2.山から逃げる

 山へ行く夢を見た。

 かの日本一の山にほど近く、とても見晴らしの良い低山だ。

 かの山のシルエットからして、Y県側にある低山だろう。


 バスを降りると、目の前には既に大展望が広がっている。

 快晴の空に、大きく裾野を広げるかの山。手の届きそうなほど間近に見えるその姿に、周囲の人は皆しばし見惚れていた。


 その時。

 突然、かの山が火を吹いた。

 続いて膨大な量の煙が立ちのぼり、瞬く間に空を覆い尽くした。


 噴火だ。

 そう理解するまでに時間がかかったのは、非現実的な光景だった事よりも前兆が全くなかったからだろう。

 地震や異音、異臭などの異常は何も感じられなかった。

 ただ突然山が爆発した。そんな印象だった。


「逃げろ!!」

 誰かが叫び、皆がバスへ駆け込む。私もそれに続いた。

 私が最後列の席に座るや否やバスは出発し、少しでもかの山から離れようとスピードを上げる。

 私は振り返り、少しずつ遠ざかるかの山に目を向ける。

 噴煙が太陽を遮っているが、辺りは暗いというより、赤い。

 噴き上げられたマグマが空を赤く照らしている。


 大変なことになった。これからどうなってしまうんだろう。

 荒ぶるかの山を呆然と見つめていると、ふと山が膨らんだように見えた。

 次の瞬間、山が崩れた。

 あの美しい円錐形のまま、山頂から四方八方に、噴水のように。

 砂山を崩したかのように滑らかだった。

 一瞬の出来事だった。私は声を上げることすらできなかった。

 かの山は、半分くらいの高さになっていた。


 この夢を見た数ヶ月後、私は初めて山体崩壊という言葉を知った。


―終―

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いつかみた夢 にゃりん @Nyarin_AV98

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