守銭奴執事は今日もお嬢様(金)のために働く

どこにでもいる小市民

第1話

 俺は、この世は金が全てだと思う。だってお金がなきゃ何も買えないんだぜ?


 俺ことシュルトは伯爵家に使える料理長と侍女の間の生まれだ。そして3歳のある日、俺は気づいた。執事が使用人の中で一番給料が良いことに。


 こうして俺は給料の良い執事になるべく、猛烈に勉強をした。体調管理もしっかりしたし、なんでも出来るように様々な所にお手伝いもしに行った。


 時には仕事の邪魔と嫌がる人間もいたが、大抵の人は優しくしてくれた。多分自分の後継人候補みたいな考えもあったのだろう。


 貴族の使用人の仕事は、本当に大変なのだ。だから短期的なデメリットよりも、長期的なメリットを取る人たちだったんだろう。


 その人たちに支えられ、俺はたくさん努力した。全てはお金のために……!


 こうした努力もあり、俺は若干10歳にて伯爵家三女の専属執事に任命された。



***



 今日はお嬢様との初めての面会の日だ。今までも俺は通りすがりにその姿を見ることはあっても、向こうから覚えられていることは無いだろうな。



 コンコンコン、と部屋の扉を叩く。中から「どうぞ」と声が掛かるのを確認して、俺は「失礼します」と言いながら部屋に入る。


 部屋に入ってすぐ、俺は自分が仕えるべき人物を見つけた。……いや、勝手に目が吸い込まれたと言った表現の方が正しいな。

 

 彼女は同年代にしては比較的小さな身長。雪のような白銀色の髪を持っていた。それに才色兼備でもう、完璧と言っても間違いない。


 俺がそんな評価を下した彼女こそ、ミゼ・フォン・クロイツ伯爵令嬢その人だ。



「あなたが私の専属執事になる人なの?」



 首を少しだけ横に傾け、サラリと柔らかそうな銀髪を揺らしながらお嬢様が尋ねてくる。俺はすぐに片膝をつき、頭を下げる。



「はい。本日よりあなたの専属執事に任命されました、シュルトと申します。なんなりとご命令をくださいませ」



 ふっふっふっ、2歳の頃から様々な英才教育を自ら志願して受けてきた俺だぞ? 同い年のお嬢様のお願い事ぐらい、なんだってできるさ!



「……じゃあ、ここから出てって。フェイリス」


「はい」



 その言葉を聞き、お嬢様の隣に立っていたフェイリスという名のメイドが動く。俺を猫のように摘み出し、部屋から退出させられた。


 ……? …………え??? 俺がお嬢様の専属執事になって1日目。部屋から追い出されることから全ては始まった。


 なんでぇぇぇぇっ!?!?!? と心の中で大絶叫をする。



「お、お嬢様!? どういうことなのですか? せめてご説明をしてください!」



 扉を優しく叩きながら、大袈裟に動揺の声をお嬢様に向かって吐き出す。


 嘘だろ嘘だろ!? まさかお願いどころか門前払いまでされるとは思わねぇよっ!? 

 


「ふぅ……お嬢様、ひとまず今日のところは帰らさせてもらいます。ですが、私は諦めません。それでは失礼します……」



 俺はそう言い残してその場を去った。諦めてたまるか! 専属執事の給料を手に入れるためにどれだけの苦労をしたのか分かってんのか!?


 俺は絶対に、専属執事としてお嬢様に認められて見せる……高い給料のために……!



***



 そこから俺はまず、情報収集へと出かけた。追い出された理由は全くもって分からないが、何かしら行動しなくては……。



「あら、シュルト君じゃない? 専属執事になったって聞いたけどどうしたの?」



 俺がまず向かったのは食事を作る厨房だった。そこにいる噂好きのおばちゃんに見つかり話しかけられる。無論、わざと見つかったのだが……。



「おばちゃん。俺、挨拶しに行ったらいきなり追い出されちゃって……何がだめだったのかな……?」



 俺は無邪気な子供を演じながら尋ねる。ここには屋敷の人間がほぼ全員集まる。そこで繰り出される会話を、彼女たちはこっそりと正確に聞ける立場にある。何か知っているかもしれない。



「あら〜、そうなの。ミゼお嬢様は少し人と関わり合いを持つのが苦手って聞いたことがあるわ。いつも近くにいるのがメイドのフェイリスって子だけらしいの」



 フェイリスさん。確か俺を追い出したメイドの名前だな。俺やお嬢様よりも5歳ほど年上の、俺たちからすれば大人っぽい感じのお姉ちゃんみたいな印象だった。



「だからね。ほら、いきなり専属執事だなんて付けるもんだから、ミゼお嬢様も困惑してたのよ。それでつい、そんな態度をとっちゃったとかじゃなぁい? それに、シュルト君は男の子だから、恥ずかしかったのかもよ?」



