15 時雨龍の迷宮
突然、地面が消えて俺は無様に石床にたたきつけられた。
横を見ると、エンテカは強化魔法を使って着地しているし、サーシャは風の属性魔法を使って、落下の衝撃を落としている。
魔法の年季を感じる。
上を見上げると俺たちが落ちてきた穴はもう閉じてしまったようだ。
「なんなのこれ?こんな仕掛け聞いたことないわよ」
巫女の家系のサーシャがいうのなら、おそらく村のだれも知らないだろう。
「俺があの石碑を読んだせいかな?」
「そうねえ。精霊文字だったっけ?
精霊の言語や文字を解する人は古代の時代にはいたらしいんだけど、失われてしまった言語でここ数百年は誰も扱える人はいないわ。
意外とあんたってすごいのかしら」
まじまじと見つめられる。
髪と同じように少し藍色の瞳に上目遣いをされると破壊力がやばい。
「蛍火」
エンテカが火属性魔法で周囲を照らすと、奥に通路が見えた。
「おいおいおう!ワクワクするじゃねえか。
早く探検にいこうぜ」
「そうねえ。来た道は閉ざされてしまったし。行きましょ。カナメ♪」
「隠しダンジョンみたいだな」
石畳でできた通路をエンテカ、サーシャに続いた。
コツコツと歩く音が反響する。
空気は湿っぽくかび臭い。
所々にクモの巣が張ってあり、うっとおしそうにエンテカは火属性で作った明かりでクモの巣を燃やしている。
サーシャの言葉から推測するにここ数百年、人が入っていないのだろう。
しばらく、石畳を歩くと、やや広い部屋に出た。
「行き止まりか」
先頭に立つエンテカがずんずんと部屋に入っていくとカチリと音がして床の一部がへこんだ。
直後、鈍い音がする。
「なんだなんだ」
「ちょっと、天井が下がってきてない?」
サーシャが上を指さした。確かに天井がゆっくりとだが下がってきている。
もともと、一番背の高いエンテカが手を伸ばせば届くぐらいの天井なので、押しつぶされるんであまり時間はないだろう。
やばいやばいやばい。
心臓が痛いほど早く動き、嫌な汗が背中を伝った。
周囲は石の壁で囲まれており、一見脱出できるところはない。
よくみると、部屋の隅に人骨が見えた。
これまでにもこのトラップで死んだ人がいるのだろう。
「おら!」
エンテカが強化、炎魔法で壁を殴るが鈍い音がして一部壁が崩れただけだ。
サーシャは移動魔法を応用した索敵を行っているようだが、壁が魔力を通しにくい素材らしく、うまくいっていない。
天井は頭がそろそろつきそうな程度まで下がってきている。
「エンテカ!壁を叩いて音が高いところを探してくれ」
「ん?どういう意味だ」
「説明している時間はないからとりあえず俺を信用してくれないか。
落ちてくる壁はなんとかしてみる」
「ま、カナメがそこまで言うなら信用してやるよ」
にっとエンテカは笑って、四方の壁を順番にたたき始めた。
「サーシャ、俺たちは壁が落ちてくる時間を稼ごう。硬度の高い土、氷魔法ならいけるはずだ」
「わかったわ」
さっそく、俺とノームは土魔法でいくつか支柱を創った。
心なしか、天井が落ちてくるスピードが落ちた気がする。
「カナメ、ちょっと壁際に寄っててね」
そういうとサーシャは壁際以外、ほぼ部屋の全域に水を生み出した。
すかさず。精霊の氷柱姫が水を凍らせる。
流石だ。
質量に押され天井が落ちてくる速度は明らかに遅くなった。
「おい!
ここの壁、なんか音が違う気がするぜ」
「よし!そこを目いっぱいの強化魔法でぶち破ってくれ!」
「へ!そういうことなら得意だ」
エンテカの周りが高温となり、エンテカの周囲だけ氷が解けてしまっている。
その熱はエンテカの右手に集まった。
「炎魔法、炎熱掌」
轟音と爆風と共に壁が吹き飛ぶ。
壁吹き飛んだ壁の奥には通路が続いていた。
「よっしゃあ!!」
3人の声がそろう。
すぐに3人で部屋を出た。
「ありがとうエンテカ。
エンテカの強化魔法がないと、この壁を壊すことはできなかったよ」
「なーに言ってんだ相棒。
お前の機転のおかげだぜ。久しぶりにひやひやしたぜ」
はっはっはと豪快に笑うエンテカ。
実際、死んでいてもおかしくなかった。
「さてと次はなにかしらね」
サーシャも胆が据わっているようだ。
この世界は死と隣り合わせだからだろうか。
おれが日本という死とは遠い世界、あるいは死がみえづらい世界で暮らしていたからだろうか。
死への覚悟が2人とは圧倒的に違うことを感じた。
震える足を叩いて2人についていった。
2つ目の部屋に入ったとたんに、エンテカが消えた。
人生の落伍者は精霊使いの夢を見る 転寝吟遊 @utatane_ginyu
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