スライム実は強かった!? ゴブリン実は強かった!? が冒険者たちの最近の認識らしいが、いくら羽付きトカゲ呼ばわりされてるとはいえワイバーンが雑魚みたいな認識はおかしいと思う

どこにでもいる小市民

第1話

 草木が生い茂り、魔物や獣1匹見当たらない草原。そこに1匹のワイバーン、つまり俺がいた。


 うめぇ! この肉うめぇ!


 俺はそう思いながら、今日も狩りをして手に入れた獲物の肉を貪り食っている。

 口の周りや歯の隙間には血肉が付いていた。でも湖でも見つければそこで落ちる……と言うわけではないが、マシにはなる。


 そう言えばこれなんの肉だっけ? 辺りを見渡すと、金属鎧などを着た血塗れの人間や人骨が数体散乱していた。……やべ、人肉だったわ。


 ……別に俺は人肉が好きなわけじゃないぞ。ただ向こうから「いたぞ、ワイバーンだ!」とか「羽付きトカゲごとき楽勝だぜ!」とか「スライムやゴブリンより弱いとかww」とか言いながら向かってくるから仕方がなく倒して喰ってるだけなんだよ。


 全く命を粗末にしやがって。てか仮にも竜の俺がなんでそんなゴブリンやスライム以下の扱いになってんだ……?


***


 次の日、その俺よりも強いとか呼ばれてるゴブリンの村を発見した。立派な羽を使い上空を飛んでいたが、旋回して急降下。

 翼を地面に向けて羽ばたかせてブレーキをかけて降り立つ。



『うわぁぁぁああぁぁぁ?!?』


『ワ、ワイバーン!?』



 周りのゴブリンたちが自分の木造の家へと避難する。おい、それぐらい俺でも壊せるんだぞ。やっぱ俺のこと舐めてるだろ。



『あ、あの……ワイバーン、様が一体我々になんの御用でしょう?』



 そう言って出て来たのは年老いたゴブリンだった。おそらくこの村の村長とかみたいな存在だろう。



『質問だ。……なぜ人間はお前たちゴブリンや、ブヨブヨしてるだけのスライムを恐れる? 逆にこの巨体、空を飛ぶ機動力の高い羽、鋭い牙や爪、鉄すら弾く鱗を持つ俺たちワイバーンを雑魚呼ばわりする?』



俺はそう質問した後に『そういえば腹減ったな……(チラッ)』って言ったら、快く喋ってくれた。


 まぁ、何というか最近現れる転生者と呼ばれる存在のせいらしい。


何でも奴ら「ゴブリンを侮るな! 残忍さを持ち、数も多い! めっちゃ危険だ!」など言っているらしい。


スライムの方も同じで「奴の液体に物理攻撃は一切効かない! 離れろ、体に張り付かれたら穴という穴から体の中に入り込まれ、顔なら窒息死だ!」と言っているらしい。


 ……いや、ゴブリンとスライム過大評価されすぎじゃねっ!? スライムに至っては詐欺だよ詐欺! そんなチート生物じゃねぇっつうの!



『……それで、なぜ俺たちは侮られるのだ?』



 とさらに尋ねると、早口で答えられた。なんでもその転生者が「ワイバーン(笑)? あんな羽付きトカゲ、ワンパンだよワンパン。どうせ見た目のインパクトだけの出落ちキャラ。1話でなろう主人公にボコられる程度なんだからさっ!」って言ってるらしい。


 ……とりあえずその転生者とかいうやつぶっ殺していいかな? つかなろう主人公ってなんだよ、誰だよそいつ!



『そうか、こいつはお礼だ』



 俺はそう言って自分の古い鱗を何枚か置いて帰った。いや〜、太っ腹すぎたかな?



『……これ、最近はゴブリンの牙よりも相場安かったはず……いらないなぁ』



 俺は怒りに任せてゴブリンの村を滅ぼした。


***


 とある日。人族の男がやってきた。



「ワイバーン、覚悟! はあぁぁぁああっ!」


パクリッ! バリボリバリボリ! ゴクンッ。



 ふぅ、寝るか……。俺は何事もなかったかのように人を1人食べ、その後寝た。……いやこれニートやんけ!?


 まずい、非常にまずい! 人肉の味についてじゃねぇぞ。最近の生活リズムがまずすぎる! だって『寝てる→人族が襲ってくる→食べる→寝る→寝てる』の無限ループなんだけど!?