 なるほど。あのぐらいの年齢の女の子はませているからな。異性と関わり合いを持つのが嫌だと思っているのかもしれない……か。



「うん。ありがとう、おばちゃん!」


「頑張ってね〜」



 俺はそう言ってその場から離脱する。あれ以上話していると、変な噂話を聞かされたり、作られたりするからな。もう遅いかもしれないけど……。



***



 次に向かったのは、お嬢様の家庭教師を担当しているアルバ先生の所だ。メガネを掛けているインテリ系イケメン。彼は二十代ながらも、その頭脳を買われて伯爵家にやってきた。



「おや? 久しぶりだねシュルト君」


「お久しぶりです、アルバ先生」



 ちなみに、元々俺の家庭教師でもある。初めは教育などは両親が教えてくれたり、他の人たち……つまりは専門外の人だったんだが、俺はそこで満足しなかった。


 お金をより多く得るためには、知恵が必須だからな。アルバ先生に何日も部屋を張り込み、土下座までして頼み込んでなんとか了承を得たのだ。


 先生も俺のその(お金に対する)熱意に負け、ものすごいスパルタで色々教えてくれた。大変感謝している。



「どうしたんだい?」


「先生。ミゼお嬢様について、何か知りませんか?」


「……事前準備などを完璧にこなし、色々柔軟な考えをする君が、お嬢様について質問をするなんてね。何があったんだい?」



 俺は技術面、知識面、そして専属執事としても、準備を怠ったことはない。先生もそれを承知している。にも関わらず、こんな有様なのだ。先生も不思議に思って尋ねてきた。


 俺は話した。専属執事としての知識どころか、それすら使えるような状況ではないことを。俺がいくら準備していると言っても、それを発揮する舞台にすら立てていないんだ。勘弁してくれよ……!



「どう思いますか?」


「そう、だね……。おそらく、彼女は自分の知らないところで勝手に決められたことが嫌なんだと思うよ」


「何か、そう思える理由は何かありますか?」


「もちろん。……彼女にはフェイリスの他にもう1人、君とは別の執事がいたんだ。専属ではないけれど」



 そう言って、アルバ先生は語り始めた。まだお嬢様は幼い頃、ピクニックで出かけた先で狼に襲撃される事件があった。


 執事は懸命に戦い……片腕を無くす重傷を負った。その後、執事としての役割を十分に果たせなくなった彼は、屋敷を去った。


 ここからは想像だが、彼女はその事を知らされておらず、お別れ当日に泣き喚いたらしい。その幼い頃の記憶が、今でも引っかかっているのかもしれない……と、アルバ先生は締めくくった。



「まぁつまり、彼女は自分の大切な物を失った悲しい気持ちから、大切な物を作らなければ良いと考えてしまったんだ。君の存在が、彼や父親の行いを思い出させたんだろうね」



 …………やべぇ、結構重たい内容だった。俺は普通に金欲しいって思ってただけなのに……! 



「……それでも、俺だってお嬢様に仕えるため、身を粉にして学んできたんです。絶対に、諦めませんよ」



 あぁ、諦めてたまるか! このままじゃ俺は執事を1日目で失格になった落ちこぼれの烙印を押されてしまう。


 そんな噂が広まれば、外分的にも良くはない。給料だって下がってしまう……そんなこと、絶対にさせない! お金のために、俺はそう誓った。



「……本当、君のような強い信念を持つ生徒を持てて良かったよ。シュルト君、その想いを彼女にぶつけよう。まずはそこからだ」


「はい! 失礼します」



 俺はそう言ってアルバ先生の元を去った。次にやるべきことは一つ。俺はまた違う場所へと向かった。


 次の日、俺は再びお嬢様の部屋の前に立っていた。



「ミゼお嬢様、シュルトです。失礼します」



 そう言って部屋に入る。そこには昨日同様に、お嬢様とメイドのフェイリスさんの2人がいた。



「……昨日と一緒よ。出ていって頂戴」



 お嬢様はこちらを見てギョッとした顔を見せる。昨日あれだけの態度を取ったのだ。俺が来ない、もしくは専属執事を辞めている……なんて想像をしていたのかもな。


 でもお嬢様、あんたのミスはたった一つ。この俺のお金に対する執着心を舐めた事だ。この俺があの程度で折れてたまるか!



「……分かりました。ですが、この手紙だけでも読んでもらえないでしょうか?」



 俺はそう言って1通の手紙をミゼお嬢様に渡そうとする。フェイリスさんがそれを受け取り、お嬢様へと手渡す。



「……これは……!」



 彼女はその差出人を見て驚き、戸惑いの表情を見せる。何故ならそこに書かれていた差出人の名前は、かつてお嬢様の執事をしていた人の名前だったのだから。



「一体、何故この手紙が……?」



 そんなことを言いつつも、お嬢様は手紙を読み始める。最初は困惑の表情を見せた彼女だったが、黙々と読み続けた。



「……ふぅ。……それで、これを私に読ませて一体何が言いたいの?」



 読み終わり一息ついた彼女のその言葉に、俺は顔を上げてそのご尊顔を見つめる。



「……お嬢様、あなたが私のような者をおそばに置きたくない。その気持ちは大変よく分かります。その手紙は、シルバ先生にお嬢様のご事情をお聞きした後、私が勝手に出した1通の手紙が原因です」



