笑い声は突然に
浅瀬
第1話
廊下を早足で歩きながら、マベリンは考える。
悪者、真の悪者とはなんだろうか。
残虐非道であること、態度が冷酷であること、頭が切れること、とにかく人の情けなど持たないような存在なのだろう。
もうじき4月になると、校内では悪者コンクールが開かれる。
そこで優勝した者だけが、世間でヒーローに対峙する悪者として悪の組織からスカウトを受けるのだという。
マベリンはこの悪者を県内で一番排出しているという、悪者エリート校に入学した時から、誰よりも悪らしい悪になるのだと決めていた。
だからもっと真摯に考えなくてはいけない。
悪者の中の悪者を。
「とりあえず、態度だけは悪者らしく振る舞ってみようかな」
トイレに入ると、鏡の前でマベリンは口元を片方だけ吊り上げて悪そうな顔を作ってみせた。
「こう、こうかな……後は、笑う時、悪者といえば高笑いしてるイメージだから……もっと練習しなきゃな」
マベリンは声が小さいので、繰り返し練習する必要があった。
「ははははは!!」
いや違う、もう少し悪っぽさが滲み出ないと……
「ふふっはははは!!」
まだまだ何か黒いものが足りない気がする……
マベリンは上達に向かって練習を重ねていった。
そしてとうとう。
「ふっふあははははっ……」
陰のある、企みを漏らすような、悪者らしい笑い方ができるようになった。
「やった! これでコンテストに挑戦できる!」
コンテスト当日。
マベリン、彼は高笑いを披露して、審査員達をどよめかせた。
審査員の中には実際にスカウトマンもいたのだが、彼はマベリンをぜひうちに欲しい、と言ってくれた。
結局マベリンは入賞もしなかったが、一社からスカウトを受けることができた。
「君の笑い声はすばらしいよ。とてもセンスを感じる、まわりに影響を及ぼせる笑い声だよ」
「本当ですか……?」
それからマベリンは笑い声をいくつか収録した。
何に使われるのかまで、自分で見つけるまでは分からなかった。
ある夜流れた悪者バラエティで、演者が何かするたびに客席の笑う姿に合わせて、マベリンの笑い声がかぶさり、高らかに流れた。
おわり
笑い声は突然に 浅瀬 @umiwominiiku
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