 ……よし、このままじゃ竜としてダメになりそうだから……働こう! あ、働くと言っても仕事じゃないぞ。


 竜にとっての仕事は地域の見回りだ! そこら辺をブラブラと飛んで、適当に魔物同士のイザコザを無理やり解決したりするんだよな。


 え、何でそんなメリットのないことをするかって? ばっかだなぁ、メリットがあるからやるに決まってんじゃん!


 良いか、獲物同士が潰し合ってたら俺たちに利益がないじゃん。だから俺が喧嘩両成敗の精神で両方食べちゃってんの!


 喧嘩も無くなるし、俺もお腹膨れるしWIN-WINの関係だよなっ! 



『よう、久しぶりだなワイバーン』


『その声は……地竜じゃん。どしたの?』



 そんな方を考えていると、地面を掘って俺の下から地竜が現れた。


 こいつら、地面掘ってばかりの脳筋だからモグラゴンとか馬鹿にされてんだよなっ! ダッセェ! ……おい、誰だ今羽付きトカゲって言ったやつ!



『覇竜様から全竜種に連絡だそうだ。近いうち、勇者とか呼ばれる転生者の軍団が攻めてくるらしい。俺たちも招集だとよ』



 転生者!? あいつらが俺たちを馬鹿にしたやつらかっ! ぶっ殺してやる!!! ……ん、今勇者って言った?

 確か先代覇竜や邪竜、竜王を倒したって言うあの……?



『……聞かなかったことにして良いよな?』


『ダメに決まってんだろっ!? とにかくちゃんと伝えたからなっ! 来いよ!? 絶対に来いよ!?』


『分かった分かった、行かねぇよ』


『いや来いって!?』


『……行けたら行くわ』


『それ結局来ねぇやつじゃねぇか!?』



 ちっ、上司からの命令じゃ逆らえねぇ。仕方がないから出来る限り隅の方で一般兵士とチマチマ戦って時間を稼ごう。


 そして負けたら即離脱。勝ってたら先陣を切る! 完璧だっ!



『ちゃんと来いよな?』


『おけおけ〜』



 そんな会話で地竜と別れた俺は、現実逃避をするかのように二度寝を始めた。


***


 俺は今、全力で決戦の地へと向かっている。なぜか? 起きたら寝過ごしてたんだよっ!


 ちくしょお、誰か呼びに来てくれよっ! ……そんな友達いなかった……。


 遅れてたどり着くと、そこには火竜とか水竜とか雷竜とかの血とか肉片とかいっぱいある! もちろん人間もいっぱいだぜ?


 そしてしばらく飛んでいると、覇竜様の死体を発見した。うわっ、やられてんじゃん覇竜様……いや、覇竜! ふむ、まるで屍のようだ……まぁ、屍なんだけどねっ!?


「ぐっ、はっ……ワイバーン?」


 そんなくだらないことを考えていると、目の前に超豪華そうな鎧を着た人間がいた。明らかに瀕死状態だが、覇竜を倒したのはこの男で間違い無いだろう。


 ……よしっ、俺がこいつを倒したことにしよう! 最低限の名誉は守られるだろうし、ここまでにしてくれた覇竜はあの世行き、死人に口無しだなっ! サンキュー!



「わ、私は……姫と結婚するために……勇者として、生きて、かえっーー」


パクリ、ムシャムシャっ! ゴクンッ!



 やっぱ若いからか柔らかいなっ! そこらへんの人肉よりはうまいっ! なんか言ってたけど俺には別に関係ないよね?



ペッ!!!



 よ〜し、こいつが付けてた防具を今生きてる一番偉いやつに提出すれば大丈夫だろ。


***


 一年後。俺はなんかめっちゃいかつい感じの洞窟に籠もっていた。隣には伝達役だった地竜もある。



『まさかお前が次の覇竜を名乗るとはな、ワイバーン』


『あぁ、本当になっ!!!』



 ……どうしてこうなった!?!?!? 俺は1匹の人間食べただけなのにっ! まさかあれが勇者だなんて思わないじゃんっ!


 なんか防具提出したら邪竜に呼ばれて次の覇竜認定されたんだけどっ!? 


『なりたくてなったわけじゃねぇよっ! あれ以降攻めてくる人間の多いこと多いこと! ちくしょおっ! 俺はやっぱりクッチャネ生活のニートが良いんだぁぁぁぁぁっっっ!!!』



 スライム実は強かった!? ゴブリン実は強かった!? が冒険者たちの最近の認識らしいが、いくら羽付きトカゲ呼ばわりされてるとはいえワイバーンが雑魚みたいな認識はおかしいと思う。


 でもそれ以上に……。


 覇竜と呼ばれるのはもっとおかしいと思う!!!

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