 俺の言葉にお嬢様が眉を顰める。怒っていらっしゃるようだ。



「お嬢様が、親しく思っていた執事が居なくなり、悲しい思いをしたことは充分承知しております。ですがその上で、私を貴方様のおそばに置いてくださらないでしょうか?」



 お嬢様の顔が微かに歪む。メイドのフェイリスさんは俺を無関心……いや、ゴミを見るような目で見ていた。それでも俺は言葉を続ける。



「私は……シュルトはミゼお嬢様の執事です! あなたに仕え、一生をあなたに捧げる存在です。ミゼお嬢様の歩む道が私にとっての道であります。たとえそれが遠回りでも、行き止まりでも、私はミゼお嬢様について行きます! その覚悟を持っています。決して、貴方のおそばから離れるような真似は致しません。……どうか、私をミゼお嬢様のお側に……お嬢様が笑う未来で、その一部にでも、末席にでも連ねさせてはもらえないでしょうか?」



 俺はそう締めくくった。本当にお願いだ……! この発言を否定しなかったら一生雇用宣言の言質を取れるんだ。将来も安泰になるし頼む!



「「…………」」



 お嬢様とメイドのフェイリスさんはこちらを驚きと困惑、何を言っているのか分からない……そんな表情で見ていた。



「……シュルト、でしたわね?」


「はい」



 頼む、なんだ? 合格か? それとも不合格か? とっちにしろ早く言ってくれ! お嬢様は少し間を開けて、軽く息を吸い込みながら次の言葉を発した。



「あなたの言っている言葉、ほとんど意味が分かりませんでしたわ」



 ……? …………? えっ……!?!?!?


「お嬢様、おそらく彼は思い違いをされております。私にご説明の許可を」


「許可するわ。話しなさいフェイリス」



 思い、違い……?



「シュルト。お前はお嬢様がこの手紙の主である執事が辞めたことで気を病み、自身のお側に置く事を拒否していると考えた……違うか?」


「……はい」



 え? 待って違うの? 違うのっ!? そうじゃなかったの!? アルバ先生の予想は間違ってたってこと!? それじゃあさっきまでの俺の決め台詞は一体何のために……?



「お嬢様がお前を取らない理由。それはお前が男だからだ」



 えぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?!? 待て待て待て待て!!! 理由は性別!?


 それを聞き、俺は親指を立てて歯をキラリと光らせる食堂のおばちゃんが目に浮かんだ。



「お嬢様は少し前から男が嫌いになったんだ。この手紙の主の事情など関係ない」


「一言で言えばそうですわね。名前もしばらく忘れていましたし」



 え、前の執事さん可哀想……。その情報はお嬢様を守った執事に追い討ちをかけるので絶対に伝えないでおこう……。



「じゃ、じゃあお別れの際、泣いていたと噂を聞いたのですが……」



 あの感動エピソードはどうするつもりだ!?



「あれは執事を見送る際に渡す花束に付いてた花粉のせいだ」



 ミゼお嬢様はまさかの花粉症だったぁぁぁぁ!?!?!?



「……そんな、馬鹿な……」



 俺はショックのあまり、ガクリと膝から崩れ落ちる。……これじゃあ、給料が貰えない……!?



「…………シュルト、顔を上げなさい」


「っ! は、はい!」



 俺が思わず項垂れていると、お嬢様から声がかかる。その言葉が耳に入り、俺はすぐに立ち上がる。


 なんて事をしてしまったんだ! お嬢様の前でなんたる醜態を! この執事としてあるまじき行為の噂が広まれば、執事どころか他の仕事にまで影響してしまう! そうなれば他の割の良い仕事にすらつかなくなるじゃないかっ!!!



「……今日から一週間よ」



 お嬢様が苦々しい顔を浮かべ、苦肉の策とでも言いたげな表情をしながら簡潔に言葉を述べる。



「……はい? あの、何がでしょうか?」



 だが、俺は意味が分からず尋ね返す。これが仕事を失った今ではなく、平常時なら理解できたかもしれないな……。



「あなたが専属執事になる事を、よ。まずは一週間、この期間以内に私の役に立ちなさい。……それができたら、これからも雇ってあげるわ」



 お嬢様はフンッ、と鼻息を荒くしながら俺に告げてくる。……え? つまり、俺はまず一週間限定で雇われたと言うことか……?


 そっか、俺、雇われたんだ……。よかったぁ〜〜!!!!! 一週間分の高い給料が貰えること確定した! やった、やったぁ!



