第11話
ルイとソフィアが腕を組んで歩くのは本当に久しぶりな事だった。
いや、正確にはソフィアには久しぶりだった。
ルイは最後のあの日だけソフィアと腕を組んで舞踏会のホールへ出たから。
ルイとソフィアは貴族たちの中央へ行き、それぞれの飲み物を手にした。
そしてルイから挨拶を言う。これはずっと2人が続けてきたルールだった。
「今日は我々2人の主催したティーパーティーに参加してくれて有難く思う。存分に楽しんでいって欲しい」
ルイの挨拶の後静まり返った。あまりにも大人びた挨拶だったからだ。
ルイの挨拶はまるでもう皇帝のような挨拶だった。
ルイもしまったと思った。
今ルイは19歳で皇太子なのに、つい昨日と同じように挨拶をしてしまった。ルイがまずい、と苦虫を噛み潰したような表情を見せそうになった瞬間、ソフィアが声を発した。
「皆様、今日は来ていただいてありがとうございます。今年のティーパーティーはブルーベリーの収穫量が例年より多かったことを記念してブルーベリーを使った物が普段より沢山あります。帝国の誇るブルーベリーを存分に味わってください」
ルイはソフィアのサポートのおかげでなんとか危機を免れた。そうだ、こんな風にしていつもソフィアは助けてくれていたのだ。
ソフィアがルイに最後の締めの言葉を言うように目配せする。ルイはソフィアの合図を受け取って言った。
「それでは皆に幸せがあることを願って」
最後にそう言ってとりあえずその場は持つことが出来た。ルイとソフィアは皇太子と皇太子妃のソファーに座り、貴族たちはそれぞれ世間話を始めたりお茶をし始めて5分後から順にルイとソフィアに挨拶に来るようになっていた。
ソファーに座ってすぐにルイはソフィアに向かって言った。
「ソフィア、助かった。ありがとう」
するとソフィアが驚いた顔をした。
きっとルイにお礼を言われるのも久々だからだ。
だがルイの予想とは違いソフィアは当然のことだと思っていたので驚いていた。
だけどルイはもう今伝えられることは悔いなく伝えようと思ったので気にしなかった。
出来るだけソフィアに優しい表情を向ける。
するとソフィアが少ししてにこ、と微笑んだ。
「いいえ、大したことありませんわ、殿下」
本当に美しい少女だ。一瞬もこの微笑みを取りこぼしたくない程。どうしてみすみす逃したりしたのだろう。自分をまた恨めしく感じた。ルイはそんな中でふとソフィアに何気なく聞くつもりで気になることを聞いてみた。
「ソフィア、魔法のことで気になることがあるんだけど…」
それにソフィアがブルーベリーティーを飲みながら聞く。ルイはシフォンケーキをフォークで切りながら落ち着いたように見せかけて本当は緊張していた。
「その…時間を巻き戻すとか、時間を操る魔法…なんてないよな?」
ルイは正直無いと言って欲しい気持ちも込めて言った。それにソフィアは少しルイをじっと見つめて言う。なんでソフィアの瞳がそんな哀しい色をするのだろう。
「殿下は過去に戻りたいんですか?」
そのソフィアの直球な質問にルイはぎくりとした。
そしてあたふたと答える。
「い、いや!?そんな魔法があれば凄いなーなんて…ははは。いや戻りたいなんてそんな!」
するとソフィアが焦ってしどろもどろなルイにぷっと吹き出して言った。
「冗談です。時間を遡る魔法ですか…。あるにはありますが…」
ソフィアがうーんと言ったように答えを勿体ぶるのでルイはヒヤヒヤした。
「あ…あるのか?」
ドキドキして聞く。これは胸が高鳴るとかそういうドキドキではなく恐怖のドキドキだ。
ソフィアがそれに答えた。
「あることにあります。しかし魔法使いにも属性があります。時間を操るのが得意な魔法使い、火を操るのが得意な魔法使い、水を操るのが得意な魔法使い…。こんな風に様々な種類があります。ですが時間を操る魔法はほんのひと握りの魔法使いしか使えません。凄く難しいので…。今帝国で使えるのは私の父くらいでしょうか」
それを聞いてルイはやっぱりそうかと肩を落とした。
やはり自分は時を遡ったようだった。
溜息をつきたくなるがなんとか我慢する。ソフィアの前でこれ以上溜息をつきたくない。
そんなルイの様子を見てソフィアが言った。
「大丈夫です。時間を操る魔法にも色々な制約がありますし殿下がかけられることは無いですよ。父以外ならもう少し修練すればカイロスは修得できるかしら…」
ソフィアの励ましも正直無意味だった。
最後の呟きが答えだからだ。その殿下は自分の双子の弟に時間を遡る魔法をかけられたようだ。
ルイはどうしよう…と頭を悩ませ始めた。
実は元に戻るべきか分からない。この数時間でこのままソフィアとの過去を全てやり直したい気持ちがルイの中でかなり大きくなってしまった。
元に戻らないならばソフィアを幸せになれるようにしなければならない。でも自分は一応これでも皇太子だから皇太子との婚約破棄になれば他の貴族との縁談なんて来るはずがない。だがこのまま自分と居てもソフィアが傷つくだけな気がした。
そうこうしているうちに貴族たちが挨拶に来る時間になってしまった。
そして最初にやってきた者を見て頭を悩ませていたルイはあることを思いついた。
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