚いてソフィアはルイを見た。そしてルイがそんなことを考えているということにも驚いた。昔からルイは失言をすることはほとんど無くてこんなふうに考えているということを表す必要もなかったからソフィアも知らなかったのだ。だけど目の前のルイはソフィアだけを見つめてソフィアが怒っているのか心配している。

その姿がなんでか可愛かった。

「ううん、怒ってない。私も同じことを思ったからそう言ってくれて驚いたの」

そう言って笑うとルイがほっとした顔を見せた。

「ああ、よかった。これ以上ソフィアを傷つけたくないから。何か嫌なところがあったらちゃんと言ってくれ、これからは遠慮なしに」

その言葉にソフィアはうん、と笑って頷いた。

そんな会話をしていながらソフィアはふとルイの顔を眺めてしまった。久しぶりにまじまじと見つめたけれど相変わらず綺麗な顔立ちだった。

金髪に近い茶髪のさらさらの髪に瞳は髪色に合わせたように色素が薄い茶色。肌も透き通るように白くて一重でも瞼の皮膚が薄いのか目もぱっちりと大きくて瞳の色の美しさが際立つ。鼻は絵に書いたように高いし口はルイの本来の性格を表すかのようにきゅっとしまっていた。いつの間にかルイは大きくなってソフィアは見上げるように身長が高くなった。

自分の婚約者の欲目もあるかもしれないけれどそれでもルイは美男子と呼ばれるカテゴリーだろう。

そんなことを考えているとルイがソフィアの名前を呼んだ。

「ソフィア、その、そんなに近くでまじまじと見られると流石にどうしたらいいのか分からないんだけど…」

気がつくとソフィアはルイの顔を至近距離で凝視していてはっとした時には目の前に薄茶の瞳があった。ソフィアの頬がかっと赤くなる。

恥ずかしくなった。だけどルイの顔も少し赤くて照れているようだった。

「ご、ごめんなさい」

「いや…」


そんなたどたどしいやり取りをして気まずい空気が充満した頃ロイが遅れてやってきたおかげで解消された。





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