「シュルト、ミゼお嬢様のご好意に感謝するのだな。だが、この程度で浮かれて己の役目を忘れるような事はするなよ? あくまでお前は仮契約なんだ……」



 メイドのフェイリスさんが俺を見て釘を刺してくる。まじか、出来る限り顔や体に出さないようにしていたつもりだったが、彼女にはお見通しだったようだな。


 ……いや、違うな。おそらくフェイリスさんは想像でものを言ったのだろう。この程度の喜びようで心を読まれるなら、俺の金銭欲はその比ではない。今日部屋に入る事すら許されなかっただろう……。



「理解しております、フェイリスさん……あ、そうお呼びしてもよろしいんでしょうか?」


「……構わん」



 フェイリスさんは不本意ながらも許可を出す。



「シュルト、あなたに専属執事として最初の命令を出すわ」


「なんなりとお申し付けを」



 ふっふっふっ。やっとスタートラインに立つことができたんだ。どんな命令だって叶えてやるさ! 給料のために……!



「とりあえず、部屋から出てって」


「かしこま──……はい!?」



 こうして、俺は2日目も同様に部屋から追い出されることになった。何故だァァァァァァッッッ!?!?!?



***



 先ほど一週間限定ながらも専属執事としての地位を確立したシュルトが退出するのを見送り、私はミゼお嬢様に話しかける。


「ミゼお嬢様、あれでよろしかったのですか? 今ならまだ流されただけだと言えば、先ほどの雇用についても無しにできますが」



 私はミゼお嬢様にそんな進言をする。あの少年は……とんでもないですね。本当に10歳かと疑いたくなるような気転です。


 今回は少しミゼお嬢様の心情を読み違えて失敗をしてましたが、状況証拠を集めそこから推測された出来事を使い、まだ幼いミゼお嬢様に訴えかけた……。すごいを通り越して、怖い……そう表現する方が適切でしょう。



「構わないわ、フェイリス。……少なくとも頭は良いようだし、断る理由がありませんもの……。それに、あれほどの熱意。少しぐらい譲渡して上げるのもまた一興……そうでしょ?」



 ミゼお嬢様はフフッ、と微笑しながら私に尋ねてくる。なんて鋭い視線なんでしょう。火花でも散りそうな眼力。ミゼお嬢様もまた、10歳とは思えないですね……。



「ミゼお嬢様がそう思うのなら、私はその意向に従うのみです」



 私は頭を下げてそう告げる。男であるシュルトを専属執事として採用したと言うのに、今の反応がおかしいのは見れば大抵の人は分かると思う。


 普通はあの勢い、熱意に負けたとしても本人がいない今なら嫌がったりするもの。だがそうしない。その理由は簡単……ミゼお嬢様が男嫌いと言うのは嘘だからだ。



「それにしても、まさかあれほど有能な者だとは……本当に試してみて良かったわ」



 ミゼお嬢様が楽しそうに笑う。まるで面白そうな玩具を手に入れたような笑みだが、違うと否定できないのが辛い……。


 ミゼお嬢様はシュルトが自分の専属執事たるかどうかを試したのだ。自分に仕えようとする熱意があるか、自分を説得するだけの能力があるのかを……。



「それでミゼお嬢様、彼は今後どう扱うのですか?」


「そうね……さっき役に立てと命令をしたわね? その意向を汲み取って何をしてくれるのか楽しみだわ。だから基本的には自由にさせましょう。そう伝えておいて……」


「かしこまりました」



 そう告げて私はミゼお嬢様のお側を離れ、おそらく訳がわからないと言った表情をしているだろう専属執事シュルトの元へと向かう。



***



「……か、完璧よね? 私、何もおかしなことは無かったわよね? ……うん、きっとそうに違いないわ!」



 私はメイドのフェイリスが自分の側を離れた時を見計らい、椅子から立ち上がって両手を握りしめたりしつつ、今までの自分の勇姿を称える。



「おっと、誰にも気付かれていないかしら? わ、私がシュルトの事を好きだってこと……」



 私はあたりをチラチラと確認しながら恥ずかしげに口ずさむ。……シーンと静まり返る部屋を見てホッと息を吐いた。



「それにしても、シュルトは大丈夫かしら? いくら思いを悟られないためとはいえ、あんな雑な扱いをしたんだもの。嫌われたかもしれないわね……。でも、仕方がないじゃないの! そうしないと、まるで私がシュルトの事を好きだから専属執事に選んだみたいじゃないの!」



 と、誰も聞いていないのに口が勝手に言い訳を始める。そう、私は男嫌いとシュルトに公言し、雑な扱いをする事で彼への好意を見せつけない、好意の裏返しをしている。


 だってそうしなきゃ……シュルトといられないじゃないの。シュルトは優秀だ。周りの人間の誰もが専属執事に相応しいと言うだろう。


 ただし、私との間に恋愛感情が無ければ……だ。私は伯爵家の令嬢。政略結婚などをさせられる立場……それなのにたかが執事如きに好意を抱くなんてもっての外。


 だから少しずつ身分を高めつつも、私の好意を悟られないようにかつ私の手元に置いておきたいの。でも、どうやってもシュルトの身分はただの専属執事……はぁ、自分の高貴な身分が憎いわね……。


 そんな事を考えていると、部屋の扉が鳴る。おそらくフェイリスだろう。



「入りなさい」



 即座に頭を切り替えてそう命令をする。



「失礼しますミゼお嬢様」



 予想通りフェイリスだったわね。危ないところだったわ。



「……あの、何か私が不在の間にあったのでしょうか?」


「え? 何も無かったけどなんでかしら?」



 そんな事を聞くなんて、一体どうしたのと言うのよ? 



