第13話
ルイは祖父母と応接室で母である皇后と挨拶してから全速力で庭園へ向かって走っていた。
後ろではルシアが待ってくださいと小さい声で叫んでいる。
それくらい気が気でなかった。
ポタッポタッ…
ルイが庭園へ到着すると目の前に広がる光景は過去とは違った。ルイが汗を拭って呼吸を整えてぱっと前を向くとソフィアとジェーン嬢がソフィアの手紙通り向き合っていた。
しかし被害者は変わっていた。
ソフィアの銀色の髪から、顎から手から伝って紫色の鮮やかな液体がソフィアの白いドレスに染みを作っていた。ジェーン嬢の手にはその紫色の飲み物が入っていたらしきグラスがある。
ソフィアに思い切りワインをぶちまけたジェーン嬢とそれでもなお冷静なソフィアを取り巻く周りがざわついていて2人の周りだけ静かだった。
ロイといつの間にか来たカイロスが制止させようとしたのか2人のそばに居た。
ルイは一瞬混乱したけどすぐにこんな会話が聞こえた。コソコソと話す貴族の若い男たちの声だった。
「皇太子妃にワインをかけるなんていくらなんでも…」
「あの令嬢は教養がなってないだけじゃなくて礼儀も知らないのか?」
「それよりソフィア様に誰か上着を貸すべきじゃないか?あのままだとワインが染みて…」
その会話を聞いてルイはすぐソフィアのドレスに目をやるとワインが染みてどんどんソフィアのドレスは透けていっていた。
そんなソフィアの姿を見てルイは他の誰かにソフィアを触られたくないと思って気がつけば衝動的にソフィアの肩からバサッと自分のジャケットを被せていた。
「大丈夫か?」
そのルイの声に驚いてソフィアが見上げた。
「殿下…!」
ソフィアの前髪から滴ってくるワインがぽたぽたソフィアの顔を濡らす。
ルイはソフィアにいつもこんな役回りをさせていたのかと思うと胸が苦しくなった。
ソフィアだけでなく周りも驚いた。
カイロスもルイがソフィアとこんな風に話すのを久々に見たので驚いていた。ロイは兄がこんな面倒を引き受けたことに驚いていた。
ルイはソフィアの顔を濡らすワインの水滴を自分のワイシャツの袖で拭ってやりながら顔をしかめて言った。
「これはどういうことですか、オータル伯爵令嬢」
そのルイの冷たすぎる温度の言葉にようやくルイを見たジェーン嬢は身体を震わせた。
ぞっと背筋が凍るような瞳をルイに向けられた。
昨夜とはまるで別人だった。
ルイはルイも気が付かないうちに睨みつけていたようだった。だがソフィアが大切だと気が付いた今こそこういう場で自分がしっかり言わないとまた同じようにソフィアが自分のせいで馬鹿にされると考えていた。だからつい睨みつけてしまった。
そしてルイのその瞳に恐怖を感じたジェーン嬢は唇がカタカタ震えて上手く答えられない。
黙るジェーン嬢にルイが更に言う。
「皇太子妃にワインをぶちまけるなどいい度胸ですね。ソフィアに見つからないようにコソコソと皇宮へやってきた人と同じ人とは思えないな」
わざわざその事にルイが触れた。
周りがざわつく。
ソフィアはその話だけは避けたかったのにルイが口に出すと思わなくて目を見張った。当の本人はそんな周りのざわつきも無視して続ける。
「昨夜、何故貴族の娘たちが皇宮へやってくるか教えてくれましたね。皆私の側室の座を狙う訳ではなくただソフィアを馬鹿にしたいからだと。火遊び程度で皇太子と夜を過ごせるのはラッキーだしソフィアは私と関係が悪いから気分が良いと」
そのルイの爆弾発言で今まで皇宮に来たことのある娘、そのチャンスを狙っていた娘たちが絶句する。
「確かに皇太子妃と私は昔のように誰が見ても仲がいいとは言えません。だけど安易に皇太子妃と夜を過ごさないのは皇太子妃が大事すぎるからとは考えませんでしたか?…今までの私の行為を全て無かったことにはしません。もちろん私も皇帝陛下、皇后殿下から然るべき罰を受けます。ここまで言っても今後その事でこれ以上皇太子妃を辱めるようなことがあれば私が罪として罰します。それと私はこの先貴族の娘たちが皇宮に泊まるようなことはもう二度としないので皆さんそのつもりで」
ルイはこの場の皆に向けてそう言いきった。
昔なら卑怯にも見て見ぬふりしたはずの場面でしっかり自分の落ち度を認めた。これが今までルイがしてこなかったことのツケだ。
こうして今からでもひとつひとつ訂正する必要がある。ルイはルイの方法でソフィアを守らないと。その事を胸に誓った。
そんなルイを心配そうにソフィアが見つめているのに気が付いてソフィアに言った。
「ソフィア着替えてこい。ここは大丈夫だから」
その言葉にソフィアは最初はでも…と言ったがルイがいいからと言いそのままソフィアの侍女のティナにソフィアを連れていかせた。
こうしてルイは2度目もこのままティーパーティーをお開きにする事になった。
そしてソフィアが皆の前で恥をかかされたその場にいたロイと事の発端のルイは母である皇后の部屋に呼ばれた。
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