4章 春の命
涼平、二十五の春の日だった。
彼は翔平と並んで、遠方の川まで桜並木を見に来ていた。涼平の愛馬は晴海という白馬である。晴海がほんの仔馬だったころから可愛がっており、涼平によく懐いていた。
毛並みの良い馬は、桜並木の入り口で涼平を降ろした。先に降りていた翔平が手を貸す。誰もいない秘所で、二人は手をつなぎ、ゆっくりと道を歩いた。
黄金の陽が桜をとおり、二人の頬や指先を染め上げていく。永遠にも似た時間が流れていた。なんと幸福なのか、と翔平は思う。月並みな表現しか思いつかないのがもどかしい。隣を歩く涼平はあどけない表情になって、一心に桜を見上げ、かと思うと含羞を帯びた顔でこちらを振り向き、桜もかすむ可憐な笑みをのぞかせた。翔平は堪らなくなって、涼平の手をひいた。すると彼は翔平の腕の中にふわりとおさまった。
「翔平、」
「涼」
熱情のまま、腕に優しく力を込める。
「桜なんか見ずに、僕だけを見ていてくれたらいい」
涼平はくふふと笑い、翔平の頬を両手で包んだ。
「桜を見に行こうって言ったのはあなたじゃありませんか」
それはそうだけど、ともごもごいう翔平の唇を、涼平は自分のもので塞いだ。翔平の腕が少し緩み、やがて腰と首筋にそっと置かれた。春風が桜をはらりと散らす。永遠の時は続き、季節はめぐろうとしていた。
桜演舞 はる @mahunna
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