「いえ……少しだけ、いつもより喜んでいるように見えた気がしましたので……。こちらの勘違いでしょう。飛んだ失礼を」


「へ、へぇ……」



 あ、危なかったわねっ! まさか顔や雰囲気でそう言うのも分かってしますのかしらっ? だとしたら私がシュルトの事を好きだってバレないようにしないと……。



「それよりもどうだったの? シュルトの反応は……」


「はい。難しそうな顔をしていましたが、命令を貰えたことに喜んでいる模様です」


「そう……」



 ふ〜ん、悩んでいるシュルトも喜んでいるシュルトも見てみたかったわね。フェイリス、あなたずるいわよっ!



「まぁ、せいぜい彼が頑張る事を期待してるわ……」



 私はシュルトに聞こえない声援を送りながらこの会話を終わらせた。



*****



シュルト「お嬢様は男嫌いだけど、俺のことは少しだけ認めてくれた! このまま専属執事として雇われてお金稼ぐぜ、ひゃっはー!」


フェイリス「シュルトよ、お嬢様の試験には合格したがまだまだ甘い! 私は認めないぞ! あとお嬢様最高! はぁ……! はぁ……!」


ミゼお嬢様「シュルト大好き大好き大好き大好き大好き大好き! でも公にはできないわね……あ、有能だから仕方がな〜く雇ってるだけのスタンスにすれば完璧じゃないの! ワタシ、オトコ、キライ……」



*****



 俺がお嬢様の専属執事になって7日が経った。2日目に一週間の仮専属執事として雇われたが、その期間も明日で終わる。


 俺は精一杯、持てる全ての知識を使ってお嬢様に尽くしたつもりだ。お嬢様は相変わらず男嫌いのようで、俺とはできる限り目も合わせようとしない……。


 あと階段を降りる際にはお手を繋ぐのだが、それすらも嫌そうにゆっくりと、一度目に肌が触れ合う時にはビクリと手を震わせるのだ。


 それでも我慢しつつ、ほんの少しだけ力を加えて握ってくる。全く、お嬢様の男嫌いも相当なものだな。……ともかく男はともかく、俺には慣れてもらわねば困る! じゃないと解雇されてしまうかな!


 あと、フェイリスさんもめちゃくちゃ睨んでくるし。まぁ、今まで自分が居た立場を半分追われているのだ。給料も下がったのかもしれない。だとしたら納得だな! まぁ、手を抜くつもりはないが!



「ふぅ……。シュルト、ご苦労様」


「もったいなきお言葉です、ミゼお嬢様」



 俺は礼をしてその場を立ち去る。本来なら専属執事はメイドのフェイリスさんと同じように常にお側にいるべきなのだが、お嬢様はそれを認めてくれなかった。


 お嬢様に「私が男嫌いだと知った上で、それでもわたしのそばに居たい……そう言いたいの? そう。でも残念だけど、これ以上は私の心が持たないからダメよ」……そんな事を言われて押し切られてしまった、無念……。



「クソッ、このままじゃ落とされる可能性が高い。自分の父親でもある当主が任命した、俺の専属執事という役目を出会ってすぐ追い出すような人だぞ?」



 どうする? 何かしようにもお嬢様にとって不都合となる可能性があり、それで機嫌を損ねられるのはまずい。だが動かねば俺に待っているのは解雇だろう。



「この一週間の俺の働きを信じるしか無いな……」



 俺は自傷気味に1人で呟き、この一週間で1番大きな働きをしたと思われる出来事を思い出す。これでも合格に足るかは不安だが、仕方がない……。



***



「今日は下町に出かけるわ。フェイリス、シュルト、ついて来なさい」



 俺が専属執事になって4日目、お嬢様がまたいきなりワガママを言い出す。しかしその程度、貴族ならば大抵誰でも言う事は知っているので驚きはない。



「かしこまりました」



 そう適当に返しておくが正直面倒くさいなぁ……。と思いつつ、俺はお嬢様について行く。フェイリスさんは外に出ると一瞬だけ俺にお嬢様のことを任せると言い、馬車を取りに別行動を開始した。



「お嬢様、本日のご予定はいかがでしょうか?」


「特にないわ! 外に出たかったから言っただけよ。新しくシュルトも増えたんだし、別に良いでしょう?」



 確かに俺があれば人数的には安心度も上がるが、俺まだ10歳の子供なのに……。



「ふむ……では、最近新しくできて美味しいと評判のお店はどうでしょうか。平民でも手が出せるお値段のものから、裕福な商人や下級貴族の方々も出入りするとの噂があります。特にそこのパフェは我が国特産品のフルーツを贅沢に使った品との事です。ミゼお嬢様のお口にもさぞ合うことでしょう」



