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夕暮れの鐘が鳴ったら。ふたりが別れる合図。
彼女は今日も、砂場と鉄棒とすべり台を満喫して。満足そうに自分の隣に腰かけている。もう、すでに、眠そう。
「時間だなあ」
鐘が鳴る。
郊外の小高い丘のところに教会があって、その鐘が鳴っていた。夕暮れを知らせる鐘なので、季節によって、日によって鳴る時間は異なる。そして、鳴ってからちょっと経つとすぐ暗くなる。
「もう時間かあ」
彼女が離れがたそうに、寄りかかってくる。
「よいしょ」
立ち上がる。彼女にも手を貸して。彼女も立ち上がる。
「じゃ、行くね」
「うん」
ふたり。別々の道。
「披露宴は19時なんで。時間厳守でお願いしますよ」
「わかったよ。ドレスの気付けが大変なのはそっちだと思うよ?」
「たしかに」
そう言いながら、彼女は公園を出ていった。
通信を入れる。
「俺です。今日、ちゃんと街は平和ですか?」
『ああ。平和だけど』
「そうですか。いや、彼女が野に放たれたので」
『披露宴前だろ?』
「ええ。まあ」
『一緒にいないのか』
「サプライズがあるそうです」
『そうか。まあ、大丈夫だろう』
たぶん、大丈夫じゃないな。
案の定、彼女は遅刻した。
「ぐええ遅れました」
真っ赤なドレスを着て、彼女が現れる。
「それがサプライズ?」
「いや、あの、その」
彼女が出ていく。
その隙に通信を入れる。
「街は平和だって言いましたよね?」
『うん。いや。ごめんほんとに。あなたの嫁さんおそろしいぐらい狐狩るセンスあるわ』
「代わりにちょっとひとつサプライズを仕込みたいんですけど」
彼女が戻ってきた。
「では、そのように」
『はいはい。お安い御用です』
「みてみて。というか聞いて」
鐘の音。
「おお。夜なのに」
「サプライズです」
彼女。にこにこしている。
「じゃあ、俺からもサプライズ」
街の景色が。点滅する。
「うわあすごい」
「さて。行きますか。披露宴」
夜の鐘と共に。
夕暮れの鐘が鳴ったら 春嵐 @aiot3110
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