朝
ちゃん
朝。9時。廃人のような僕はぬるりと起き上がり、コップ一杯の水を飲む。カーテンから日の光が漏れ出し、少しばかり眩しい。
しばらく開けていないカーテンを少し開けてみるが、やはり目に光が慣れずにすぐ閉める。薄暗い部屋にはもう慣れた。スマホを眺めながら床に転がる。写真フォルダを開き、いつものように写真を眺める。僕の探しているものはどこだろうか。なんとなく見覚えのある写真や動画たちを、ただ、ぼーっと眺めている。無駄な時間。僕は何を忘れたのだろうか。
昼。2時。対して収入もない、すっからかんの通帳から少しずつ引き落とし、昼に食べるものを買いに行く。あとどれくらい持つだろうか。とぼとぼ歩き、コンビニで菓子パンを買う。いつものように家に帰り、空いた腹を満たすようにただ貪る。こんなパン一つで満たされはしないが、ないよりはマシだっだ。なんだか体が重い。やはり栄養が足りてないのだろうか。だからと言って何か買えるわけでもない。早くバイトでもして収入を何とかしないと。まぁ、また今度考えるか。
夜。8時。夜の透き通って綺麗な空気が好きで、よく夜にサンダルで外に出る。人も少なく、行動がしやすい。薄暗い公園のブランコに乗り、冷たい空気が頬を撫でるのを感じながら、ひたすらに漕ぐ。僕の探しているものはどこにあるのだろうと、僕は何を探しているのだろうと、ただひたすらにまた考える。何故だろうか、あと少しで出てきそうなのに。
深夜0時。考えながら散歩をしていたら、日をまたいでいた。深夜になると空気がさっきより冷たくなって、裸足で履いているサンダルをひたすらに冷やす。早く帰ろう。家につき、ドアを開けようとすると、何処かで聞いたことのあるような声が聞こえる。思わずドアを開けるが、誰かいるわけでもない。不思議に思って部屋に入ると、懐かしい、ふんわりとした甘い匂いがする。これも何処かで嗅いだことがある。
何かがおかしい。覚えているはずなのに、何も出てこない。このもどかしい気持ちが僕を苦しめた。
すると後ろから、
「 」
僕の名前を呼ぶ声がして振り向いた。見たことのある、可愛らしい女の子。
彼女が現れると、さっきよりあの甘い匂いが増す。僕はその甘さに酔いながら、その女の子に近づいた。声をかけようとしたその時、
急に女の子が僕にハグをした。僕は思わず声を出してしまった。
「私のこと、忘れちゃった?」
女の子は微笑みながら僕に問う。何が何だかわからない僕は、何も言えないまま固まっていた。
女の子は微笑みながら、少し溶けた表情をして
「本当は覚えてるくせに」
そう言うと、僕にキスをした。
凄まじい、電撃のようなものが全身を駆け巡り、僕を狂わした。声、匂い、微笑んだ顔、立ち姿、瞳の色、右目の下にあるほくろ。
キスの味、今まで感じてきた彼女の感触が、手に残る。伝わる。感じる。体が熱くなる。息が荒くなり、どこからともなく溢れ出てくる熱と欲がひたすらに僕を狂わせ、苦しめた。あぁ、そうか。
僕が探していたのは、ずっとずっと追い求めていたのは、思い出そうとしていたのは、
僕の大好きな[彼女]だった。
彼女の感触、何もかも全部僕のもの。誰のものでもない、僕のもの。
譲らない。絶対にわたさない。
誰にも、誰にもわたさない。
全部僕の――。
深夜4時。目が覚めると、身体がずっしりとしている。あの[彼女]はどこにもいない。
彼女で満たした欲望、欲が手にひたすらに流れ付いている。
あれは、何? 僕のものは?
あ、そっか。
もういないんだった。
朝。9時。廃人のような僕はぬるりと起き上がり、コップ一杯の水を飲む。カーテンから日の光が漏れ出し、少しばかり眩しい。しばらく開けていないカーテンを少し開けてみるが、やはり目に光が慣れずにすぐ閉める。薄暗い部屋にはもう慣れた。スマホを眺めながら床に転がる。写真フォルダを開き、いつものように写真を眺める。僕の探しているものはどこだろうか。なんとなく見覚えのある写真や動画たちを、ただ、ぼーっと眺めている。
謎に増える薬の瓶を、目に触れることもなく。
完
朝 ちゃん @chan__oxo__
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