 俺はお嬢様を出来る限り近くの場所で安全が確保されそうな場所に誘導する。ここで変なところに行くと言われるよりはマシなはずだ。


 フェイリスさんが馬車を取って来てもらっているが、噂が本当なら客層的にも馬車を止める場所も近くにはあるだろう。



「そうね……じゃあそうしましょう!」



 お嬢様の一声で本日の行先が決定した。なお、フェイリスさんと話さずに決めたせいで睨まれた。


 でもお嬢様が決めた事だから不服そうな顔をしつつも了承をしていた。しかしこうしてポイント稼がないと雇ってもらえないしこの一週間は勘弁してくれ……。


 そして俺とお嬢様とフェイリスさんの3人はパフェが美味しいと噂の店へと馬車で移動していた。フェイリスさんが御者をしているので、必然的に俺とお嬢様が同じ空間に存在することになる。


 フェイリスさんが俺を今にも射殺さんとばかりに睨んでいた。それとは対照的にお嬢様は心なしか喜びの表情を浮かべているように見える。


 そんなにパフェが楽しみなのだろうか? それよりも、男嫌いのお嬢様が俺と同じ空間にいて大丈夫なのかも心配だが……ヤバければ最悪フェイリスさんと変われば良いか! お嬢様も必死になって慣れようとしてるってことだろうし……な!



「……シュルト、少し暇だから、私の話し相手になりなさい」



 お嬢様は窓の外を眺めてそっぽを向いていたが、意を決したようにそう言ってきた。おぉっ! お嬢様が距離を詰めてきたぞ! 多分向こうも緊張しているだろうに……。



「かしこまりました。何なりとお話しくださいませ。ミゼお嬢様の専属執事の私が、幾らでも話し相手となりましょう」


「ふ、ふん、そんなの当然だわ……」



 お嬢様は俺の言葉にも動揺せず、当たり前のようにそう言い放つ。くっそ、なんか腹立ってきた! でもこれも給料のため、我慢だ我慢!



「……シュルト、私ね……こん──」



 お嬢様が少しだけ声のトーンを落として、何かを伝えようと口を開く。そのふとした瞬間に、馬車の窓からキラリと光る物が見えた。一瞬しか見えなかったが、あれは間違いなく……金貨だった!



「止めてください!」



 全くあんな所に金貨が落ちているとは……! 急いで拾わねば! そう思いとっさに馬車を止めるように告げてしまった。理由を知られればお嬢様に殺されるだろうことに、俺は後で気づく。



「うおっ!?」


「きゃあっ!?」



 突然の急ブレーキが発生する。俺の掛け声のせい!? そう考えていると、お嬢様が俺を押し倒すように吹っ飛んでくる。


 危ない! 俺はお嬢様が怪我をしないように抱きしめる。全く、万が一怪我をされれば俺の落ち度になるからな。そうすれば伯爵家からは良くて減俸。普通に首が飛ぶ……!



「シュルト、助かったぞ。今ちょうど子供が飛び出てきた所だ。良く察知できた!」



 え……嘘〜っ!? 外で馬車を運転していたフェイリスさんの声を聞き、俺は内心でそう思った。



「と、当然です。お嬢様、お怪我はありませんでしたか?」



 俺は『何という偶然だ』と安堵しながら尋ねる。俺が受け止めたから多分大丈夫そうに見えるけど、これで万が一のことがあれば……。



「え、えぇ……シュルトが優しく受け止めたんだもの。傷一つないわ」


「それは大変良かったです。ミゼお嬢様に何かあれば、私も大変心を痛めますので」



 給料が減れば俺の心はズタボロだからな!



「……って、ち、近いわよっ!?」



 冷静になったお嬢様に俺は平手打ちを喰らわされた。痛い! ……まぁ、お嬢様が怪我をするよりはマシだ。


 それよりもやっぱりまだ男嫌いは健在か。同じ馬車に乗ったのだから解消されている可能性も考えていたが……。



「あ、それよりも子供よ。大丈夫かしら……?」



 何故か少し顔を赤らめたお嬢様が、フェイリスさんの言っていた外の子供を心配する様子を見せる。



「私が見て参ります。お嬢様は馬車の中に。誰か知らない人が入ってきたらすぐにお声を」


「わ、分かってるわ」



 俺はお嬢様にそう告げて馬車から降りる。当然腰には剣を下げている。俺は執事兼護衛だからな。ちゃんと伯爵家の騎士団長からある程度の手解きは教えてもらっている。


 外には人が溢れていた。軽い騒ぎになっているな。外に飛び出した子供を発見する。推定5歳の幼女。ボロい布切れ一枚を着ているだけ。


 ……スラム育ちの子だ。このような城下町にいるにはあまりに不自然。偶然ではないだろう。となれば今回の出来事の目的も自ずと見えてくる。



「フェイリスさん、馬車の入り口を守ってください」


「シュルト、一体何を……いや、ミゼお嬢様のことは任せろ」



 フェイリスさんは一瞬だけ戸惑いを見せたが、すぐにある程度の予想をつけたのか冷静に俺の言うことを聞いてくれた。


 さてさて、伯爵令嬢の乗る馬車に、スラムの子供が飛び出してきて足止め。人数はお嬢様と俺とフェイリスさんの3人だけ。……確実に狙われているな。


 ……よし、お小遣いの稼ぎ時だぁぁぁぁぁ!!!!


