第3話

ルイが見つけた手紙はソフィアが最後に書いた手紙だった。

久しぶりに見るソフィアの文字。

それだけでなんだか涙が出そうになって自分宛の手紙を開いてみた。


『ルイへ。

今日は殿下でも陛下でもなく、ただ最後に''ルイ''へ宛てて手紙を書いてみることにするわ。

17歳の頃から書いてきたけれどついにルイが見つける前に私が発つことになったわね。この手紙は今までの手紙の補足のような感じで書いてみるわ。本当は日記を見せられればいいけれど日記はカイロスに頼んで私が死んで直ぐに焼却魔法をかけてもらったの。中身があまりにも生々しいから貴方には見られたくなかった。最後のわがままを許してね。

この手紙を書き始めたのは17歳のあのティーパーティーの日から。ティーパーティーのあの日の頃からもう4年も経ったのね。最初の手紙の当時より大人になった今じゃないと分からないことも手紙には沢山書いてあると思うわ。あの日はお互い朝から本当に最悪だったわね。私がルイがジェーン嬢と寝ているところに遭遇した日。いつもなら相手までは覚えておかないけれどこれには理由があるのよ。ティーパーティーでルイが少し私の隣を外した時。ジェーン嬢とリリカ嬢、メル嬢が私をバカにしに来たわ。いつもの事だから気にしなければよかったのにあの日の私はとても腹が立ってしまった。そして腹いせに彼女たちにほんの短い間だけ変身の魔法をかけてしまった。女狐に変えてしまったの。それが大騒ぎになってロイが場を取りなしてくれたわ。でもルイはその後訳もわからずに私のせいで一緒に皇帝陛下と皇后様に叱られて不機嫌になったわね。今考えてみれば嫉妬だったのに本当に幼稚なことをしたわ。もっと早く私が貴方を愛していると気がつくべきだったのに。後悔してるわ…』


その後もこの手紙は長く続いてどれだけソフィアは書いたんだろうと思った。

ルイは読めば読むほど苦しくなった。

そしてソフィアの文中にあった自分を愛していると早く気がつくべきだったという言葉はルイもそうだった。しかもルイは今気がついた。

自分はソフィアをちゃんと愛していた。

沢山の期待を寄せられれば寄せられるほど重荷になって周りが見えなくなり自分さえも見失っていたのにソフィアを失ってからこんなに鮮明に見えるなんて皮肉すぎる。ソフィアを失って愛していたことに気がつくなど間抜け以外何でもなかった。

ルイはソフィアが書いてきた手紙を全て読もうと図書室にあるソフィアの好きだった本をありったけひっくり返した。

そしていくつもいくつも出てくるソフィアの手紙を読む度にソフィアの声が聞こえてくるようだった。

ソフィアの痛み、苦しみ、ルイへの想い。

これらが数十枚、数年分ソフィアの見慣れた字で書き綴られていて送り主に日の目を浴びることがなかった年月の分だけ古い手紙は便箋が茶色く変色していた。

「ああ…あぁ…ソフィア、ソフィー、ごめん…ごめん…」

ルイの瞳から涙が止まらなくなった。

今までも沢山の制約に苦しんで涙を流さないわけじゃなかったのに、今日の涙がいちばん苦しくて、胸に何かが引っかかるような感覚がした。


執事のルシアは皇帝ルイが気分転換に部屋を出て行ってから全然帰ってこないのを心配していた。

1時間、2時間と時間は過ぎ、流石にルイを探し始めた。皇太子時代に比べれば大した事ないがここ最近のルイは、いや、ソフィアを失ってからのルイはなんだか危なっかしかった。

いつも気分転換に行く場所を探してもルイはおらず最後にもしかして…と図書室に向かった。

図書室の扉を開けるとそこには何十枚もの便箋と封筒、そしてソフィアのお気に入りの本達が散乱していた。そしてその真ん中でルイはひとり泣いていた。

「皇帝!」

ルシアが近づくとルイが重たげに頭を上げてルシアを見た。絶望した目をしていた。

「ルシア…どうしよう…俺のした過ちは…どう償えばいいんだろう…?」

ルシアはルイの言っていることが掴めず散乱する手紙を1枚拾い上げた。すると久しぶりに見るソフィアの文字でルイへ宛てられていた。

『殿下へ。

この日は朝まで殿下を待っていました。出先だったので殿下が部屋へ戻られなくて心配していました。食堂で一晩を明かしたあと殿下の部屋へもう一度明け方向かうと殿下と知らないご令嬢が眠っていらした所に遭遇した初めての日でした。とても辛かったです。どうしてこんなに辛いんでしょうか?どうしてこんなに腹が立つのでしょうか?この日、私は自分が邪魔者のような気がして逃げ帰った記憶が今も残っています。殿下はこの時何を考えていましたか?やっぱり、私を憎んで邪魔に思っていましたか…?』

そこには幼い頃のソフィアの悲痛な叫びが書かれていた。ルシアも見ていて涙が出そうになる。

この頃のソフィアは本当に苦しんでいて助けてあげたくなったことも何度もあった。でもそれ以上にルイの悪行が酷くなって誰も手がつけられず振り回されソフィアもルイもそれぞれ傷ついていた。

ルイは手紙を全て読んだのだろうか。

この量はかなりの量だ。


ルシアがルイがなにかしないか不安に思ってルイを見るとルイがぽつりと言った。

「カイロス…。カイロスに会おう…」


カイロスとはソフィアの双子の弟の魔法使いだった。

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