 いや〜、久しぶりだ! ゴロツキ? 暗殺者? 盗賊? 何かは知らんが緊急事態の際は追加のボーナスが出るんだよな! ついでに指名手配もされてたら討伐代もでるし一石二鳥!


 どこに潜んでいる? いや、剣を持ってる俺が離れるのを待っているのかもしれないな。それにお嬢様の心配していた子供の方も、怪我がないかを確かめなければ……。



「大丈夫? 怪我はないですか?」


「……あっ、えと……」



 幼女は震えて何も言わない。一見怯えて何もできないように見えるが違うな。おそらくできる限り時間稼ぎをするように命じられている。


 そして揺れ動く視線が、全てを示している。何回も同じ場所を見ている。なるほど俺の右背後にいるのか。急いで振り返る。



 次の瞬間、ガシャンッ! とガラスの割れる音が辺りに響き渡る。それと同時に石が馬車の窓へと投げ込まれ、再度割れる音が鳴る。



「きゃあぁぁっ!」



 甲高くるうるさい女性の声が響き、それに呼応して人混みが割れる。そこから黒装束の者が颯爽と現れ、馬車へと向かって一直線に走る。


 ピィーーッ! と笛の音が鳴る。一瞬だが黒装束の者の動きが止まりこちらを視認する。一瞬の足止めだ。俺は既に走り出している。


 その音を聞き、馬車からお嬢様が飛び出る。手には見掛け倒しとして短剣を手にしている。先程の笛はお嬢様に危険を知らせる道具だ。



「ミゼお嬢様、後ろです!」



 敵の位置を知らせ、もしもの時に肉壁となるフェイリスさんと共に敵を視認させる。黒装束からの奇襲に遭うことはなくなった。

 

 次に煙幕の出る球を取り出して投げる。煙は黒装束の男と馬車の間に溢れる。外だが風はあまりない。しかし煙が散るのは早いだろう。


 しかし、それだけあればお嬢様の前に立つことはできる。こちらからも向こうの動きが把握できないのは痛いが、お嬢様の側にいないと危険だからな。



「こい、絶対にミゼお嬢様は傷付けさせません!」



 クビになんてなりたくねぇからなっ!



「シュルト……」

 


 お嬢様が俺の名前を呼ぶ。そうだ、もっと俺に感謝しろ! そしてボーナスを増やすように両親を説得してくれぇぇぇぇ!!!


 そして煙の中を突っ切って現れる黒装束の者。だがその足はすぐに止まる。何故なら足元には撒菱まきびしを大量にばら撒いていたからだ。


 あのまま全力疾走で走っていたら足に刺さる可能性が高い。相手の動揺に動揺をさらに重ねさせる。


 それを確認してから前に出る。あらかじめ撒菱まきびしのばら撒かれた道をうまく通るルートを確認しておいたので、動きは結構スムーズだ。



「くっ!」



 近づく俺に向けて短剣を構える。俺の持つ剣の方がリーチは上だ。それを理解した黒装束の者は短剣を飛ばす。



「読めていれば造作もないですよ」



 短剣をそうするだろうと予測していた俺はなんなく対処する。



「はっ!」



 剣をねじ込むように捻りながら突き出す。こうした方が威力が上がるしな。剣は黒装束の者の体を貫く。鮮血が飛び散り剣の刃部分を流れる。


 俺は自分と辺りに飛び散らないように軽く血を落とす。あとで手入れしておかないとな。お嬢様についてはフェイリスさんが前に立ち、見えないようにしてくれている。


 黒装束の者についてだが……背後関係について聞き出すために生かすことも考えたが、そうするとその者が捕まってしまう可能性もある。そうなれば俺がボーナスを受ける機会を減らすことになる。それに手加減をしている余裕もなかった……。



「お嬢様、少しそこでお待ちを!」



 俺は黒装束の者が完全に動かなくなり、死んだことを確認してからお嬢様とフェイリスさんの2人にそう告げ、その場を少しだけ離れる。


 他にお嬢様を狙う敵が潜んでいる可能性は限りなく低い。敵を倒した直後という一番油断しやすいところを狙ってこなかったからな。


 なら、次に俺がするべき行動は一つだ。急げ! 急がないと、間に合わなくなる……! 俺はそう考えながら全速力で走った。そして……。



「どこだ!? 金貨は確かこの辺りに…………」



 先ほど見つけた金貨を探した。手加減なんてせずに急いだのに……!



「ちくしょお! 一足遅かったか!」



 俺の金貨ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!



***



 さてさて、思い出してもこんなぐらいしか役に立ってないぞ? 頼む! 俺を正式に専属執事として雇ってくれぇぇぇぇぇっっっ!!!



「シュルト、少し話がある」


「うぇっ!? ふぇ、フェイリスさん!?」



 そんなことを考えていると後ろから急に話しかけてきたフェイリスさんに俺は驚く。



「ミゼお嬢様のおそばに居なくてもよろしいのですか?」


「今は構わん。現在ミゼお嬢様と面会しているのは我が伯爵家騎士団の団長様だからな」



 おぉ! ゼノス騎士団長か! 俺の剣術を指南してくれたこともある。真っ直ぐで優しく、だが剣術も強い素晴らしい人だ。



「なるほど……それで、話とは一体? どこかに場所を変えましょうか?」


「いや、構わん。大してどうでも良いつまらない話だからな」



 な〜んだ、じゃあ適当に聞き流すか。早く言ってくれ。俺は今日拾った銅貨を早く磨きたいんだ。ピッカピカにしてやるぜ銅貨! 待ってろよ〜!



「シュルト、ミゼお嬢様は貴様を専属執事に正式に任命するとのことだ」



 へぇ〜…………ぇぇぇぇぇっっっ!?!?!? それめっちゃくちゃ重要な話じゃんっ!? 何が大してどうでも良くてつまらない話だよっ!? もう少しちゃんと聞きたかったぁぁぁーーっっっ!!!!!



「…………本当、なんですか?」


「はっ! いくら仕事を半分奪われたからとは言え、こんな嘘をつくほど私は落ちぶれていないぞ。……正直、会ったばかりの人間にミゼお嬢様のおそばに寄らせるのは抵抗しかない。……だが、貴様はミゼお嬢様の命を救ったのだ。少しぐらい譲渡はしよう……しかし、ミゼお嬢様の1番の理解者は私だ! それだけは絶対に譲らん!」



 フェイリスさんはそう言い残し、フワリとメイド服のスカートを翻しながら去っていった。…………え、俺、受かったのか? つまり……これからもお金がたくさんもらえるってことかっ! やったぁぁぁっ!!!


 拳を握りしめて俺は小走りで屋敷の中を駆け抜けていった。そして……。



「お呼びでしょうか? 当主、ハルバート・フォン・クロイツ様」



 俺は伯爵家当主であり、ミゼお嬢様の父親でもあるハルバートさんと面会をしていた。ハルバートさんは綺麗に整えられ髭を生やし、それに相手を威圧できる威厳のある強面をこちらに向けてくる。


 また、ハルバートさんは俺をミゼお嬢様の専属執事に任命した張本人でもある。いわば俺の人生の恩人の言っても過言ではないだろう。



「シュルトよ。君が専属執事となって一週間だな。娘はどうだ?」


「才色兼備、容姿端麗、成績優秀などなど、私ごときの言葉だけでは伝えきれない、とだけ申し上げます」


「ふむ……。何も問題はないかな? もちろんそれは娘本人のことだけではなく、専属メイドのフェイリスについてでも構わんよ?」


「御当主様の慧眼に狂いなどございません。皆が一様に素晴らしく優秀で、大変有意義な毎日を働き過ごしております」



 はぁ、とりあえず話を合わせてるけど、呼び出した理由ってこれか? ならさっさと終わって欲しいもんだな。



「ふむ、君は聞いていた通り……いや、それ以上に優秀だとすぐに理解できる受け答え、また立ち振る舞いや作法だね」


「もったいなきお言葉です」



 おぉ、誉めてくれてる!? ってことは何かしらボーナスでも出るのか? この前黒装束の賊を殺した報奨金も近々入ってくる予定だし、明日はお金を磨く時間が多くかかりそうだな!



「さて、社交辞令はこのくらいにして、本題に入ろう。……君が殺した賊についてだ」



 おぉ、やはり賊についてだな。倒した俺に報奨金が出る可能性も高くなって来たぞ!



「なんでも騎士団長のゼノスが言うにはだな、君の実力ならば不殺を目的とした捕縛をできる程度と聞いたのだが?」



 あれ? この流れおかしいぞ?



「つまり君は、私の娘がこれからも危険な目にあうかもしれないのに、情報を吐き出すこともなく殺してしまったというわけになる」



 待って? 待って待って!? ストップして!



「我が伯爵家に不要な労力を割かせることになったわけだが……何か釈明はあるかね?」


「……いえ、全くございません」


「だよね……一言で言おう」



 首だけは勘弁してくださぁぁぁぁぁいっっっ!!!!!



「減俸だ」



 あぁぁぁぁぁああっぁぁっ!?!?!?



 こうして俺は減俸を言い渡された。それでもお嬢様(お金)のため、シュルトはこれからもお嬢様(お金)のために働く事になる。

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守銭奴執事は今日もお嬢様(金)のために働く どこにでもいる小市民 @123456123456789789

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